『婚約破棄され追放されましたが、隣国の氷の公爵様に“白い結婚”を提案されましたので、心穏やかに幸せになりますわ

鷹 綾

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4-3 暴かれる真実と、王の裁きの序章

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第4章 4-3 暴かれる真実と、王の裁きの序章

 広場には、ひとつの沈黙が広がっていた。

 アレクシスが剣を抜き、
 「妻を守る」と宣言した瞬間──

 空気が、変わった。

 誰もが直感した。
 これは“祝福の儀”などではない。
 公開処刑を装った政治的な茶番だと。

 エドモンドは青ざめた顔でアレクシスを睨みつけた。

「アレクシス……! おまえが、その女のために反逆など……」

「殿下。反逆をしているのは、むしろあなたの方です」

「なに……?」

「国王の許可もなく、前婚約者を“罪人扱い”し、
 聖女の名を利用して断罪しようとしている」

 その場にいた貴族たちでさえ、ざわつき始める。

「殿下、これは……まずいのでは……」

「王命ではなく、殿下独断……?」

 エドモンドは焦りを隠せず怒鳴った。

「黙れ黙れ黙れ!!
 私は王太子だぞ! 王位継承者だぞ!!
 私が言えば、それが法律だ!!」

 その叫びは、もはや王族の威厳でも何でもなく、
 ただの我儘にしか聞こえなかった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 一方で、セレナは震えていた。

 アレクシスが自分のために剣を抜いた。
 それは、彼を危険に晒す行為だった。

(私なんかのために……!)

 セレナはアレクシスの袖を強く掴む。

「アレクシス様……お願いです、剣を収めて……!
 あなたが処罰されては……私……!」

 アレクシスは振り返り、セレナの涙を指でそっと拭った。

「セレナ。怖い思いをさせてしまったな……」

「あなたが……いなくなる方が……よほど怖いわ……」

 その言葉に、アレクシスの瞳から怒りが消え、愛しさだけが残った。

 だが──その瞬間だった。

 巨大な影が広場に落ちた。

「「王が……!?」」

 民衆がざわめく中、
 王城から豪奢な馬車が現れ、魔法で動く装飾が金色に輝く。

 扉が開き、国王レオポルト三世が堂々と現れた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 王が壇上に姿を見せると、
 場の空気は一瞬で静まりかえった。

 国王は一歩、また一歩とエドモンドに近づき、
 静かな声で問うた。

「エドモンド。
 ──これは、一体どういう茶番だ?」

「ち、茶番……だと……!?
 父上! 私は……私は聖女ローザの祝福の儀と、
 セレナの罪を……!」

「罪? どの法に基づく罪だ?」

「え……?」

「前婚約者を断罪する権利は、王太子個人にはない。
 婚約破棄も独断。
 罪状も独断。
 拘束命令も独断。
 これはすべて──越権行為だ」

 エドモンドの顔が蒼白になっていく。

「私は、何も……っ……!
 聖女が……!!」

 ローザが慌てて前に出る。

「こ、国王陛下……!
 セレナ様は私の祝福を妨害する“闇の気”を持っていて、
 国に災いを……!」

「その話、実に興味深いな」

 国王は、冷たく笑った。

「……ならば、祝福の儀で証明してみせるがよい。
 聖女が真に神に愛されているのならな」

「!!」

 ローザの顔から血の気が引いた。

 セレナと目が合う。
 ローザの瞳には──焦りと恐怖があった。

(ああ……やっぱり……)

 セレナは、薄々気付いていた。

 ローザは聖女に選ばれたわけではない。
 ただ“そう名乗った”だけなのだと。

 祝福の儀であれば、
 魔法の加護、聖属性、浄化の力──
 本物であれば何かしらの“光”が現れるはず。

 それが出なければ──
 偽聖女の烙印を押される。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 場の空気が緊張に包まれる中、
 国王はゆっくりと手を掲げ、魔法陣を広場上空に展開した。

