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第十三話 第二王子の帰国
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第十三話 第二王子の帰国
王宮の正門に、ひときわ整った馬車が滑り込んだ。
「第二王子殿下、ご帰還」
衛兵の声が響く。
重臣たちの視線が集まる中、馬車から降りたのは、落ち着いた灰色の外套をまとった青年だった。
第二王子レオニード。
兄とは対照的に、表情は静かで、目は冷たいほどに澄んでいる。
「久しいな、兄上」
帰還早々、彼は王太子の執務室へと向かった。
アルヴァリオは椅子に座ったまま、弟を睨む。
「ずいぶんと騒がしい時に戻ったな」
「騒がしいのは事実だからでしょう」
レオニードは書類の山を一瞥する。
「南方開発、港湾整備、東部砦補給。すべて停止中と聞きました」
「公爵家の意地だ」
即答。
レオニードはわずかに眉を動かす。
「条文は確認しましたか」
「……細かいことだ」
「細かいことこそが、国を支えます」
静かな声。
だが、その一言が重い。
「兄上は婚約を破棄された」
「愛を選んだだけだ」
「保証は婚約前提でした」
アルヴァリオの拳が震える。
「お前まで俺を責めるのか」
「責めているのではありません」
レオニードは淡々と言う。
「責任の所在を確認しているだけです」
沈黙。
兄は感情で動く。
弟は条文で動く。
その差が、部屋の空気を切り裂く。
「公爵家へ再交渉を」
レオニードが提案する。
「条件を整理し、責任を明確にした上で」
「頭を下げろと言うのか」
「国のためなら」
アルヴァリオは立ち上がる。
「俺は王太子だ!」
「だからこそです」
短い言葉。
王太子であることと、誤りを認めぬことは同義ではない。
アルヴァリオは何も言えない。
公爵邸。
「第二王子殿下が帰国なさいました」
執事が報告する。
私は静かに頷く。
「早いですね」
「貴族院での発言も冷静でございます」
「でしょうね」
レオニードは昔からそうだった。
感情より規律。
言葉より証拠。
「お嬢様、第二王子殿下より非公式の面会打診がございます」
私は少し考える。
「お受けしましょう」
「よろしいのですか」
「ええ。対話は拒みません」
数日後。
公爵邸の応接室。
レオニードは一礼した。
「ヴェルミリア嬢」
「お久しぶりでございます、殿下」
静かな挨拶。
敵意はない。
探り合いもない。
「契約条文は確認いたしました」
彼は率直に言う。
「公爵家の対応は正当です」
私は目を細める。
「ありがとうございます」
「兄上は、まだ理解しておられません」
「理解は時間がかかるものでございます」
レオニードは少しだけ口元を緩める。
「南方の混乱は、長引けば国に傷を残します」
「その通りです」
「再交渉の余地はございますか」
私は視線を落とし、ゆっくりと答える。
「責任の所在が明確であれば」
「条件を提示していただけますか」
静かなやり取り。
感情は挟まない。
「公爵家は国に敵対する意思はございません」
私は言う。
「ただし、婚約前提の保証は終了しております」
「理解しております」
レオニードは頷く。
「兄上にそれを認めさせることが、最初の壁です」
私は微笑む。
「それは公爵家の仕事ではございません」
一瞬の沈黙。
だが、そこには緊張はない。
対話は成立している。
帰り際、レオニードはふと立ち止まる。
「ヴェルミリア嬢」
「はい」
「あなたがいなければ、王宮はここまで持ちませんでした」
私は静かに答える。
「今はもう、わたくしは関係ございません」
彼はそれ以上言わず、去った。
王宮。
レオニードは父王に報告する。
「公爵家は敵ではありません」
「では」
「責任の所在を明確にすることが先決です」
国王は深く息を吐く。
「アルヴァリオは」
「まだ認めておりません」
重い沈黙。
王宮の廊下では、囁きが増えている。
「第二王子殿下は冷静だ」
「公爵令嬢と対話したらしい」
「王太子殿下とは違う」
比較。
それは最も残酷な刃だ。
アルヴァリオはまだ気づかない。
自分が弟と並べられ、測られていることに。
公爵邸の庭で、私は風に揺れる薔薇を見つめる。
嵐は形を変えた。
