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第三十九話 即位前夜
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第三十九話 即位前夜
王都は、不思議な静けさに包まれていた。
暴動もない。
祝祭の喧騒もない。
あるのは、整えられた街路と、迷いの消えた空気。
摂政体制のもとで数週間が過ぎた。
軍は再編され、諸侯騎士団は統一指揮系統の下に整列している。
補給は滞りなく流れ、市場の物価は安定を取り戻した。
税は予定通り集まり、帳簿は黒字に転じている。
王家が退いたことで混乱するはずだった国家は、逆に整った。
それが何よりの証明だった。
王城の儀式の間では、即位式の準備が進む。
宝冠は磨かれ、王杖は丁寧に布で包まれている。
王家の紋章はそのまま残されているが、その意味は変わった。
血統の証ではない。
国家の継続の証。
文官長が細部を確認する。
「諸侯席、配置完了」
「軍司令官、誓約文確認済み」
「教会代表、祝祷文に異議なし」
財務官が報告する。
「各地より祝意の書簡到着。反対声明、皆無」
それは圧力の結果ではない。
比較の結果だ。
王太子の愚行。
王家の空洞化。
軍の不作動。
財政の混乱。
すべてを経て、国は選んだ。
王城の一室。
公爵は窓辺に立ち、夜の王都を見下ろしている。
灯りは安定している。
あの混乱の夜とは違う。
「整ったな」
独り言のように呟く。
扉が静かに開く。
ヒロインが入る。
即位前夜であっても、華美な衣ではない。
落ち着いた礼装。
その表情に昂りはない。
「各地の報告は」
公爵が問う。
「軍、問題なし。市場、安定。諸侯、全員出席」
彼女の声は冷静だ。
王位は勝利ではない。
責任だと理解している。
公爵は振り返る。
父の顔ではない。
摂政の顔でもない。
一人の統治者としての視線。
「恐れはあるか」
問いは静かだ。
彼女は少し考え、首を振る。
「恐れより、重みを感じています」
玉座は軽くない。
だが空けておくこともできない。
王都の広場。
民が掲示板の前に集まる。
明日、新王即位。
ざわめきは穏やかだ。
「公爵家なら安心だ」
「軍も従っている」
「税も下がるらしい」
期待はある。
だが熱狂ではない。
それが安定の証。
王城の塔から、空の玉座が見える。
そこに座る者は、明日決まる。
公爵は最後に言う。
「王家は退いたが、国は続く」
ヒロインはうなずく。
「ええ。過去を否定しません。ですが、繰り返しません」
夜は深まる。
鐘は鳴らない。
静かな時間が流れる。
革命は剣で成し遂げられなかった。
文書と責任と選択で進んだ。
明日、玉座は空席ではなくなる。
血は流れていない。
だが歴史は動いた。
即位前夜。
国は、迷いを終えた。
王都は、不思議な静けさに包まれていた。
暴動もない。
祝祭の喧騒もない。
あるのは、整えられた街路と、迷いの消えた空気。
摂政体制のもとで数週間が過ぎた。
軍は再編され、諸侯騎士団は統一指揮系統の下に整列している。
補給は滞りなく流れ、市場の物価は安定を取り戻した。
税は予定通り集まり、帳簿は黒字に転じている。
王家が退いたことで混乱するはずだった国家は、逆に整った。
それが何よりの証明だった。
王城の儀式の間では、即位式の準備が進む。
宝冠は磨かれ、王杖は丁寧に布で包まれている。
王家の紋章はそのまま残されているが、その意味は変わった。
血統の証ではない。
国家の継続の証。
文官長が細部を確認する。
「諸侯席、配置完了」
「軍司令官、誓約文確認済み」
「教会代表、祝祷文に異議なし」
財務官が報告する。
「各地より祝意の書簡到着。反対声明、皆無」
それは圧力の結果ではない。
比較の結果だ。
王太子の愚行。
王家の空洞化。
軍の不作動。
財政の混乱。
すべてを経て、国は選んだ。
王城の一室。
公爵は窓辺に立ち、夜の王都を見下ろしている。
灯りは安定している。
あの混乱の夜とは違う。
「整ったな」
独り言のように呟く。
扉が静かに開く。
ヒロインが入る。
即位前夜であっても、華美な衣ではない。
落ち着いた礼装。
その表情に昂りはない。
「各地の報告は」
公爵が問う。
「軍、問題なし。市場、安定。諸侯、全員出席」
彼女の声は冷静だ。
王位は勝利ではない。
責任だと理解している。
公爵は振り返る。
父の顔ではない。
摂政の顔でもない。
一人の統治者としての視線。
「恐れはあるか」
問いは静かだ。
彼女は少し考え、首を振る。
「恐れより、重みを感じています」
玉座は軽くない。
だが空けておくこともできない。
王都の広場。
民が掲示板の前に集まる。
明日、新王即位。
ざわめきは穏やかだ。
「公爵家なら安心だ」
「軍も従っている」
「税も下がるらしい」
期待はある。
だが熱狂ではない。
それが安定の証。
王城の塔から、空の玉座が見える。
そこに座る者は、明日決まる。
公爵は最後に言う。
「王家は退いたが、国は続く」
ヒロインはうなずく。
「ええ。過去を否定しません。ですが、繰り返しません」
夜は深まる。
鐘は鳴らない。
静かな時間が流れる。
革命は剣で成し遂げられなかった。
文書と責任と選択で進んだ。
明日、玉座は空席ではなくなる。
血は流れていない。
だが歴史は動いた。
即位前夜。
国は、迷いを終えた。
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