23 / 40
第23話 白い結婚、第三者が限界を迎える
しおりを挟む
第23話 白い結婚、第三者が限界を迎える
最初に限界を迎えたのは、当事者ではなかった。
「……もう、無理です」
そう呟いたのは、メイド長だった。
朝の給仕を終え、控え室に戻った瞬間、
彼女は壁に手をついた。
「何が、でしょうか」 若いメイドが恐る恐る尋ねる。
「公爵様と奥様です」 「……やっぱりですか」
全員、同時に深く頷いた。
***
――おかしいのだ。
同じ席で食事をする。
同じ時間に廊下を歩く。
声は低く、距離は保たれ、触れない。
だが。
「空気が……夫婦なんです」 「それも、かなり仲の良い」 「新婚では?」 「いえ、熟成型です」
誰かが言い切った。
「“白い結婚”って、
色の話じゃないんですね」
それが、決定打だった。
***
一方その頃。
セレナは、図書室で資料を整理していた。
集中している――つもりだった。
「……視線、多くありません?」
隣で書類を確認していたクロードが、低く言う。
「気のせいですわ」 「三人ほど、柱の影にいる」 「……気のせいではありませんわね」
二人は、同時にため息をついた。
(ついに、来ましたわね) (……来たな)
***
午後。
執務室に、珍しい顔ぶれが揃った。
宰務官、メイド長、近侍代表。
全員、神妙な面持ち。
「……それで?」 クロードが促す。
メイド長が、一歩前に出た。
「失礼を承知で申し上げます」 「許可する」 「ありがとうございます」
深く一礼してから、
彼女は、はっきりと言った。
「公爵様と奥様は、
本当に白い結婚なのですか」
沈黙。
数秒。
いや、十秒ほど。
セレナは、視線を落としたまま、静かに答えた。
「“白い結婚”とは、
外向けの呼称です」
場が、凍った。
「内側のことを、
第三者が判断する必要はありません」
その声は、穏やかだが――揺るがない。
クロードも、続ける。
「公爵家として、
婚姻に問題はない」
宰務官が、恐る恐る口を開く。
「……では」 「以上だ」
即終了。
誰も、反論できなかった。
***
会議室を出た後。
廊下で、メイド長が壁に額をつけた。
「……やっぱり」 「ですよね」 「これは、もう――」
近侍代表が、静かに宣言した。
「見守るしかありません」
異論なし。
***
その夜。
セレナは、自室で紅茶を飲んでいた。
少し考え事をしていると、ノック。
「……入っていいか」
クロードだった。
「どうぞ」
彼は、部屋の入口に立ったまま言う。
「今日の件だが」 「ええ」
「……迷惑だったか」 「いいえ」
即答。
「むしろ、楽でした」 「……楽?」
「誰かが“察してくれる”のは、
思った以上に」
セレナは、微笑んだ。
「安心します」
クロードは、しばらく黙ってから言った。
「……私もだ」
それ以上、踏み込まない。
だが、引かない。
この距離が、もう“二人の選択”になっている。
***
城の中では、噂が一つに収束しつつあった。
――白い結婚?
あれは、名前だけだ。
本質は、もっと深い。
そして。
当事者たちは、
それを否定しなかった。
第三者が限界を迎えた、その日。
白い結婚は、
“説明不要な関係”へと変わった。
---
最初に限界を迎えたのは、当事者ではなかった。
「……もう、無理です」
そう呟いたのは、メイド長だった。
朝の給仕を終え、控え室に戻った瞬間、
彼女は壁に手をついた。
「何が、でしょうか」 若いメイドが恐る恐る尋ねる。
「公爵様と奥様です」 「……やっぱりですか」
全員、同時に深く頷いた。
***
――おかしいのだ。
同じ席で食事をする。
同じ時間に廊下を歩く。
声は低く、距離は保たれ、触れない。
だが。
「空気が……夫婦なんです」 「それも、かなり仲の良い」 「新婚では?」 「いえ、熟成型です」
誰かが言い切った。
「“白い結婚”って、
色の話じゃないんですね」
それが、決定打だった。
***
一方その頃。
セレナは、図書室で資料を整理していた。
集中している――つもりだった。
「……視線、多くありません?」
隣で書類を確認していたクロードが、低く言う。
「気のせいですわ」 「三人ほど、柱の影にいる」 「……気のせいではありませんわね」
二人は、同時にため息をついた。
(ついに、来ましたわね) (……来たな)
***
午後。
執務室に、珍しい顔ぶれが揃った。
宰務官、メイド長、近侍代表。
全員、神妙な面持ち。
「……それで?」 クロードが促す。
メイド長が、一歩前に出た。
「失礼を承知で申し上げます」 「許可する」 「ありがとうございます」
深く一礼してから、
彼女は、はっきりと言った。
「公爵様と奥様は、
本当に白い結婚なのですか」
沈黙。
数秒。
いや、十秒ほど。
セレナは、視線を落としたまま、静かに答えた。
「“白い結婚”とは、
外向けの呼称です」
場が、凍った。
「内側のことを、
第三者が判断する必要はありません」
その声は、穏やかだが――揺るがない。
クロードも、続ける。
「公爵家として、
婚姻に問題はない」
宰務官が、恐る恐る口を開く。
「……では」 「以上だ」
即終了。
誰も、反論できなかった。
***
会議室を出た後。
廊下で、メイド長が壁に額をつけた。
「……やっぱり」 「ですよね」 「これは、もう――」
近侍代表が、静かに宣言した。
「見守るしかありません」
異論なし。
***
その夜。
セレナは、自室で紅茶を飲んでいた。
少し考え事をしていると、ノック。
「……入っていいか」
クロードだった。
「どうぞ」
彼は、部屋の入口に立ったまま言う。
「今日の件だが」 「ええ」
「……迷惑だったか」 「いいえ」
即答。
「むしろ、楽でした」 「……楽?」
「誰かが“察してくれる”のは、
思った以上に」
セレナは、微笑んだ。
「安心します」
クロードは、しばらく黙ってから言った。
「……私もだ」
それ以上、踏み込まない。
だが、引かない。
この距離が、もう“二人の選択”になっている。
***
城の中では、噂が一つに収束しつつあった。
