完璧すぎるので捨てられましたが、冷徹公爵と“白い結婚”したら元婚約者が先に壊れました

鷹 綾

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第40話 白くない結婚

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第40話 白くない結婚

 白い結婚は、終わった。
 けれど――
 何もない結婚では、なかった。

 ***

 朝。

 城は、いつもと変わらない一日を始めていた。
 鐘の音。
 廊下を行く足音。
 執務の気配。

 だが、セレナは分かっていた。

(……今日は、
 選ばないという選択が、
 できない日)

 それは予感ではない。
 積み重ねの帰結だった。

 ***

 クロードもまた、同じ感覚を抱いていた。

(……逃げ道は、
 もう残っていない)

 だが、それは恐怖ではなかった。

(選べる、
 という事実だ)

 ***

 昼前。

 二人は、書斎で向かい合っていた。
 距離は、これまでと同じ。

 触れない。
 越えない。

 だが――
 今日は、沈黙が長く続かなかった。

「……セレナ」  クロードが、静かに言った。

「はい」

 逃げない声。

「これまで」  彼は、言葉を選びながら続ける。 「私たちは、
 守るために距離を保ってきた」

 セレナは、頷く。

「ええ。
 それは、
 必要なことでした」

「だが」 「……?」

「今は」  クロードは、はっきり言った。 「距離を保つ理由が、
 なくなった」

 セレナの胸が、
 静かに震えた。

 ***

「白い結婚は」  セレナが続ける。 「私たちを、
 壊しませんでした」

 彼女は、まっすぐ彼を見る。

「むしろ」 「……?」 「選ぶ力を、
 残してくれました」

 それは、
 この物語の答えだった。

 ***

 クロードは、深く息を吸った。

「……私は」  言葉を、逃がさずに言う。 「君を、
 制度や必要性ではなく」

 一拍。

「自分の意思で、
 選びたい」

 告白だ。
 だが、重くない。

 逃げ場を奪わない、
 選択の提示。

 ***

 セレナは、すぐに答えなかった。

 それは、
 躊躇ではない。

 ――確認だ。

(私は、
 誰かに選ばれるのではなく)

(……選ぶ側で、
 ありたい)

 そして、
 彼女は口を開いた。

「……クロード」 「……」

「私も」  静かに、しかし確かに。 「あなたを、
 自分の意思で選びます」

 それは、
 依存でも、
 条件付きでもない。

 対等な選択。

 ***

 沈黙。

 だが、
 もう待つ沈黙ではない。

 クロードが、
 初めて一歩、近づいた。

 セレナは、
 退かなかった。

 触れる。

 初めて。

 指先が、
 確かに重なる。

 それだけ。

 それで、十分だった。

 ***

「……白くないですね」  セレナが、
 小さく笑った。

「……ああ」  クロードも、
 同じように答える。

「だが」 「……?」

「汚れてもいない」 「ええ」

 それは、
 誰かに決められた色ではない。

 自分たちで、
 選んだ色。

 ***

 夕刻。

 城下に、
 新しい噂が流れ始める。

「公爵夫妻、
 正式に関係を改めたそうだ」 「再婚?」 「いや……」 「“選び直した”らしい」

 人々は、
 勝手に言葉を作る。

 だが、
 それでいい。

 ***

 夜。

 二人は、同じ空を眺めていた。

 契約書は、まだない。
 式も、未定。

 だが。

「……急ぎませんわね」 「……ああ」

「選んだのは」 「……今日だから」

 それで、十分だった。

 白い結婚は、
 終わった。

 そして。

 白くない結婚が、
 静かに始まった。

 それは、
 燃え上がる愛ではない。
 だが、消えない。

 選び続ける覚悟と、
 選ばれ続ける意思。

 ――二人で選んだ、
 たった一つの結婚。

 ここに、
 物語は幕を下ろす。

 だが。

 二人の選択は、
 これからも、
 続いていく。

 完
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