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第十九話 横領の痕跡
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第十九話 横領の痕跡
王宮の監査室。
長机の上には、積み上げられた帳簿と送金記録が広げられている。
監査官が一枚の書類を指で押さえた。
「こちらをご覧ください」
重臣たちが身を乗り出す。
「南方商会への前払金。その一部が、三日後に別口座へ移動しております」
「別口座?」
「アーディン家名義です」
ざわめきが走る。
アーディン家――セシルの実家。
「誤記ではないのか」
誰かが呟く。
監査官は首を振る。
「送金経路は三段階に分けられておりますが、最終到達先は一致しています」
書類が並べられる。
日付。
金額。
口座番号。
不自然に細かく分割された送金。
それは偶然とは言えない精度だった。
「説明を」
重臣の声が低く響く。
アルヴァリオは黙ったまま書類を見つめている。
セシルの顔色が変わる。
「わ、わたくしは知りません!」
「アーディン家への送金です」
「父が勝手に……!」
「王太子事業の資金です」
冷たい事実。
王家の事業資金が、義妹の実家へ流れている。
それは横領の疑いを意味する。
「殿下はご存知でしたか」
監査官が問う。
アルヴァリオは拳を握る。
「……詳細までは」
「承認印がございます」
机に置かれた書類には、彼の印章。
確かに押されている。
「これは事務処理だ」
「確認なさらなかった?」
沈黙。
その沈黙が、答えだ。
公爵邸。
「横領の痕跡が出ました」
報告は短い。
私は目を閉じる。
「どの規模ですか」
「現時点で数回分」
「拡大の可能性は」
「ございます」
私は静かに頷く。
盗用だけではない。
資金の移動。
それはより重い。
「公爵家は」
「関与しておりません」
「当然です」
感情は動かない。
これは王家内部の崩壊だ。
王宮。
セシルは必死に弁明する。
「父は投資が得意なのです!」
「王家の資金で?」
「……将来、利益で返すつもりだったと」
監査官の視線は冷たい。
「王家の承認は」
「……」
ない。
あるのは王太子の印章だけ。
アルヴァリオは歯を食いしばる。
「俺が責任を取る」
その言葉に、重臣の一人が言う。
「責任とは、何を指しますか」
答えられない。
横領は個人の問題ではない。
王家の信用を直接削る。
国王は深く息を吐いた。
「事実確認を継続せよ」
短い命令。
だが、その声音には決意が混じる。
王都の夜。
噂は瞬く間に広がる。
「横領らしい」
「義妹の実家に金が流れた」
「王太子は印を押した」
茶会の席で、令嬢が囁く。
「盗用に横領……」
「これで王太子妃?」
言葉は容赦ない。
公爵邸の庭。
夜風が冷たい。
私は月を見上げる。
「お嬢様」
執事が言う。
「王太子殿下は、さらに追い込まれております」
「選択の結果です」
短く答える。
盗用を庇った。
契約を読まなかった。
署名を軽く扱った。
すべてが繋がっている。
アルヴァリオは、自分の選択がどれほど重いかを理解し始めていた。
守ったはずのセシル。
だが、守るほどに疑惑は深まる。
王家の金は、王家のものではない。
それは国のものだ。
横領の痕跡。
それはただの数字ではない。
王太子の資質を、さらに深くえぐる証拠だった。
王宮の監査室。
長机の上には、積み上げられた帳簿と送金記録が広げられている。
監査官が一枚の書類を指で押さえた。
「こちらをご覧ください」
重臣たちが身を乗り出す。
「南方商会への前払金。その一部が、三日後に別口座へ移動しております」
「別口座?」
「アーディン家名義です」
ざわめきが走る。
アーディン家――セシルの実家。
「誤記ではないのか」
誰かが呟く。
監査官は首を振る。
「送金経路は三段階に分けられておりますが、最終到達先は一致しています」
書類が並べられる。
日付。
金額。
口座番号。
不自然に細かく分割された送金。
それは偶然とは言えない精度だった。
「説明を」
重臣の声が低く響く。
アルヴァリオは黙ったまま書類を見つめている。
セシルの顔色が変わる。
「わ、わたくしは知りません!」
「アーディン家への送金です」
「父が勝手に……!」
「王太子事業の資金です」
冷たい事実。
王家の事業資金が、義妹の実家へ流れている。
それは横領の疑いを意味する。
「殿下はご存知でしたか」
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アルヴァリオは拳を握る。
「……詳細までは」
「承認印がございます」
机に置かれた書類には、彼の印章。
確かに押されている。
「これは事務処理だ」
「確認なさらなかった?」
沈黙。
その沈黙が、答えだ。
公爵邸。
「横領の痕跡が出ました」
報告は短い。
私は目を閉じる。
「どの規模ですか」
「現時点で数回分」
「拡大の可能性は」
「ございます」
私は静かに頷く。
盗用だけではない。
資金の移動。
それはより重い。
「公爵家は」
「関与しておりません」
「当然です」
感情は動かない。
これは王家内部の崩壊だ。
王宮。
セシルは必死に弁明する。
「父は投資が得意なのです!」
「王家の資金で?」
「……将来、利益で返すつもりだったと」
監査官の視線は冷たい。
「王家の承認は」
「……」
ない。
あるのは王太子の印章だけ。
アルヴァリオは歯を食いしばる。
「俺が責任を取る」
その言葉に、重臣の一人が言う。
「責任とは、何を指しますか」
答えられない。
横領は個人の問題ではない。
王家の信用を直接削る。
国王は深く息を吐いた。
「事実確認を継続せよ」
短い命令。
だが、その声音には決意が混じる。
王都の夜。
噂は瞬く間に広がる。
「横領らしい」
「義妹の実家に金が流れた」
「王太子は印を押した」
茶会の席で、令嬢が囁く。
「盗用に横領……」
「これで王太子妃?」
言葉は容赦ない。
公爵邸の庭。
夜風が冷たい。
私は月を見上げる。
「お嬢様」
執事が言う。
「王太子殿下は、さらに追い込まれております」
「選択の結果です」
短く答える。
盗用を庇った。
契約を読まなかった。
署名を軽く扱った。
すべてが繋がっている。
アルヴァリオは、自分の選択がどれほど重いかを理解し始めていた。
守ったはずのセシル。
だが、守るほどに疑惑は深まる。
王家の金は、王家のものではない。
それは国のものだ。
横領の痕跡。
それはただの数字ではない。
王太子の資質を、さらに深くえぐる証拠だった。
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