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第四話 王太子の勝利宣言
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第四話 王太子の勝利宣言
「やはり、これで正しかったのだ」
王宮の大広間。
昨日まで婚約者だった女の名がまだ空気に残る中で、アルヴァリオは満足げにそう言った。
彼の前には、重臣たち。
そして、まだ赤い目をしたセシル。
「殿下……本当に、よろしいのですか」
老宰相が慎重に問う。
「公爵家との関係は、国政において極めて重要です」
アルヴァリオは鼻で笑った。
「重要なのは俺だ」
重臣たちの顔が固まる。
「国は王家のものだ。公爵家がいなくとも回る」
そう言い切る声は、妙に軽い。
彼はまだ知らない。
“回っていた”のは、誰のおかげだったのか。
「ヴェルミリアは優秀だった」
アルヴァリオは続ける。
「だが冷たい。愛がない。俺は愛ある統治をする」
セシルが小さく顔を上げる。
「殿下……」
「心配するな、セシル。お前を泣かせる者は、もういない」
彼女の手を取り、力強く握る。
それを見守る貴族たちの視線は、どこか落ち着かない。
「殿下、南方開発の件ですが……」
若い官僚が恐る恐る口を開く。
「資材が止まっております」
「公爵家の嫌がらせだ」
即答だった。
「すぐに再開させろ」
「ですが、承認印が……」
「代替案を出せ。俺が許可する」
官僚は青ざめる。
「契約上、それは……」
「俺は王太子だ!」
声が響く。
「俺の言葉が契約だ!」
沈黙。
重臣たちは視線を伏せる。
誰もが理解している。
言葉は契約にはならない。
署名と合意があって、初めて効力を持つ。
だが、彼にそれを説明する勇気はない。
セシルが、そっと口を開く。
「殿下……」
か細い声。
「わたくしのせいで、皆様が困っておられるのでは……」
「違う!」
アルヴァリオは即座に否定する。
「すべてはヴェルミリアの意地だ。俺を困らせようとしている」
本当にそうだろうか。
誰も口には出さない。
「殿下」
老宰相が静かに言う。
「婚約破棄は、殿下のご判断でございます」
「だから何だ」
「ならば、公爵家が支援を見直すのも、当然の判断かと」
空気が張り詰める。
アルヴァリオの目が鋭くなる。
「……俺を責めるのか」
「いえ。ただ、現実を――」
「現実は俺が作る!」
言い切った。
その言葉に、何人かが小さく息を呑む。
現実は、作れるものではない。
積み上げるものだ。
そして崩れるときは、一瞬だ。
その夜。
王宮の私室。
アルヴァリオは窓辺に立ち、夜景を見下ろしていた。
「心配するな」
背後でセシルが不安そうに立っている。
「公爵家などいなくても、俺はやれる」
「でも……お姉様はとても優秀で……」
「優秀? あいつはただ細かいだけだ」
吐き捨てる。
「俺の決断力こそが国を動かす」
セシルは黙る。
昨日まで、その“細かいだけの女”が、すべてを整えていたとは思いもせずに。
「セシル」
アルヴァリオは振り向く。
「明日、正式にお前との婚約を発表する」
「え……」
「公爵家に頼らぬ王家を示す。愛ある統治の象徴だ」
象徴。
その言葉に、彼は酔っている。
セシルは一瞬だけ視線を揺らした。
「……はい、殿下」
微笑む。
だがその笑みの奥に、わずかな不安が滲む。
王宮の廊下では、すでに噂が広がっていた。
「南方の工事、完全停止らしい」
「違約金が発生する」
「王太子殿下の署名で結ばれた契約だとか……」
夜は静かだ。
けれど、水面下では波が立っている。
◇
翌朝。
王宮前の広場で、アルヴァリオは高らかに宣言した。
「俺はセシルと婚約する!」
拍手が起きる。
だがその音は、どこか弱い。
「愛こそが王の資質だ!」
歓声が上がる。
だが、目は笑っていない。
「公爵家がいなくとも、王家は揺るがぬ!」
その言葉が、空に吸い込まれていく。
その頃、公爵邸では。
「王太子、正式発表なさいました」
執事が淡々と報告する。
私は紅茶を置いた。
「そう」
「世論は割れております」
「当然でしょう」
私は窓の外を見る。
王都は静かだ。
嵐の前のように。
「凍結案件の報告は」
「南方開発、完全停止。港湾整備、資材不足。東部砦補給、契約違反の警告が届いております」
私は小さく頷く。
「予定通りですね」
王太子は勝利を宣言した。
だが勝利とは、何かを得たときに使う言葉だ。
彼は何を得たのだろう。
愛?
称賛?
