永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

文字の大きさ
39 / 39

第40話 永遠の十七歳は、今日も笑う

しおりを挟む
第40話 永遠の十七歳は、今日も笑う

 王城大広間は、人で埋め尽くされていた。

 貴族、騎士、聖職者、商人、そして城下から集まった民衆。
 誰もが息を潜め、玉座前の演壇を見つめている。

 重い扉が閉じられ、ざわめきが静まった。

     ◆ ◆ ◆

 玉座の前に立ったのは、若き国王アルフェリット・ロワイヤル。

 彼は一歩前に出て、はっきりと宣言した。

「――これより、国王として、国民に真実を語る」

 空気が張り詰める。

「近年、帝国使節の来訪、噂の拡散、不穏な動きが相次いだ。
 その中心にいた人物について、憶測が飛び交っている」

 視線が、自然と広間の一角へ向かう。

 そこに立つ少女――
 イソファガス家の令嬢、キクコ・イソファガス。

     ◆ ◆ ◆

「彼女は、不老であるか」

 一瞬、ざわめきが走る。

 アルフェリットは、間を置いて続けた。

「――その問いに、私は答えない」

 広間がどよめいた。

「なぜなら、それは国家が裁くべき問題ではないからだ」

     ◆ ◆ ◆

「重要なのは、彼女が“何者か”ではない。
 “何をしてきたか”だ」

 アルフェリットは、力強く言い切った。

「三百年前から、この国が幾度も滅びの瀬戸際に立ったとき。
 名もなく、功績も語られず、ただ“被害が出なかった”という結果だけが残った」

「その裏にいた者がいる」

     ◆ ◆ ◆

「それが、キクコ・イソファガスだ」

 広間が、静まり返った。

「彼女は、聖女と呼ばれたこともあった。
 魔女と罵られた時代もあった」

「だが私は、王として断言する」

     ◆ ◆ ◆

「――彼女は、この国の敵ではない」

 はっきりとした声。

「むしろ、この国がここまで続いてきた理由の一つだ」

     ◆ ◆ ◆

 沈黙。

 次いで、ぽつりと――
 誰かが拍手をした。

 一人、また一人。

 やがて、大広間は拍手に包まれた。

 称賛でも、信仰でもない。
 理解しようとする、音。

     ◆ ◆ ◆

 アルフェリットは、最後にこう告げた。

「彼女は象徴ではない。
 神でも、道具でも、見世物でもない」

「――ただの一人の人間だ」

     ◆ ◆ ◆

 演説が終わり、人々が退いていく。

 控えの間で、キクコは壁にもたれ、深く息を吐いた。

「……あー、疲れた」

「お疲れ様」

 隣に立つアルフェリットが、少し照れたように言う。

「言い切ったわね。
 “不老かどうか答えない”なんて」

「君が決めた条件だ」

「そうだけど」

 キクコは、ふっと笑った。

「案外、悪くなかったわ」

     ◆ ◆ ◆

「ねえ、アルフェリット」

「何だ」

「後悔してる?」

 彼は、即答した。

「していない」

「即答はズルいわ」

「王の特権だ」

「暴走君」

「自覚している」

     ◆ ◆ ◆

 キクコは、少しだけ空を見上げた。

 三百年、生きてきた。
 隠れ、別れ、守り続けた。

 けれど今日、初めて――
 “並んで立つ”という選択をした。

「……まあ、いいわ」

 扇子を開き、いつもの笑みを浮かべる。

「永遠の十七歳でも、
 たまには、未来を選んだっていいでしょう?」

 アルフェリットは、静かに頷いた。

     ◆ ◆ ◆

 こうして。

 永遠の十七歳は、
 神にも魔女にもならなかった。

 王の妃になるかどうかも、まだ決めていない。

 ただ――
 今日もこの国のどこかで、紅茶を飲み、笑っている。

 それで十分だと、
 彼女自身が、初めて思えたのだから。


--
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です

唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に 「王国の半分」を要求したら、 ゴミみたいな土地を押し付けられた。 ならば――関所を作りまくって 王子を経済的に詰ませることにした。 支配目当ての女王による、 愛なき(?)完全勝利の記録。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので

ふわふわ
恋愛
「婚約破棄? ……そうですか。では、私の役目は終わりですね」 王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、 国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢 マルグリット・フォン・ルーヴェン。 感情を表に出さず、 功績を誇らず、 ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは―― 偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。 だが、マルグリットは嘆かない。 怒りもしない。 復讐すら、望まない。 彼女が選んだのは、 すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。 彼女がいなくなっても、領地は回る。 判断は滞らず、人々は困らない。 それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。 一方で、 彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、 「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。 ――必要とされない価値。 ――前に出ない強さ。 ――名前を呼ばれない完成。 これは、 騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、 最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。 ざまぁは静かに、 恋は後半に、 そして物語は、凛と終わる。 アルファポリス女子読者向け 「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。

婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。

テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……

処理中です...