『奢侈禁止令の鉄槌 ―偽の公爵令嬢が紡ぐ、着られぬ絹の鎖―』

鷹 綾

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第14話 国家への反逆

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第14話 国家への反逆

大広間は、息を呑むような静寂に包まれていた。

白銀のドレスを着たまま立ち尽くすセレスティーヌ。
顔色を失った父、ギヨーム。
そして、その前に静かに立つオルタンス。

誰も動かない。

ただ視線だけが、三人の間を行き来していた。

オルタンスはゆっくりと手袋を整える。

その仕草は落ち着いていた。

まるで――

日常の執務でも始めるかのように。

そして彼女は口を開いた。

「王宮儀礼官殿」

テオドールが一歩前に出る。

「はい」

オルタンスは淡々と言った。

「確認をお願いします」

広間の空気がさらに張り詰める。

テオドールは頷いた。

「承知しました」

オルタンスは続ける。

その声は穏やかだった。

だが、一つ一つの言葉が冷たく広間に落ちていく。

「まず」

一拍。

「正統継承の偽装」

ざわめきが広がる。

オルタンスは父を見た。

「父上は入り婿であり」

「ヴァルモン公爵家の爵位継承権はお持ちではありません」

ギヨームが歯を食いしばる。

オルタンスは続ける。

「しかしながら」

「長年にわたり」

静かな声。

「ご自身を公爵家当主として扱い」

そして、セレスティーヌを見る。

「実子を公爵令嬢として社交界へ出していました」

会場の貴族たちがざわめく。

それはもう噂ではなく、公式の場での確認だった。

オルタンスの声は変わらない。

「次に」

二つ目の指を立てる。

「爵位の僭称」

セレスティーヌの肩が震える。

オルタンスは静かに言う。

「本来、爵位を名乗れるのは」

「正統な継承者のみ」

そして広間を見渡した。

「ですが義妹は」

「公爵令嬢として舞踏会へ出席しました」

一拍。

「しかも」

その視線がドレスへ向く。

「直系女子礼装を着用した状態で」

会場の空気が凍る。

オルタンスは続ける。

「三つ目」

指が三本になる。

「王宮儀礼の冒涜」

テオドールが静かに頷く。

オルタンスは言った。

「王宮の舞踏会は国家儀礼です」

「その場で身分を偽る行為は」

一拍。

「単なる家の問題ではありません」

広間が静まり返る。

そして最後の言葉。

「四つ目」

四本目の指。

「奢侈禁止令違反」

ざわめきが爆発する。

セレスティーヌが叫んだ。

「そんな!」

涙を流しながら言う。

「私はただ……!」

「綺麗だったから着ただけよ!」

だがオルタンスの表情は変わらない。

「存じております」

穏やかな声だった。

だが、その言葉は容赦がなかった。

「知らなかったのでしょう」

セレスティーヌの呼吸が止まる。

オルタンスは静かに言う。

「ですが」

ほんの一瞬の間。

「無知は免罪になりません」

広間が完全に静まる。

ギヨームが怒鳴った。

「いい加減にしろ!」

「娘を罪人扱いする気か!」

「家族の問題だ!」

だが、その言葉をテオドールが遮った。

「いいえ」

冷静な声。

「国家の問題です」

その言葉は重かった。

テオドールは続ける。

「王宮儀礼の場で」

「国家登録礼装を無資格者が着用」

さらに。

「爵位僭称」

広間の貴族たちが息を呑む。

テオドールは静かに言った。

「これは」

一拍。

「国家秩序への挑戦にあたります」

その言葉が落ちた瞬間。

セレスティーヌの足が崩れた。

ドレスの裾が広がる。

床に膝をつく。

「……いや」

涙が落ちる。

「そんなの……」

震える声。

「大げさよ……」

オルタンスは彼女を見下ろした。

そして静かに言った。

「大げさではありません」

その声は穏やかだった。

だが冷たい。

「あなたが着ているそれは」

ドレスを見る。

白銀の絹。

「家の衣装ではないのです」

一拍。

そして告げた。

「国家に登録された」

「身分の証です」

広間の空気が、完全に凍りついた。
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