婚約破棄はあなたの意思でしたわね? ~王太子を廃嫡に追い込み、義妹を平民に落とした公爵令嬢は新時代の王妃になります~

鷹 綾

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第三十二話 新時代の始まり

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第三十二話 新時代の始まり

王都に、久方ぶりの穏やかな朝が訪れていた。

騒乱も、噂も、悲鳴もない。

あるのは、整えられた秩序だけ。

王宮の大広間には諸侯が集まり、正式な宣言がなされる。

「第二王子レオルドを王位継承第一位とする」

国王の声は、重く、しかし揺るぎない。

拍手は控えめだが、確かだった。

支持ではなく、納得の音。

そして続く。

「公爵令嬢ヴェルミリア・グランシアとの正式婚約を認める」

空気が変わる。

誰も驚かない。

すでに皆が理解していた。

支えるべき者が誰かを。

私は前へ進み、静かに礼を取る。

かつてのような見世物ではない。

誇示も、威圧もない。

ただ、契約と責任の確認。

レオルドが私の隣に立つ。

視線を合わせ、短く頷く。

そこに甘い言葉はない。

代わりにあるのは、信頼。

王宮を出た後、私は一人で庭園を歩く。

薔薇は変わらず咲いている。

あの舞踏会の日と同じ花。

だが、立場は違う。

あの日、私は捨てられた。

今日は、選ばれた。

選ばれたのは血筋でも感情でもない。

実務と覚悟。

それがすべて。

遠く北方。

寒村の小屋で、アルヴァリオは粗末な机に向かっている。

王宮の豪奢な椅子はない。

命令に従う侍従もいない。

あるのは、失った選択の重み。

「……どうして」

誰にともなく呟く。

答えは分かっている。

舞踏会での宣告。

責任を他者へ押し付けた日。

真実より感情を選んだ瞬間。

その積み重ね。

セシルもまた、王都郊外でひっそりと暮らしている。

支えてくれる者はいない。

庇ってくれる王子もいない。

鏡の前で呟く。

「わたくしは、悪くない」

だが、誰も聞いていない。

王都。

新体制の会議が始まる。

財務の再建。

無理な投資の整理。

透明な契約。

私は資料を差し出す。

レオルドはそれを読み、修正を加える。

対等なやり取り。

誰の功績でもない。

国のための作業。

会議後、彼が静かに言う。

「共に歩んでくれるか」

私は微笑む。

「責任を共有できるなら」

それが答え。

愛は後から育てればいい。

信頼がある限り。

夕暮れ。

王都の鐘が鳴る。

新しい時代の始まりを告げる音。

私は空を見上げる。

後悔はない。

復讐もない。

あるのは結果。

婚約破棄は、彼の選択だった。

その先にあった未来は、それぞれの責任。

王太子は廃嫡。

義妹は平民落ち。

復縁はない。

情けもない。

ただ、因果。

そして私は――

もう、誰にも切り捨てられない位置に立っている。

新時代は、静かに動き出す。

これが終幕。

そして、始まり。
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