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第2話 泣き崩れる令嬢
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第2話 泣き崩れる令嬢(※演技です)
婚約破棄の宣言から、一夜が明けた。
王宮中――いいえ、王都中がその話題で持ちきりだった。
「お気の毒に……エミーラ様……」 「完璧な方ほど、不幸になるものなのね」 「王太子殿下も、あまりに酷い……」
囁き声が、私の背後を流れていく。
私は今、王宮の控え室に用意された長椅子に腰を下ろし、
ハンカチでそっと目元を押さえていた。
――ええ、そうです。
泣いている“ふり”をしています。
「……っ、うぅ……」
かすかに肩を震わせると、周囲の視線が一斉に集まった。
(よし、完璧ですわ)
声量、呼吸の乱れ、指先の震え。
これ以上ない“悲劇の令嬢”の完成形。
私の隣で、侍女のマリアが小さく身を屈める。
「お嬢様……無理なさらないでください。
お顔色が……」
「大丈夫よ、マリア……少し、驚いただけ……」
震える声でそう返すと、マリアの瞳に涙が滲んだ。
(……あら。
これは、少しやりすぎましたかしら)
でも、ここで手を抜くわけにはいかない。
この世界で、
“婚約破棄された令嬢が毅然としている”
というのは、あまりに目立ちすぎる。
同情は、最大の防御なのだ。
「エミーラ様……!」
控え室の扉が勢いよく開き、
数名の貴族令嬢たちが駆け寄ってきた。
「なんてお可哀想なの……!」 「完璧すぎる、だなんて理由……聞いたこともありませんわ!」
私は弱々しく首を横に振った。
「……殿下の決断ですもの。
私がどうこう言える立場では……」
(言えますけど、言いません)
「エミーラ様は悪くありません!」 「そうですわ、あれほど国政を支えていたのに……」
――支えていた、という自覚は、ちゃんとあったのですね。
胸の奥で、小さく頷く。
そのとき、視線の端に
金色の髪が揺れるのが見えた。
アウルス・セナート。
彼女は少し離れた場所で、
不安そうな表情を浮かべながら、こちらを見つめている。
「……」
視線が合うと、彼女は小さく身をすくめ、
すぐに目を逸らした。
(……ええ、ええ。
今は“怯える被害者”で通すおつもりなのですね)
たいした胆力だ。
私は再び、ハンカチで目元を覆った。
「皆様……お気遣い、ありがとうございます。
少し、一人にしていただけますか……」
その言葉に、令嬢たちは慌てて頷き、部屋を出ていく。
扉が閉まり、静寂が戻った瞬間――
「……ふぅ」
私は、思い切り息を吐いた。
「お嬢様……?」
「演技、終わりですわ」
背筋を伸ばし、ハンカチを畳む。
マリアが目を丸くした。
「え……?
