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第21話 離れる時間が、距離を測る
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第21話 離れる時間が、距離を測る
出発の朝は、思った以上に早かった。
城門前には、簡素な視察隊が整列している。
大げさな見送りはない。クロードの流儀だ。
「準備はいいか」 「ええ。留守のことは、お任せください」
セレナは、いつも通りの声で答えた。
いつも通り――の、つもりだった。
クロードは、馬上から彼女を見下ろす。
ほんの一瞬、言葉を探す間があった。
「……無理はするな」 「同じ言葉、昨日もいただきましたわ」 「重要だからだ」
短いやり取り。
それで十分なはずなのに。
「では」 「はい。お気をつけて」
踵を返す前、クロードは小さく付け足した。
「戻ったら……話を聞かせてくれ」 「ええ。たくさん」
その一言で、彼は出発した。
***
城門が閉じ、蹄の音が遠ざかる。
静かだ。
いつもより、少しだけ。
(……静かすぎますわね)
セレナは、深く息を吸い、業務に戻った。
執務補佐への指示、孤児院からの報告、城下の要望。
やることは、山ほどある。
――それでも。
昼。
書類に目を落としながら、ふと顔を上げてしまう。
(……今頃、どこまで進んでいるかしら)
地図が頭に浮かぶ。
無意識だった。
***
夜。
一人で取る夕食。
味は、いつもと同じ。
なのに、なぜか――
(……薄い?)
違う。
味覚ではない。
“共有”が、ない。
***
数日後。
クロードからの報告書が届いた。
端正な筆跡。要点だけ。
――
第一視察地、問題なし。
水路改修、予定通り。
住民の反応、良好。
――
追伸は、ない。
それなのに。
(……ちゃんと、無事ですね)
セレナは、書類を胸に抱きしめそうになって、慌てて手を離した。
(何をしているんですの、私は)
***
一方、その頃。
クロードは、仮宿の執務机で報告を書いていた。
周囲は慌ただしい。だが、頭の片隅が落ち着かない。
(……静かすぎる)
城にいた頃と、同じ感想。
報告書を書き終え、ふとペンを止める。
(書き足すことは……ない)
業務上は、ない。
だが――
(……今日の城は、どうだった)
それは、報告事項ではない。
それでも、気になる。
彼は、結局、短い追伸を書き足した。
――
追伸:
城の様子は、どうだ。
――
***
返事は、翌朝届いた。
――
問題ありません。
皆、落ち着いています。
孤児院の件、第二段階へ進みました。
それと……
朝の紅茶は、少し濃いめにしてみました。
――
クロードは、その一文で、なぜか肩の力が抜けた。
(……ああ)
(測れてしまったな)
距離は、物理的に離れた。
だが、感情は――
近いままだ。
***
セレナは、返事を出したあと、窓辺に立った。
(離れてみて、分かりました)
この静けさが、
“自由”ではなくなっていること。
夜空を見上げる。
(距離は、測るものではなく……)
(測れてしまうもの、ですわね)
クロードが戻るまで、あと数日。
その時間は、
長くも、短くもない。
ただ、確かだった。
二人の距離は、
離れても、変わらなかった。
出発の朝は、思った以上に早かった。
城門前には、簡素な視察隊が整列している。
大げさな見送りはない。クロードの流儀だ。
「準備はいいか」 「ええ。留守のことは、お任せください」
セレナは、いつも通りの声で答えた。
いつも通り――の、つもりだった。
クロードは、馬上から彼女を見下ろす。
ほんの一瞬、言葉を探す間があった。
「……無理はするな」 「同じ言葉、昨日もいただきましたわ」 「重要だからだ」
短いやり取り。
それで十分なはずなのに。
「では」 「はい。お気をつけて」
踵を返す前、クロードは小さく付け足した。
「戻ったら……話を聞かせてくれ」 「ええ。たくさん」
その一言で、彼は出発した。
***
城門が閉じ、蹄の音が遠ざかる。
静かだ。
いつもより、少しだけ。
(……静かすぎますわね)
セレナは、深く息を吸い、業務に戻った。
執務補佐への指示、孤児院からの報告、城下の要望。
やることは、山ほどある。
――それでも。
昼。
書類に目を落としながら、ふと顔を上げてしまう。
(……今頃、どこまで進んでいるかしら)
地図が頭に浮かぶ。
無意識だった。
***
夜。
一人で取る夕食。
味は、いつもと同じ。
なのに、なぜか――
(……薄い?)
違う。
味覚ではない。
“共有”が、ない。
***
数日後。
クロードからの報告書が届いた。
端正な筆跡。要点だけ。
――
第一視察地、問題なし。
水路改修、予定通り。
住民の反応、良好。
――
追伸は、ない。
それなのに。
(……ちゃんと、無事ですね)
セレナは、書類を胸に抱きしめそうになって、慌てて手を離した。
(何をしているんですの、私は)
***
一方、その頃。
クロードは、仮宿の執務机で報告を書いていた。
周囲は慌ただしい。だが、頭の片隅が落ち着かない。
(……静かすぎる)
城にいた頃と、同じ感想。
報告書を書き終え、ふとペンを止める。
(書き足すことは……ない)
業務上は、ない。
だが――
(……今日の城は、どうだった)
それは、報告事項ではない。
それでも、気になる。
彼は、結局、短い追伸を書き足した。
――
追伸:
城の様子は、どうだ。
――
***
返事は、翌朝届いた。
――
問題ありません。
皆、落ち着いています。
孤児院の件、第二段階へ進みました。
それと……
朝の紅茶は、少し濃いめにしてみました。
――
クロードは、その一文で、なぜか肩の力が抜けた。
(……ああ)
(測れてしまったな)
距離は、物理的に離れた。
だが、感情は――
近いままだ。
***
セレナは、返事を出したあと、窓辺に立った。
(離れてみて、分かりました)
この静けさが、
“自由”ではなくなっていること。
夜空を見上げる。
(距離は、測るものではなく……)
(測れてしまうもの、ですわね)
クロードが戻るまで、あと数日。
その時間は、
長くも、短くもない。
ただ、確かだった。
二人の距離は、
離れても、変わらなかった。
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