それとも――
「お嬢様」
執事が静かに告げる。
「王宮より再び急使が」
私は微笑む。
「お通しして」
勝利宣言の翌日。
早すぎる焦り。
王太子殿下。
あなたは“勝った”のではありません。
まだ、何も始まっていないだけです。
そして始まったときには――
もう、後戻りはできません。
「やはり、これで正しかったのだ」
王宮の大広間。
昨日まで婚約者だった女の名がまだ空気に残る中で、アルヴァリオは満足げにそう言った。
彼の前には、重臣たち。
そして、まだ赤い目をしたセシル。
「殿下……本当に、よろしいのですか」
老宰相が慎重に問う。
「公爵家との関係は、国政において極めて重要です」
アルヴァリオは鼻で笑った。
「重要なのは俺だ」
重臣たちの顔が固まる。
「国は王家のものだ。公爵家がいなくとも回る」
そう言い切る声は、妙に軽い。
彼はまだ知らない。
“回っていた”のは、誰のおかげだったのか。
「ヴェルミリアは優秀だった」
アルヴァリオは続ける。
「だが冷たい。愛がない。俺は愛ある統治をする」
セシルが小さく顔を上げる。
「殿下……」
「心配するな、セシル。お前を泣かせる者は、もういない」
彼女の手を取り、力強く握る。
それを見守る貴族たちの視線は、どこか落ち着かない。
「殿下、南方開発の件ですが……」
若い官僚が恐る恐る口を開く。
「資材が止まっております」
「公爵家の嫌がらせだ」
即答だった。
「すぐに再開させろ」
「ですが、承認印が……」
「代替案を出せ。俺が許可する」
官僚は青ざめる。
「契約上、それは……」
「俺は王太子だ!」
声が響く。
「俺の言葉が契約だ!」
沈黙。
重臣たちは視線を伏せる。
誰もが理解している。
言葉は契約にはならない。
署名と合意があって、初めて効力を持つ。
だが、彼にそれを説明する勇気はない。
セシルが、そっと口を開く。
「殿下……」
か細い声。
「わたくしのせいで、皆様が困っておられるのでは……」
「違う!」
アルヴァリオは即座に否定する。
「すべてはヴェルミリアの意地だ。俺を困らせようとしている」
本当にそうだろうか。
誰も口には出さない。
「殿下」
老宰相が静かに言う。
「婚約破棄は、殿下のご判断でございます」
「だから何だ」
「ならば、公爵家が支援を見直すのも、当然の判断かと」
空気が張り詰める。
アルヴァリオの目が鋭くなる。
「……俺を責めるのか」
「いえ。ただ、現実を――」
「現実は俺が作る!」
言い切った。
その言葉に、何人かが小さく息を呑む。
現実は、作れるものではない。
積み上げるものだ。
そして崩れるときは、一瞬だ。
その夜。
王宮の私室。
アルヴァリオは窓辺に立ち、夜景を見下ろしていた。
「心配するな」
背後でセシルが不安そうに立っている。
「公爵家などいなくても、俺はやれる」
「でも……お姉様はとても優秀で……」
「優秀? あいつはただ細かいだけだ」
吐き捨てる。
「俺の決断力こそが国を動かす」
セシルは黙る。
昨日まで、その“細かいだけの女”が、すべてを整えていたとは思いもせずに。
「セシル」
アルヴァリオは振り向く。
「明日、正式にお前との婚約を発表する」
「え……」
「公爵家に頼らぬ王家を示す。愛ある統治の象徴だ」
象徴。
その言葉に、彼は酔っている。
セシルは一瞬だけ視線を揺らした。
「……はい、殿下」
微笑む。
だがその笑みの奥に、わずかな不安が滲む。
王宮の廊下では、すでに噂が広がっていた。
「南方の工事、完全停止らしい」
「違約金が発生する」
「王太子殿下の署名で結ばれた契約だとか……」
夜は静かだ。
けれど、水面下では波が立っている。
◇
翌朝。
王宮前の広場で、アルヴァリオは高らかに宣言した。
「俺はセシルと婚約する!」
拍手が起きる。
だがその音は、どこか弱い。
「愛こそが王の資質だ!」
歓声が上がる。
だが、目は笑っていない。
「公爵家がいなくとも、王家は揺るがぬ!」
その言葉が、空に吸い込まれていく。
その頃、公爵邸では。
「王太子、正式発表なさいました」
執事が淡々と報告する。
私は紅茶を置いた。
「そう」
「世論は割れております」
「当然でしょう」
私は窓の外を見る。
王都は静かだ。
嵐の前のように。
「凍結案件の報告は」
「南方開発、完全停止。港湾整備、資材不足。東部砦補給、契約違反の警告が届いております」
私は小さく頷く。
「予定通りですね」
王太子は勝利を宣言した。
だが勝利とは、何かを得たときに使う言葉だ。
彼は何を得たのだろう。
愛?
称賛?
それとも――
「お嬢様」
執事が静かに告げる。
「王宮より再び急使が」
私は微笑む。
「お通しして」
勝利宣言の翌日。
早すぎる焦り。
王太子殿下。
あなたは“勝った”のではありません。
まだ、何も始まっていないだけです。
そして始まったときには――
もう、後戻りはできません。
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