 淡い光が広がり、
 数千人の視線がローザに注がれる。

「ローザ・ムーンライト。
 聖女を名乗るのなら、神に祈れ。
 祝福を見せてみよ」

「わ、私……聖女の力を……!
 そ、その……今日は体調が……!」

「祈れ」

 国王の一言が、広場全体を震わせた。

 ローザは震える手で胸を押さえ、祈りのポーズを取る。
 そして、必死に声を絞り出した。

「か、神よ……! 私に祝――」

 沈黙

 光は──

 落ちない。

 風も──

 動かない。

 魔力反応は、ゼロ。

 民衆がざわめき始めた。

「……え?」

「光が出ない……?」

「聖女って、本物なのか……?」

 ローザは震え、膝をついた。

「ち、違います!!
 今日はその……力が……!」

「黙れ」

 国王は鋭い声で遮る。

「祝福を妨げる存在は、この場にはいない。
 セレナ嬢の魔力は浄魔属性で“浄化”に近い。
 妨害どころか、むしろ聖女の力を高めるはずだ」

「!!」

 ローザの顔が歪む。

(浄魔属性……?)
(わたし……そんな力が……?)

 セレナは驚いたが、
 もしかしたら“生まれ持った特性”があったのかもしれなかった。

 そして、国王はゆっくりと言い放った。

「──つまり、祝福が出ない理由は一つ。
 ローザ、お前が“偽りの聖女”だからだ」

「や、やめて……!
 そんな……私は……殿下の……!」

「殿下の……何だ?」

 国王の冷たい視線がエドモンドに向けられる。

「エドモンド。
 お前は偽りの聖女を使って、前婚約者を断罪し、
 国政を私物化しようとしていたのだな?」

「ち、違います父上!!
 私はただ……セレナが……!」

 セレナを指差したその手は震えていた。

「セレナが……私のものではなくなったから……!
 私を捨てたから……!!
 私は……私は……!!」

 その叫びは、嫉妬と独占欲が剥き出しになったものだった。

 民衆は静まり返る。

 ──誰もが理解してしまった。

 エドモンドの行動は政治ではなく、
 子供じみた執着心によるものだったと。

 国王は深く息を吐く。

「エドモンド。
 後で王城で話す。
 ……覚悟しておけ」

「父上……!」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 国王は壇上を離れる前に、
 アレクシスとセレナの前に立った。

「セレナ嬢。
 災難だったな。
 殿下の独断を止められず、すまなかった」

「い、いえ……陛下が来てくださったおかげで……」

 セレナは深々と頭を下げた。

 国王は穏やかな笑みを浮かべ、アレクシスに向きなおった。

「アレクシス。
 お前の妻を守ろうとする姿、確かに見届けた」

「……ありがとうございます」

 国王は城へ戻るため、馬車へ向かった。
 その背中は、王としての重責と悲しみを背負っていた。

 広場に残ったのは、安堵の息を吐いたセレナと、
 彼女の手をそっと握るアレクシス。

「セレナ。怖かっただろう」

「ええ……でも、アレクシス様が……ずっと守ってくれたから」

 セレナはアレクシスへ微笑んだ。

 その笑顔は、混乱の中で彼が唯一救われた光だった。

「セレナ。
 君を守ると決めたのは……契約だからじゃない」

 アレクシスは、彼女の手を強く握った。

「君を……愛しているからだ」

 広場に残った民衆の間から、
 小さな歓声が広がっていく。

「宰相様……素敵……」

「セレナ嬢、守られてるんだ……!」

 そしてセレナは、ゆっくりと目を潤ませ──

「……私も、アレクシス様が好きです」

 震えながらも、確かな声でそう伝えた。

 アレクシスの瞳が柔らかく揺れた。

 二人の距離が、そっと近づいた──。

 やがて訪れる“大逆転”の前章として、
 静かで、確かな愛がそこにはあった。


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