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第五話 止まる資金
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第五話 止まる資金
「資材船が港に入れません!」
王宮南方開発局の執務室に、悲鳴のような声が響いた。
机の上には山積みの書類。
未処理の請求書。
承認待ちの契約書。
そのすべてが――止まっている。
「どういうことだ!」
アルヴァリオが机を叩く。
「公爵家の承認印がなければ支払いが実行されないとのことです!」
若い官僚が蒼白な顔で答える。
「だが契約は結んだはずだ!」
「はい、殿下のご署名で」
その言葉に、一瞬だけ空気が止まる。
署名。
確かに彼は書いた。
だが、それは“公爵家の融資を前提とする”契約だった。
「代替資金を用意しろ!」
「王家の金庫には余裕が……」
「俺は王太子だぞ!」
怒号が飛ぶ。
だが数字は怒鳴っても増えない。
帳簿は感情を受け付けない。
「南方の工事は三日以内に再開しなければ違約金が発生します」
「いくらだ」
「……莫大です」
曖昧な言い方。
だがその意味は重い。
アルヴァリオは歯を食いしばる。
「ヴェルミリアだ……」
低く吐き捨てる。
「あいつが裏で止めている」
◇
その頃、公爵邸。
私は南方開発の契約書をゆっくりと読み返していた。
条文は明確。
“婚約関係を前提とした公爵家保証”。
破棄された。
よって無効。
「資材船は港外に停泊中とのことです」
執事が報告する。
「労働者は?」
「日当が支払われぬまま待機」
私は目を閉じる。
感情で動けば、今すぐ支援を再開することもできる。
だがそれは――
責任を曖昧にする行為だ。
「公爵家としての正式見解を出します」
「どのように」
「条文通り。支援終了」
執事が静かに頭を下げる。
「承知いたしました」
◇
王宮。
「殿下、港湾組合が直接公爵家へ問い合わせを」
「勝手なことを!」
「公爵家は契約無効を正式回答」
沈黙。
空気が重い。
「……セシル」
アルヴァリオは隣に立つ彼女を見る。
「心配するな。すぐに解決する」
セシルは不安げに微笑む。
「はい……殿下」
だがその指先は白くなっている。
「公爵家を脅せばいい」
誰かが小さく言った。
「支援を拒否するなら、爵位剥奪を――」
老宰相が即座に否定する。
「公爵家は王家最大の債権者です」
その言葉が、空気を凍らせる。
債権者。
つまり――
貸している側。
「……そんなはずはない」
アルヴァリオの声が低くなる。
「公爵家は王家に仕えているのだぞ」
「仕えてはおりますが、同時に融資も行っております」
冷静な説明。
「南方開発、港湾整備、東部砦補給。すべて公爵家保証」
その保証が外れた。
今、王家は裸だ。
◇
その夕刻。
公爵邸の門前に、再び急使が到着した。
「王太子殿下より緊急の面会要請です!」
「お断りいたします」
私は即答する。
「本日は予定がございます」
「ですが!」
「婚約は破棄されたと承りました」
微笑む。
「私的な責任は終了しております」
急使の顔が歪む。
「……では、殿下はどうすれば」
私は少しだけ首を傾げた。
「契約に従えばよろしいのでは?」
扉が閉まる。
急使は立ち尽くす。
◇
王宮。
「面会を拒否された……?」
アルヴァリオの声が震える。
「はい。公爵令嬢は“私的責任は終了”と」
机の上の書類が、山のように積み上がっている。
支払い不能。
工事停止。
違約金。
「俺は王太子だぞ……」
誰にともなく呟く。
だがその言葉は、もう力を持たない。
窓の外で雷が鳴った。
遠く、南方の海では資材船が揺れている。
労働者たちは不安げに空を見上げている。
そして王都では、噂が広がる。
「南方開発、停止らしい」
「公爵令嬢が手を引いたとか」
「王太子殿下の判断ミスでは……」
静かに、しかし確実に。
資金は止まった。
金が止まれば、事業が止まる。
事業が止まれば、信用が止まる。
私は夜の庭を歩きながら、星を見上げた。
「お嬢様」
執事が隣に立つ。
「王宮は混乱しております」
「そう」
私は穏やかに笑う。
「愛は、資金の代わりにはなりませんもの」
止まったのは、資金だけではない。
