15 / 33
第15話 母の形見の返還請求
しおりを挟む
第15話 母の形見の返還請求
大広間は、深い静寂に包まれていた。
膝をついたセレスティーヌ。
その白銀のドレスは、先ほどまでの輝きとは違う重さを帯びている。
誰も声を出さない。
貴族たちはただ見ていた。
華やかな舞踏会が、公開の断罪へ変わった瞬間を。
オルタンスはゆっくりと一歩前へ進んだ。
床に広がる絹の裾。
その前で足を止める。
セレスティーヌのすぐ目の前だった。
セレスティーヌは顔を上げる。
涙で滲んだ視界の向こうに、義姉の姿がある。
「……どうして」
かすれた声だった。
「どうしてこんなことするの」
オルタンスは少し首を傾けた。
「こんなこと?」
その声は穏やかだった。
怒りも憎しみもない。
ただ、事実を確認するような口調。
セレスティーヌは必死に言う。
「家族じゃない!」
「こんな場所で恥をかかせるなんて……!」
その言葉を、オルタンスは静かに聞いていた。
そして――
初めて、はっきりと彼女へ視線を向けた。
その瞳は冷たいわけではない。
だが、情もない。
完全に事務的な目だった。
「義妹」
その呼び方は変わらない。
だが距離をはっきりと示していた。
「一つ確認させてください」
セレスティーヌは息を呑む。
オルタンスはゆっくりと言った。
「その衣装」
彼女の視線がドレスへ落ちる。
白銀の絹。
金糸の刺繍。
「どこから持ち出しましたか」
セレスティーヌの呼吸が止まる。
「……え」
オルタンスは続けた。
「昨日」
「私の部屋に来ましたね」
広間が静まり返る。
セレスティーヌの顔が青くなる。
「それは……」
言葉が出ない。
オルタンスは淡々と言った。
「亡き母の私室」
「その衣装箱」
一拍。
「そこから持ち出されました」
会場がざわめく。
貴族たちが互いに顔を見合わせる。
オルタンスは続ける。
「その衣装は」
静かな声。
「母の形見です」
広間の空気が重くなる。
セレスティーヌの肩が震える。
「……知らなかった」
小さく呟く。
「そんなの……」
だがオルタンスの声は変わらない。
「加えて」
彼女は言った。
「それは」
一拍。
「公爵家直系女子礼装」
沈黙。
そして――
オルタンスは、初めてはっきりと宣言した。
「義妹(あなた)が無断で持ち出したのは」
静かな声。
「母の大切な形見です」
セレスティーヌの目から涙が溢れる。
「……ごめんなさい」
かすれた声。
「返すから……」
「だから……」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
オルタンスが、次の言葉を告げたからだ。
「当然」
その声は冷たかった。
「相応の賠償を求めます」
広間の空気が凍りつく。
セレスティーヌの顔が固まる。
「……え」
オルタンスは続けた。
「王宮登録礼装」
「家の遺産」
「無断持ち出し」
一つ一つ、淡々と数えていく。
「損害査定」
「修復費用」
「名誉毀損」
そして最後に言った。
「すべて記録されます」
セレスティーヌの手が震える。
「そんな……」
涙が落ちる。
「そこまで……」
オルタンスはもう彼女を見ていなかった。
視線はテオドールへ向いている。
「儀礼官殿」
テオドールが一歩前へ出る。
「はい」
オルタンスは静かに言った。
「礼装の回収を」
その声は落ち着いていた。
まるで当たり前の事務処理のように。
「お願いします」
その瞬間。
大広間の空気が、再び凍りついた。
大広間は、深い静寂に包まれていた。
膝をついたセレスティーヌ。
その白銀のドレスは、先ほどまでの輝きとは違う重さを帯びている。
誰も声を出さない。
貴族たちはただ見ていた。
華やかな舞踏会が、公開の断罪へ変わった瞬間を。
オルタンスはゆっくりと一歩前へ進んだ。
床に広がる絹の裾。
その前で足を止める。
セレスティーヌのすぐ目の前だった。
セレスティーヌは顔を上げる。
涙で滲んだ視界の向こうに、義姉の姿がある。
「……どうして」
かすれた声だった。
「どうしてこんなことするの」
オルタンスは少し首を傾けた。
「こんなこと?」
その声は穏やかだった。
怒りも憎しみもない。
ただ、事実を確認するような口調。
セレスティーヌは必死に言う。
「家族じゃない!」
「こんな場所で恥をかかせるなんて……!」
その言葉を、オルタンスは静かに聞いていた。
そして――
初めて、はっきりと彼女へ視線を向けた。
その瞳は冷たいわけではない。
だが、情もない。
完全に事務的な目だった。
「義妹」
その呼び方は変わらない。
だが距離をはっきりと示していた。
「一つ確認させてください」
セレスティーヌは息を呑む。
オルタンスはゆっくりと言った。
「その衣装」
彼女の視線がドレスへ落ちる。
白銀の絹。
金糸の刺繍。
「どこから持ち出しましたか」
セレスティーヌの呼吸が止まる。
「……え」
オルタンスは続けた。
「昨日」
「私の部屋に来ましたね」
広間が静まり返る。
セレスティーヌの顔が青くなる。
「それは……」
言葉が出ない。
オルタンスは淡々と言った。
「亡き母の私室」
「その衣装箱」
一拍。
「そこから持ち出されました」
会場がざわめく。
貴族たちが互いに顔を見合わせる。
オルタンスは続ける。
「その衣装は」
静かな声。
「母の形見です」
広間の空気が重くなる。
セレスティーヌの肩が震える。
「……知らなかった」
小さく呟く。
「そんなの……」
だがオルタンスの声は変わらない。
「加えて」
彼女は言った。
「それは」
一拍。
「公爵家直系女子礼装」
沈黙。
そして――
オルタンスは、初めてはっきりと宣言した。
「義妹(あなた)が無断で持ち出したのは」
静かな声。
「母の大切な形見です」
セレスティーヌの目から涙が溢れる。
「……ごめんなさい」
かすれた声。
「返すから……」
「だから……」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
オルタンスが、次の言葉を告げたからだ。
「当然」
その声は冷たかった。
「相応の賠償を求めます」
広間の空気が凍りつく。
セレスティーヌの顔が固まる。
「……え」
オルタンスは続けた。
「王宮登録礼装」
「家の遺産」
「無断持ち出し」
一つ一つ、淡々と数えていく。
「損害査定」
「修復費用」
「名誉毀損」
そして最後に言った。
「すべて記録されます」
セレスティーヌの手が震える。
「そんな……」
涙が落ちる。
「そこまで……」
オルタンスはもう彼女を見ていなかった。
視線はテオドールへ向いている。
「儀礼官殿」
テオドールが一歩前へ出る。
「はい」
オルタンスは静かに言った。
「礼装の回収を」
その声は落ち着いていた。
まるで当たり前の事務処理のように。
「お願いします」
その瞬間。
大広間の空気が、再び凍りついた。
22
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵家の令嬢だったシアには結婚して七年目になる夫がいる。
夫との間には娘が一人おり、傍から見れば幸せな家庭のように思えた。
が、しかし。
実際には彼女の夫である公爵は元メイドである愛人宅から帰らずシアを蔑ろにしていた。
彼女が頼れるのは実家と公爵邸にいる優しい使用人たちだけ。
ずっと耐えてきたシアだったが、ある日夫に娘の悪口を言われたことでとうとう堪忍袋の緒が切れて……!
ついに虐げられたお飾りの妻による復讐が始まる――
夫に報復をするために動く最中、愛人のまさかの事実が次々と判明して…!?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる