完璧すぎるので捨てられましたが、冷徹公爵と“白い結婚”したら元婚約者が先に壊れました

鷹 綾

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第23話 白い結婚、第三者が限界を迎える

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第23話 白い結婚、第三者が限界を迎える

 最初に限界を迎えたのは、当事者ではなかった。

「……もう、無理です」

 そう呟いたのは、メイド長だった。

 朝の給仕を終え、控え室に戻った瞬間、
 彼女は壁に手をついた。

「何が、でしょうか」  若いメイドが恐る恐る尋ねる。

「公爵様と奥様です」 「……やっぱりですか」

 全員、同時に深く頷いた。

 ***

 ――おかしいのだ。

 同じ席で食事をする。
 同じ時間に廊下を歩く。
 声は低く、距離は保たれ、触れない。

 だが。

「空気が……夫婦なんです」 「それも、かなり仲の良い」 「新婚では?」 「いえ、熟成型です」

 誰かが言い切った。

「“白い結婚”って、
 色の話じゃないんですね」

 それが、決定打だった。

 ***

 一方その頃。

 セレナは、図書室で資料を整理していた。
 集中している――つもりだった。

「……視線、多くありません?」

 隣で書類を確認していたクロードが、低く言う。

「気のせいですわ」 「三人ほど、柱の影にいる」 「……気のせいではありませんわね」

 二人は、同時にため息をついた。

(ついに、来ましたわね) (……来たな)

 ***

 午後。

 執務室に、珍しい顔ぶれが揃った。

 宰務官、メイド長、近侍代表。
 全員、神妙な面持ち。

「……それで?」  クロードが促す。

 メイド長が、一歩前に出た。

「失礼を承知で申し上げます」 「許可する」 「ありがとうございます」

 深く一礼してから、
 彼女は、はっきりと言った。

「公爵様と奥様は、
 本当に白い結婚なのですか」

 沈黙。

 数秒。
 いや、十秒ほど。

 セレナは、視線を落としたまま、静かに答えた。

「“白い結婚”とは、
 外向けの呼称です」

 場が、凍った。

「内側のことを、
 第三者が判断する必要はありません」

 その声は、穏やかだが――揺るがない。

 クロードも、続ける。

「公爵家として、
 婚姻に問題はない」

 宰務官が、恐る恐る口を開く。

「……では」 「以上だ」

 即終了。

 誰も、反論できなかった。

 ***

 会議室を出た後。

 廊下で、メイド長が壁に額をつけた。

「……やっぱり」 「ですよね」 「これは、もう――」

 近侍代表が、静かに宣言した。

「見守るしかありません」

 異論なし。

 ***

 その夜。

 セレナは、自室で紅茶を飲んでいた。
 少し考え事をしていると、ノック。

「……入っていいか」

 クロードだった。

「どうぞ」

 彼は、部屋の入口に立ったまま言う。

「今日の件だが」 「ええ」

「……迷惑だったか」 「いいえ」

 即答。

「むしろ、楽でした」 「……楽?」

「誰かが“察してくれる”のは、
 思った以上に」

 セレナは、微笑んだ。

「安心します」

 クロードは、しばらく黙ってから言った。

「……私もだ」

 それ以上、踏み込まない。
 だが、引かない。

 この距離が、もう“二人の選択”になっている。

 ***

 城の中では、噂が一つに収束しつつあった。

――白い結婚?
 あれは、名前だけだ。
 本質は、もっと深い。

 そして。

 当事者たちは、
 それを否定しなかった。

 第三者が限界を迎えた、その日。

 白い結婚は、
 “説明不要な関係”へと変わった。


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