『奢侈禁止令の鉄槌 ―偽の公爵令嬢が紡ぐ、着られぬ絹の鎖―』

鷹 綾

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第7話 偽りの輝き

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第7話 偽りの輝き

王宮の舞踏会の日がやって来た。

王都の夜は、いつもより明るかった。
王宮の大広間に続く庭園には、無数の灯りがともされている。

噴水の水面には光が揺れ、石畳には次々と馬車が到着していた。

王都中の貴族が集まる夜。

それが王宮舞踏会である。

御者が扉を開き、豪華な衣装の貴族たちが降り立つ。

絹のドレス。
宝石の輝き。
羽飾りや刺繍。

音楽が流れ、笑い声が広がる。

その列の中に、一台の紋章付きの馬車が入ってきた。

ヴァルモン公爵家の馬車である。

門衛が紋章を確認し、深く礼をした。

「ヴァルモン公爵家、ご到着」

馬車の扉が開く。

最初に降りたのは、ギヨーム・ド・ヴァルモン。

黒の礼装に身を包み、堂々とした態度で周囲を見渡す。

続いて、マルグリットが降りる。

そして最後に――

セレスティーヌが姿を現した。

その瞬間、周囲の視線が一斉に集まった。

「……あれは」

「なんて美しいドレス」

貴族たちがざわめく。

セレスティーヌはゆっくりと馬車から降りた。

白銀の絹のドレス。

柔らかな光を受けて、まるで水面のように輝いている。

胸元には金糸の刺繍。

袖には細やかな紋様。

その美しさは、王都でも滅多に見られないものだった。

セレスティーヌは満足そうに微笑む。

周囲の視線が心地よい。

「見て、お母様」

小声で言う。

「みんな見てる」

マルグリットも満足そうに頷く。

「当然よ」

「ヴァルモン公爵家の令嬢なんですもの」

父も胸を張って歩き出す。

「行こう」

三人は王宮の階段を上がっていく。

周囲の貴族たちが道を開けた。

だが、その中に、違う表情を浮かべる者もいた。

年配の貴族たちである。

ある伯爵夫人が、隣の男爵に小声で言った。

「……あの意匠」

男爵は眉をひそめる。

「見覚えがあります」

「私もだ」

別の貴族が言う。

「ヴァルモン家の……」

言葉はそこで止まった。

一方、セレスティーヌはそんなことに気づかない。

大広間に入ると、さらに視線が集まった。

王宮の大広間は壮麗だった。

天井には巨大なシャンデリア。

床は磨き上げられた大理石。

壁には王家の紋章が並んでいる。

音楽隊が優雅な曲を奏でていた。

セレスティーヌはゆっくりと歩く。

ドレスの裾が光を受けて揺れる。

彼女はその瞬間、完全に自分が主役だと信じていた。

「素敵……」

若い令嬢たちが囁く。

「どこのドレスかしら」

「ヴァルモン家よ」

「さすが公爵家ね」

その声を聞いて、セレスティーヌは誇らしく微笑む。

父が小声で言った。

「堂々としていろ」

「ええ」

セレスティーヌは頷く。

そのとき。

大広間の入口付近で、二人の男が足を止めていた。

一人は王宮儀礼官。

もう一人は紋章管理官だった。

二人は遠くからセレスティーヌを見ている。

紋章管理官が小声で言った。

「……見ましたか」

儀礼官は頷く。

「ええ」

彼の視線は、セレスティーヌの胸元に向けられていた。

そこにある金糸の紋章。

「間違いありません」

紋章管理官は低く言う。

「ヴァルモン公爵家の直系女子礼装」

儀礼官の表情がわずかに変わる。

「ですが」

「今の公爵家の直系は――」

紋章管理官は小さく言った。

「別人のはずです」

二人はしばらく黙った。

音楽は続いている。

舞踏会はまだ始まったばかりだ。

だが、儀礼官は静かに言った。

「確認しましょう」

紋章管理官が頷く。

「ええ」

二人はゆっくりと歩き出した。

一方で、セレスティーヌは気づかない。

周囲の視線が変わり始めていることに。

賞賛だけではない。

疑問。

驚き。

そして――

静かな違和感。

それでも彼女は胸を張っていた。

この夜の主役は自分だと、信じて疑わない。

白銀の絹が、灯りを受けて輝いている。

それは確かに美しかった。

だが、その美しさは――

本来、彼女のものではなかった。
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