で、では……お泣きになっていたのは……」
「社交界向けのサービスです」
そう言うと、マリアはしばらく呆然とし、
やがて、ほっとしたように肩を落とした。
「……よ、よかった……」 「心配しました……」
「ごめんなさいね」
私は小さく微笑んだ。
「でも、これでいいの。
私は“捨てられた可哀想な令嬢”でいる間に、
静かに次の人生を選びます」
そのとき、控え室の机の上に置かれた一通の封書が、
ふと視界に入った。
深い藍色の封蝋。
見慣れない紋章。
マリアが小声で言う。
「それ……先ほど、使者が届けていきました」 「隣国からだそうです」
私は封書を手に取り、ゆっくりと開いた。
中に書かれていたのは――
『ゼファー・アンクレイブ公爵より
エミーラ・ローゼンベルク嬢へ
白い結婚を前提とした、正式な縁談の申し入れ』
――思わず、口元が緩む。
(完璧なタイミングですわね)
私は封書を胸に抱き、静かに呟いた。
「……泣いている暇なんて、ありませんわ」
私の人生は、
今ここから、もっと自由になりますもの。
--
婚約破棄の宣言から、一夜が明けた。
王宮中――いいえ、王都中がその話題で持ちきりだった。
「お気の毒に……エミーラ様……」 「完璧な方ほど、不幸になるものなのね」 「王太子殿下も、あまりに酷い……」
囁き声が、私の背後を流れていく。
私は今、王宮の控え室に用意された長椅子に腰を下ろし、
ハンカチでそっと目元を押さえていた。
――ええ、そうです。
泣いている“ふり”をしています。
「……っ、うぅ……」
かすかに肩を震わせると、周囲の視線が一斉に集まった。
(よし、完璧ですわ)
声量、呼吸の乱れ、指先の震え。
これ以上ない“悲劇の令嬢”の完成形。
私の隣で、侍女のマリアが小さく身を屈める。
「お嬢様……無理なさらないでください。
お顔色が……」
「大丈夫よ、マリア……少し、驚いただけ……」
震える声でそう返すと、マリアの瞳に涙が滲んだ。
(……あら。
これは、少しやりすぎましたかしら)
でも、ここで手を抜くわけにはいかない。
この世界で、
“婚約破棄された令嬢が毅然としている”
というのは、あまりに目立ちすぎる。
同情は、最大の防御なのだ。
「エミーラ様……!」
控え室の扉が勢いよく開き、
数名の貴族令嬢たちが駆け寄ってきた。
「なんてお可哀想なの……!」 「完璧すぎる、だなんて理由……聞いたこともありませんわ!」
私は弱々しく首を横に振った。
「……殿下の決断ですもの。
私がどうこう言える立場では……」
(言えますけど、言いません)
「エミーラ様は悪くありません!」 「そうですわ、あれほど国政を支えていたのに……」
――支えていた、という自覚は、ちゃんとあったのですね。
胸の奥で、小さく頷く。
そのとき、視線の端に
金色の髪が揺れるのが見えた。
アウルス・セナート。
彼女は少し離れた場所で、
不安そうな表情を浮かべながら、こちらを見つめている。
「……」
視線が合うと、彼女は小さく身をすくめ、
すぐに目を逸らした。
(……ええ、ええ。
今は“怯える被害者”で通すおつもりなのですね)
たいした胆力だ。
私は再び、ハンカチで目元を覆った。
「皆様……お気遣い、ありがとうございます。
少し、一人にしていただけますか……」
その言葉に、令嬢たちは慌てて頷き、部屋を出ていく。
扉が閉まり、静寂が戻った瞬間――
「……ふぅ」
私は、思い切り息を吐いた。
「お嬢様……?」
「演技、終わりですわ」
背筋を伸ばし、ハンカチを畳む。
マリアが目を丸くした。
「え……?
で、では……お泣きになっていたのは……」
「社交界向けのサービスです」
そう言うと、マリアはしばらく呆然とし、
やがて、ほっとしたように肩を落とした。
「……よ、よかった……」 「心配しました……」
「ごめんなさいね」
私は小さく微笑んだ。
「でも、これでいいの。
私は“捨てられた可哀想な令嬢”でいる間に、
静かに次の人生を選びます」
そのとき、控え室の机の上に置かれた一通の封書が、
ふと視界に入った。
深い藍色の封蝋。
見慣れない紋章。
マリアが小声で言う。
「それ……先ほど、使者が届けていきました」 「隣国からだそうです」
私は封書を手に取り、ゆっくりと開いた。
中に書かれていたのは――
『ゼファー・アンクレイブ公爵より
エミーラ・ローゼンベルク嬢へ
白い結婚を前提とした、正式な縁談の申し入れ』
――思わず、口元が緩む。
(完璧なタイミングですわね)
私は封書を胸に抱き、静かに呟いた。
「……泣いている暇なんて、ありませんわ」
私の人生は、
今ここから、もっと自由になりますもの。
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