完璧すぎるので捨てられましたが、冷徹公爵と“白い結婚”したら元婚約者が先に壊れました

鷹 綾

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第30話 白い結婚、揺さぶられる内側

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第30話 白い結婚、揺さぶられる内側

 何も起きていない。
 ――外から見れば。

 王宮からの干渉はない。
 貴族社会も沈黙している。
 城は、平穏そのものだった。

 それなのに。

(……揺れていますわね)

 セレナは、自分の内側をそう評した。

 ***

 午前。

 執務補佐との打ち合わせは、順調だった。
 孤児院の第三段階計画も、問題なく進んでいる。

「公爵夫人の判断で、進めてよろしいでしょうか」 「ええ。想定通りです」

 即答。
 迷いはない。

 ――仕事に関しては。

(……あら)

 打ち合わせが終わった直後、
 セレナは、無意識にある人物を探している自分に気づいた。

(クロードなら、
 この報告をどう聞くかしら)

 思考が、自然に“共有”を前提にしている。

(……いけませんわね)

 名前をつけないと決めた感情が、
 生活の前提にまで入り込んでいる。

 ***

 一方、クロード。

 執務室で書類を確認しながら、
 同じ違和感を抱いていた。

(……報告を、聞かせたい)

 誰に?
 答えは、明白だ。

(……私は、
 いつからこうなった)

 合理性で生きてきた男が、
 理由のない“共有欲”を自覚する。

 それは、
 白い結婚の仕様には存在しない感情だった。

 ***

 夕刻。

 回廊で、二人は顔を合わせた。

「……今、お時間は」 「あります」

 言葉が、自然に重なる。

 短い沈黙のあと、
 セレナが言った。

「報告があります」 「……奇遇だな。私もだ」

 書斎へ向かう足取りは、
 無言でも揃っていた。

 ***

 書斎。

 向かい合って座る。
 距離は、いつも通り。

「孤児院の件ですが」 「視察報告だ」

 互いに、簡潔に話す。
 必要なことだけ。

 だが。

(……終わらせたくない) (……まだ、ここにいたい)

 同時に、同じ感覚。

 セレナが、ふと口を開いた。

「……揺れています」 「……何が」

 言葉を選ばず、
 正直に。

「私の内側が」

 クロードは、視線を逸らさなかった。

「私もだ」

 短い答え。
 だが、重い。

 ***

「外圧ではありません」 「分かっている」

「距離を守っても」 「約束を守っても」

 二人、同時に言葉を止める。

「……均衡が、
 保てなくなりつつある」

 クロードが、低く言った。

 セレナは、ゆっくり頷いた。

「崩れているわけではありません」 「……だが」 「揺れている」

 それは、危機ではない。

 変化だ。

 ***

 沈黙。

 だが、逃げない。

「……もし」  クロードが、慎重に言う。 「この均衡を、
 維持できなくなったら」

 セレナは、即答しなかった。

 しばらく考え――
 そして、静かに言った。

「その時は」 「……?」 「また、話しましょう」

 逃げない。
 だが、急がない。

 二人が選び続ける、
 唯一の方法。

 クロードは、わずかに口角を上げた。

「……それが、一番危険で」 「一番、誠実ですわね」

 ***

 夜。

 それぞれの部屋。

 セレナは、ベッドに腰掛け、
 胸に手を当てた。

(揺れている)

(でも、
 壊れてはいない)

 クロードも、同じように深く息を吐く。

(……白い結婚)

(それは、
 もう“形式”ではない)

 均衡の上に立つ、
 意志の関係。

 だが。

 揺れは、止まらない。

 次に必要なのは、
 外からの圧でも、
 第三者の介入でもない。

 ――決断。

 それが、
 静かに、
 確実に、
 近づいていた。


---

次は
第31話「選ばなかった未来が、重くなる」
“このまま”を選ばない可能性が、初めて現実味を帯びてきます。
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