資金の問題から、資質の問題へ。
王太子としての資質。
それが今、静かに問われ始めている。
王宮の正門に、ひときわ整った馬車が滑り込んだ。
「第二王子殿下、ご帰還」
衛兵の声が響く。
重臣たちの視線が集まる中、馬車から降りたのは、落ち着いた灰色の外套をまとった青年だった。
第二王子レオニード。
兄とは対照的に、表情は静かで、目は冷たいほどに澄んでいる。
「久しいな、兄上」
帰還早々、彼は王太子の執務室へと向かった。
アルヴァリオは椅子に座ったまま、弟を睨む。
「ずいぶんと騒がしい時に戻ったな」
「騒がしいのは事実だからでしょう」
レオニードは書類の山を一瞥する。
「南方開発、港湾整備、東部砦補給。すべて停止中と聞きました」
「公爵家の意地だ」
即答。
レオニードはわずかに眉を動かす。
「条文は確認しましたか」
「……細かいことだ」
「細かいことこそが、国を支えます」
静かな声。
だが、その一言が重い。
「兄上は婚約を破棄された」
「愛を選んだだけだ」
「保証は婚約前提でした」
アルヴァリオの拳が震える。
「お前まで俺を責めるのか」
「責めているのではありません」
レオニードは淡々と言う。
「責任の所在を確認しているだけです」
沈黙。
兄は感情で動く。
弟は条文で動く。
その差が、部屋の空気を切り裂く。
「公爵家へ再交渉を」
レオニードが提案する。
「条件を整理し、責任を明確にした上で」
「頭を下げろと言うのか」
「国のためなら」
アルヴァリオは立ち上がる。
「俺は王太子だ!」
「だからこそです」
短い言葉。
王太子であることと、誤りを認めぬことは同義ではない。
アルヴァリオは何も言えない。
公爵邸。
「第二王子殿下が帰国なさいました」
執事が報告する。
私は静かに頷く。
「早いですね」
「貴族院での発言も冷静でございます」
「でしょうね」
レオニードは昔からそうだった。
感情より規律。
言葉より証拠。
「お嬢様、第二王子殿下より非公式の面会打診がございます」
私は少し考える。
「お受けしましょう」
「よろしいのですか」
「ええ。対話は拒みません」
数日後。
公爵邸の応接室。
レオニードは一礼した。
「ヴェルミリア嬢」
「お久しぶりでございます、殿下」
静かな挨拶。
敵意はない。
探り合いもない。
「契約条文は確認いたしました」
彼は率直に言う。
「公爵家の対応は正当です」
私は目を細める。
「ありがとうございます」
「兄上は、まだ理解しておられません」
「理解は時間がかかるものでございます」
レオニードは少しだけ口元を緩める。
「南方の混乱は、長引けば国に傷を残します」
「その通りです」
「再交渉の余地はございますか」
私は視線を落とし、ゆっくりと答える。
「責任の所在が明確であれば」
「条件を提示していただけますか」
静かなやり取り。
感情は挟まない。
「公爵家は国に敵対する意思はございません」
私は言う。
「ただし、婚約前提の保証は終了しております」
「理解しております」
レオニードは頷く。
「兄上にそれを認めさせることが、最初の壁です」
私は微笑む。
「それは公爵家の仕事ではございません」
一瞬の沈黙。
だが、そこには緊張はない。
対話は成立している。
帰り際、レオニードはふと立ち止まる。
「ヴェルミリア嬢」
「はい」
「あなたがいなければ、王宮はここまで持ちませんでした」
私は静かに答える。
「今はもう、わたくしは関係ございません」
彼はそれ以上言わず、去った。
王宮。
レオニードは父王に報告する。
「公爵家は敵ではありません」
「では」
「責任の所在を明確にすることが先決です」
国王は深く息を吐く。
「アルヴァリオは」
「まだ認めておりません」
重い沈黙。
王宮の廊下では、囁きが増えている。
「第二王子殿下は冷静だ」
「公爵令嬢と対話したらしい」
「王太子殿下とは違う」
比較。
それは最も残酷な刃だ。
アルヴァリオはまだ気づかない。
自分が弟と並べられ、測られていることに。
公爵邸の庭で、私は風に揺れる薔薇を見つめる。
嵐は形を変えた。
資金の問題から、資質の問題へ。
王太子としての資質。
それが今、静かに問われ始めている。
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