王太子の“当然”が、止まり始めている。
そしてそれは、まだ序章に過ぎない。
「資材船が港に入れません!」
王宮南方開発局の執務室に、悲鳴のような声が響いた。
机の上には山積みの書類。
未処理の請求書。
承認待ちの契約書。
そのすべてが――止まっている。
「どういうことだ!」
アルヴァリオが机を叩く。
「公爵家の承認印がなければ支払いが実行されないとのことです!」
若い官僚が蒼白な顔で答える。
「だが契約は結んだはずだ!」
「はい、殿下のご署名で」
その言葉に、一瞬だけ空気が止まる。
署名。
確かに彼は書いた。
だが、それは“公爵家の融資を前提とする”契約だった。
「代替資金を用意しろ!」
「王家の金庫には余裕が……」
「俺は王太子だぞ!」
怒号が飛ぶ。
だが数字は怒鳴っても増えない。
帳簿は感情を受け付けない。
「南方の工事は三日以内に再開しなければ違約金が発生します」
「いくらだ」
「……莫大です」
曖昧な言い方。
だがその意味は重い。
アルヴァリオは歯を食いしばる。
「ヴェルミリアだ……」
低く吐き捨てる。
「あいつが裏で止めている」
◇
その頃、公爵邸。
私は南方開発の契約書をゆっくりと読み返していた。
条文は明確。
“婚約関係を前提とした公爵家保証”。
破棄された。
よって無効。
「資材船は港外に停泊中とのことです」
執事が報告する。
「労働者は?」
「日当が支払われぬまま待機」
私は目を閉じる。
感情で動けば、今すぐ支援を再開することもできる。
だがそれは――
責任を曖昧にする行為だ。
「公爵家としての正式見解を出します」
「どのように」
「条文通り。支援終了」
執事が静かに頭を下げる。
「承知いたしました」
◇
王宮。
「殿下、港湾組合が直接公爵家へ問い合わせを」
「勝手なことを!」
「公爵家は契約無効を正式回答」
沈黙。
空気が重い。
「……セシル」
アルヴァリオは隣に立つ彼女を見る。
「心配するな。すぐに解決する」
セシルは不安げに微笑む。
「はい……殿下」
だがその指先は白くなっている。
「公爵家を脅せばいい」
誰かが小さく言った。
「支援を拒否するなら、爵位剥奪を――」
老宰相が即座に否定する。
「公爵家は王家最大の債権者です」
その言葉が、空気を凍らせる。
債権者。
つまり――
貸している側。
「……そんなはずはない」
アルヴァリオの声が低くなる。
「公爵家は王家に仕えているのだぞ」
「仕えてはおりますが、同時に融資も行っております」
冷静な説明。
「南方開発、港湾整備、東部砦補給。すべて公爵家保証」
その保証が外れた。
今、王家は裸だ。
◇
その夕刻。
公爵邸の門前に、再び急使が到着した。
「王太子殿下より緊急の面会要請です!」
「お断りいたします」
私は即答する。
「本日は予定がございます」
「ですが!」
「婚約は破棄されたと承りました」
微笑む。
「私的な責任は終了しております」
急使の顔が歪む。
「……では、殿下はどうすれば」
私は少しだけ首を傾げた。
「契約に従えばよろしいのでは?」
扉が閉まる。
急使は立ち尽くす。
◇
王宮。
「面会を拒否された……?」
アルヴァリオの声が震える。
「はい。公爵令嬢は“私的責任は終了”と」
机の上の書類が、山のように積み上がっている。
支払い不能。
工事停止。
違約金。
「俺は王太子だぞ……」
誰にともなく呟く。
だがその言葉は、もう力を持たない。
窓の外で雷が鳴った。
遠く、南方の海では資材船が揺れている。
労働者たちは不安げに空を見上げている。
そして王都では、噂が広がる。
「南方開発、停止らしい」
「公爵令嬢が手を引いたとか」
「王太子殿下の判断ミスでは……」
静かに、しかし確実に。
資金は止まった。
金が止まれば、事業が止まる。
事業が止まれば、信用が止まる。
私は夜の庭を歩きながら、星を見上げた。
「お嬢様」
執事が隣に立つ。
「王宮は混乱しております」
「そう」
私は穏やかに笑う。
「愛は、資金の代わりにはなりませんもの」
止まったのは、資金だけではない。
王太子の“当然”が、止まり始めている。
そしてそれは、まだ序章に過ぎない。
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