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31話 意思確認
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31話 意思確認
謁見の間に、重い沈黙が落ちていた。
国王の問いかけは、決して声を荒げたものではない。
威圧も、命令もない。
ただ静かに、事実として差し出された問いだった。
「あなたは、聖女であることを望んでいましたか」
「そして、この婚約を、本当に望んでいましたか」
ジャンヌ・テレーゼは、その場で固まっていた。
王の前。
貴族たちに囲まれた謁見の間。
人生で一度も立ったことのない場所で、人生で初めて――
“自分の意思”を問われている。
喉が、ひくりと鳴った。
答えなければならない。
だが、どう答えればいいのかが、分からない。
アルトリア・カストゥスは、少し離れた位置からその様子を見ていた。
視線はジャンヌに向けられているが、決して促さない。
――今は、助けてはいけない。
それを理解していた。
これは、アルトリアが代弁する場面ではない。
王が、直接本人に問い、
本人が、自分の言葉で答える必要がある。
ジャンヌの胸の中で、様々な光景が交錯する。
空中に浮かされた日。
歓声。
「聖女様だ!」という叫び。
拍手と期待と、逃げ場のない視線。
断れなかった理由は、はっきりしている。
平民だったから。
逆らえば、すべてを失うと分かっていたから。
教会に言われた。
王太子に言われた。
「お願いだ」「国のためだ」「皆が期待している」
どれも、拒否を許さない言葉だった。
――でも。
ジャンヌは、ゆっくりと視線を上げた。
国王の目は、まだそこにあった。
評価でも、裁定でもない。
ただ、待っている目。
ジャンヌは、小さく息を吸った。
「……わかりませんでした」
声は、かすれていた。
だが、確かに届いた。
「どう答えていいのか、ずっと……わかりませんでした」
謁見の間が、わずかにざわめく。
だが国王は、口を挟まない。
ジャンヌは続けた。
「聖女って言われて……すごいことだって……
そう言われ続けて……
断ったら、罰が当たるんじゃないかって、思って……」
唇が震える。
「婚約も……
王太子殿下が望んでいるなら、
平民の私が断っていいはずがないって……」
そこで、ジャンヌは言葉を切った。
一瞬、迷う。
だが――
アルトリアが、ほんのわずかに頷いた。
「あなたの言葉でいい」と。
ジャンヌは、意を決した。
「でも……」
小さな声だった。
けれど、はっきりしていた。
「私は……聖女になりたくありませんでした」
「婚約も……望んでいませんでした」
その瞬間。
謁見の間の空気が、明確に変わった。
誰かが息を呑み、
誰かが視線を伏せ、
誰かが理解した。
これは、逃げではない。
被害者の告白だ。
ジャンヌは、震える声で続けた。
「ただ……
怖くて、言えなかっただけです」
それ以上、何も付け加える必要はなかった。
国王は、しばらく沈黙したままジャンヌを見つめ、
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……そうか」
その一言に、感情は込められていない。
だが、すべてを受け止めた声だった。
アルトリアは、胸の奥で静かに息を吐いた。
――これで、確定しましたわ。
権威ではない。
評価でもない。
本人の意思が、ここではっきりと示された。
もはや、誰も覆すことはできない。
ジャンヌ・テレーゼは、
この瞬間、初めて――
“選ばれる存在”ではなく、
“自分で選んだ存在”になったのだった。
次に下されるのは、
裁きではない。
解放だ。
その予感は、謁見の間にいる全員が、共有していた。
謁見の間に、重い沈黙が落ちていた。
国王の問いかけは、決して声を荒げたものではない。
威圧も、命令もない。
ただ静かに、事実として差し出された問いだった。
「あなたは、聖女であることを望んでいましたか」
「そして、この婚約を、本当に望んでいましたか」
ジャンヌ・テレーゼは、その場で固まっていた。
王の前。
貴族たちに囲まれた謁見の間。
人生で一度も立ったことのない場所で、人生で初めて――
“自分の意思”を問われている。
喉が、ひくりと鳴った。
答えなければならない。
だが、どう答えればいいのかが、分からない。
アルトリア・カストゥスは、少し離れた位置からその様子を見ていた。
視線はジャンヌに向けられているが、決して促さない。
――今は、助けてはいけない。
それを理解していた。
これは、アルトリアが代弁する場面ではない。
王が、直接本人に問い、
本人が、自分の言葉で答える必要がある。
ジャンヌの胸の中で、様々な光景が交錯する。
空中に浮かされた日。
歓声。
「聖女様だ!」という叫び。
拍手と期待と、逃げ場のない視線。
断れなかった理由は、はっきりしている。
平民だったから。
逆らえば、すべてを失うと分かっていたから。
教会に言われた。
王太子に言われた。
「お願いだ」「国のためだ」「皆が期待している」
どれも、拒否を許さない言葉だった。
――でも。
ジャンヌは、ゆっくりと視線を上げた。
国王の目は、まだそこにあった。
評価でも、裁定でもない。
ただ、待っている目。
ジャンヌは、小さく息を吸った。
「……わかりませんでした」
声は、かすれていた。
だが、確かに届いた。
「どう答えていいのか、ずっと……わかりませんでした」
謁見の間が、わずかにざわめく。
だが国王は、口を挟まない。
ジャンヌは続けた。
「聖女って言われて……すごいことだって……
そう言われ続けて……
断ったら、罰が当たるんじゃないかって、思って……」
唇が震える。
「婚約も……
王太子殿下が望んでいるなら、
平民の私が断っていいはずがないって……」
そこで、ジャンヌは言葉を切った。
一瞬、迷う。
だが――
アルトリアが、ほんのわずかに頷いた。
「あなたの言葉でいい」と。
ジャンヌは、意を決した。
「でも……」
小さな声だった。
けれど、はっきりしていた。
「私は……聖女になりたくありませんでした」
「婚約も……望んでいませんでした」
その瞬間。
謁見の間の空気が、明確に変わった。
誰かが息を呑み、
誰かが視線を伏せ、
誰かが理解した。
これは、逃げではない。
被害者の告白だ。
ジャンヌは、震える声で続けた。
「ただ……
怖くて、言えなかっただけです」
それ以上、何も付け加える必要はなかった。
国王は、しばらく沈黙したままジャンヌを見つめ、
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……そうか」
その一言に、感情は込められていない。
だが、すべてを受け止めた声だった。
アルトリアは、胸の奥で静かに息を吐いた。
――これで、確定しましたわ。
権威ではない。
評価でもない。
本人の意思が、ここではっきりと示された。
もはや、誰も覆すことはできない。
ジャンヌ・テレーゼは、
この瞬間、初めて――
“選ばれる存在”ではなく、
“自分で選んだ存在”になったのだった。
次に下されるのは、
裁きではない。
解放だ。
その予感は、謁見の間にいる全員が、共有していた。
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