――白い結婚?
あれは、名前だけだ。
本質は、もっと深い。
そして。
当事者たちは、
それを否定しなかった。
第三者が限界を迎えた、その日。
白い結婚は、
“説明不要な関係”へと変わった。
---
11
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です
唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に
「王国の半分」を要求したら、
ゴミみたいな土地を押し付けられた。
ならば――関所を作りまくって
王子を経済的に詰ませることにした。
支配目当ての女王による、
愛なき(?)完全勝利の記録。
選ばれなくてよかったと、今は思います
たくわん
恋愛
五年間の婚約を、一夜で破棄された。
理由は「家格の不一致」。
傷ついた翌朝、私は泣くのをやめて仕事着を着た。
王立文書院の渉外部職員として、今日も書類と向き合う。それだけでいいと思っていた。
出勤すると、一枚の張り紙があった。
新長官着任。エドワード・ヴァルツ・シュタイン侯爵。
昨夜の晩餐会で、遠くに座っていた「氷の侯爵」がそのまま上司になった。
彼は口数が少なく、笑わず、感情を見せない。
でも仕事の評価だけは正確だった。
「君の報告書は読みやすい」「渉外部はあの職員が要になっている」——誰かに選ばれたくて生きてきたわけではないのに、仕事を通じて初めて、自分の輪郭がはっきりしてくる気がした。
『婚約破棄されたので北の港を発展させたら
ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。
公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。
「真実の愛を見つけた」
そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。
王都から追い出され、すべてを失った――
はずだった。
アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。
しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。
一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが――
やがてすべてが崩れ始める。
王太子は国外追放。
義妹は社交界から追放され修道院送り。
そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。
「私はもう誰のものでもありません」
これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、
王国の未来を変えていく物語。
そして――
彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。
婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨
『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―
ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。
その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。
だが、思惑はことごとく空回りする。
社交界での小さな失態。
資金繰りの綻び。
信用の揺らぎ。
そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。
決して大事件ではない。
けれど積み重なれば、笑えない。
一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。
血筋とは何か。
名乗るとは何か。
国家が守るものとは何か。
これは、派手な復讐劇ではない。
怒号も陰謀もない。
ただ――
立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。
そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。
世界は静かに、しかし確実に動いている。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』
ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」
そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。
さらに王太子は宣言する。
「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。
履行履歴も整えず、契約も軽視し、
新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。
――ですが。
契約は宣言では動きません。
信用は履歴の上にしか立ちません。
王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、
やがて止まったのは王太子の未来でした。
自ら押した承認印が、
自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。
公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。
救済なし。
やり直しなし。
契約通りに処理しただけですのに――
なぜか王太子が廃嫡されました。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる