完璧すぎるので捨てられましたが、冷徹公爵と“白い結婚”したら元婚約者が先に壊れました

鷹 綾

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第26話 外圧は、静かな関係を許さない

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第26話 外圧は、静かな関係を許さない

 嵐は、前触れなくやってくるものではない。

 ――静かに、
 礼儀正しく、
 「正論」の顔をしてやってくる。

「……舞踏会、ですか」

 セレナは、差し出された招待状に目を落とした。
 王宮印。評議会名義。

 文面は丁寧で、非の打ちどころがない。

――
公爵夫妻の近況を祝し、
正式な社交の場を設けたく存じます。
――

(祝う、ですって)

 紅茶の湯気が、ゆらりと揺れた。

 ***

 同席していたクロードは、
 すでに読み終えている。

「出席は、半ば強制だ」 「ええ。欠席すれば、“夫婦不和”を疑われますわね」 「出れば、“実態確認”をされる」

 どちらに転んでも、
 静かには済まない。

「……狙いは明白だ」

 クロードの声は、低い。

「白い結婚が、
 “見せかけ”なのかどうか」 「覗きに来る、というわけですね」

 セレナは、淡く笑った。

「品がありませんわ」 「王宮らしい」

 ***

 その日の午後。

 近侍と側近が集められた。

「噂が、動き始めています」 「どの方面だ」 「“アイゼン公爵夫妻は、
 近すぎて不自然”と」

 ――近すぎて、不自然。

(静かにしていると、
 “怪しい”になるのですから)

 セレナは、内心でため息をついた。

「舞踏会では、
 “分かりやすい夫婦像”を求められます」 「腕を組め、と」 「視線を交わせ、と」 「……触れろ、と」

 誰も口には出さないが、
 意図は同じだ。

 ***

 会議が終わり、
 二人きりになった執務室。

 セレナが、先に口を開いた。

「約束は、覚えています」 「……一線を越えない、という約束か」 「はい」

 彼女は、真っ直ぐにクロードを見る。

「だから、確認したいのです」 「何をだ」

「――どこまでが、
 “演技”でしょうか」

 クロードは、即答できなかった。

 それは、
 “外のための線”と
 “二人のための線”が、
 重なっていないからだ。

「……腕を組む」 「可能です」 「手を取る」 「演技としてなら」 「視線を合わせる」 「問題ありません」

 セレナは、冷静に答える。

「ですが」 「……?」

「二人きりの時と、
 同じにはしない」

 クロードの胸が、静かに締めつけられた。

「外の圧力に合わせて、
 内側を壊す必要はありません」

 その言葉は、
 彼を現実に引き戻す。

「……分かった」

 低く、しかし確かな声。

「舞踏会では、
 “夫婦として十分”に振る舞う」 「ええ」 「だが」 「……?」

「終わったら、
 必ず距離を戻す」

 セレナは、安堵したように微笑んだ。

「それで、十分ですわ」

 ***

 夜。

 それぞれの部屋へ戻る前、
 クロードが足を止める。

「……外圧は、
 今後も来る」 「承知しています」

「静かな関係は、
 疑われやすい」 「ええ」

 セレナは、穏やかに言った。

「でも――
 騒がしい関係より、
 よほど強いですわ」

 クロードは、
 その言葉を胸に刻んだ。

(……守るべきは)

(外向けの説明ではない)

(この“静かさ”だ)

 舞踏会まで、あと三日。

 外は、騒がしくなっていく。

 だが。

 嵐の前の静けさは、
 二人にとって“確認の時間”だった。


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