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第27話 舞踏会、試されるのは視線
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第27話 舞踏会、試されるのは視線
王宮の大広間は、光に満ちていた。
水晶のシャンデリア。
磨き上げられた床。
視線、視線、視線。
――歓迎の拍手と同時に、
値踏みの沈黙が落ちる。
「……来ましたわね」 「ああ」
セレナは、クロードの腕にそっと手を添えた。
“演技として可能”な範囲。
それ以上でも、それ以下でもない。
だが。
(……見られていますわね) (……予想以上だ)
夫婦が仲睦まじいかどうか。
それを測るために集まった視線は、
触れ合いよりも、視線の往復を探していた。
***
音楽が流れ、
最初の挨拶が始まる。
「アイゼン公爵、
ご夫人もお美しい」
ありきたりな賛辞。
だが、その“次”が肝心だ。
セレナは、微笑み、
クロードを見る。
ただ、それだけ。
触れない。
寄りかからない。
けれど――
目線が、自然に合う。
クロードも、即座に応じる。
「妻が選んだ装いだ。
彼女の判断は、常に正しい」
ざわり、と空気が揺れた。
(……それ、褒めすぎでは) (……演技だ)
心の中で、同時に突っ込みを入れる。
***
次々と、貴族たちが近づいてくる。
「最近は、ご一緒にお過ごしとか」 「静かに、ですが」 「お二人とも、穏やかでいらっしゃる」
“穏やか”。
それは、疑いの言葉だ。
セレナは、ほんの一瞬、
クロードから視線を外し――
また、戻した。
「必要な時に、
必要な距離で」
それだけ言う。
説明しない。
弁明しない。
共有している視線が、
それ以上を語る。
***
音楽が変わり、
ダンスの時間。
逃げ場は、ない。
「……踊るか」 「ええ」
短いやり取り。
手を取る。
だが、指先は絡めない。
距離は、正確。
型通り。
それなのに。
(……近い) (……見られている)
周囲の視線が、
“演技”を剥がそうと集まる。
だが――
決定打は、別のところにあった。
セレナが、わずかに足を踏み外した瞬間。
クロードの手が、
反射的に彼女を支えた。
強くない。
引き寄せない。
ただ、
“当然の動き”。
セレナが顔を上げる。
クロードが、視線を落とす。
ほんの一拍。
音楽も、
囁きも、
すべてが遠のく。
――視線だけが、繋がった。
その一瞬で、
大広間の空気が変わった。
***
ささやきが、波のように広がる。
「……あれは」 「演技じゃない」 「慣れている」 「いや、
“気にしていない”」
誰かが、はっきり言った。
「本物の夫婦だ」
***
曲が終わる。
拍手。
クロードは、静かに言った。
「……約束は」 「守っています」
セレナは、小さく頷く。
「触れていません」 「……ああ」
それなのに。
(……試されたのは、
触れるかどうかではなかった)
(……視線だったな)
***
舞踏会の終盤。
王宮側の視線は、
もう“確認”ではなかった。
諦観だ。
セレナは、クロードの隣で思う。
(……外圧は、
静かな関係を許さない)
(でも)
(静かな関係ほど、
壊しにくい)
クロードも、同じことを考えていた。
触れない。
越えない。
だが。
視線だけで、
夫婦だと伝わってしまう関係は――
もう、否定しようがなかった。
---
王宮の大広間は、光に満ちていた。
水晶のシャンデリア。
磨き上げられた床。
視線、視線、視線。
――歓迎の拍手と同時に、
値踏みの沈黙が落ちる。
「……来ましたわね」 「ああ」
セレナは、クロードの腕にそっと手を添えた。
“演技として可能”な範囲。
それ以上でも、それ以下でもない。
だが。
(……見られていますわね) (……予想以上だ)
夫婦が仲睦まじいかどうか。
それを測るために集まった視線は、
触れ合いよりも、視線の往復を探していた。
***
音楽が流れ、
最初の挨拶が始まる。
「アイゼン公爵、
ご夫人もお美しい」
ありきたりな賛辞。
だが、その“次”が肝心だ。
セレナは、微笑み、
クロードを見る。
ただ、それだけ。
触れない。
寄りかからない。
けれど――
目線が、自然に合う。
クロードも、即座に応じる。
「妻が選んだ装いだ。
彼女の判断は、常に正しい」
ざわり、と空気が揺れた。
(……それ、褒めすぎでは) (……演技だ)
心の中で、同時に突っ込みを入れる。
***
次々と、貴族たちが近づいてくる。
「最近は、ご一緒にお過ごしとか」 「静かに、ですが」 「お二人とも、穏やかでいらっしゃる」
“穏やか”。
それは、疑いの言葉だ。
セレナは、ほんの一瞬、
クロードから視線を外し――
また、戻した。
「必要な時に、
必要な距離で」
それだけ言う。
説明しない。
弁明しない。
共有している視線が、
それ以上を語る。
***
音楽が変わり、
ダンスの時間。
逃げ場は、ない。
「……踊るか」 「ええ」
短いやり取り。
手を取る。
だが、指先は絡めない。
距離は、正確。
型通り。
それなのに。
(……近い) (……見られている)
周囲の視線が、
“演技”を剥がそうと集まる。
だが――
決定打は、別のところにあった。
セレナが、わずかに足を踏み外した瞬間。
クロードの手が、
反射的に彼女を支えた。
強くない。
引き寄せない。
ただ、
“当然の動き”。
セレナが顔を上げる。
クロードが、視線を落とす。
ほんの一拍。
音楽も、
囁きも、
すべてが遠のく。
――視線だけが、繋がった。
その一瞬で、
大広間の空気が変わった。
***
ささやきが、波のように広がる。
「……あれは」 「演技じゃない」 「慣れている」 「いや、
“気にしていない”」
誰かが、はっきり言った。
「本物の夫婦だ」
***
曲が終わる。
拍手。
クロードは、静かに言った。
「……約束は」 「守っています」
セレナは、小さく頷く。
「触れていません」 「……ああ」
それなのに。
(……試されたのは、
触れるかどうかではなかった)
(……視線だったな)
***
舞踏会の終盤。
王宮側の視線は、
もう“確認”ではなかった。
諦観だ。
セレナは、クロードの隣で思う。
(……外圧は、
静かな関係を許さない)
(でも)
(静かな関係ほど、
壊しにくい)
クロードも、同じことを考えていた。
触れない。
越えない。
だが。
視線だけで、
夫婦だと伝わってしまう関係は――
もう、否定しようがなかった。
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