23 / 33
第23話 王宮図書室の調査
しおりを挟む
第23話 王宮図書室の調査
王宮図書室は、王都でも特別な場所だった。
高い天井。
壁一面に並ぶ書架。
そこには王国の歴史が、静かに積み重ねられている。
古い羊皮紙の匂いと、乾いた紙の香り。
この場所を訪れる貴族は少ない。
だがアウレリアにとっては、見慣れた場所だった。
その日も彼女は、迷いなく図書室の奥へ向かっていた。
「また来たのか」
低い声がした。
机の向こうに座っているのは、図書室の管理司書だ。
白髪の老人で、王宮の古文書を長年管理している人物だった。
アウレリアは軽く頭を下げる。
「お世話になります」
「今日は何だ」
司書は眼鏡の奥から彼女を見た。
「家系調査です」
アウレリアは簡潔に答える。
「ジオニック公爵家について」
司書の眉がわずかに動いた。
「公爵家?」
「ええ」
司書は少し考え、ゆっくり立ち上がった。
「貴族名鑑はあちらだ」
「紋章記録はその隣の棚」
「土地台帳は奥の書庫にある」
「ありがとうございます」
アウレリアは書架へ向かった。
まず手に取ったのは、王国貴族名鑑だった。
分厚い本を机に置き、ページをめくる。
公爵家の項目。
そこには王国でも限られた家名が並んでいた。
ヴァルデン公爵家。
ルミナール公爵家。
フェルドラン公爵家。
そして――
ジオニック公爵家。
アウレリアは指を止める。
「……」
名鑑の記述は簡潔だった。
家名。
紋章。
領地。
特に問題のある記述ではない。
だがアウレリアは、別の本を取り出した。
十年前の名鑑。
二十年前の名鑑。
ページをめくる。
同じ項目を探す。
そして――
「……ありました」
ジオニック家。
確かに記録はある。
だがアウレリアはそのまま、本を閉じなかった。
さらに古い名鑑を手に取る。
三十年前。
四十年前。
ページをめくる。
公爵家の一覧。
ヴァルデン。
ルミナール。
フェルドラン。
だが――
ジオニックの名前は、そこに無かった。
アウレリアの指が止まる。
「……」
そのときだった。
「見つかったか?」
司書が声をかけてくる。
アウレリアは顔を上げた。
「まだです」
そして静かに言う。
「もう少し古い名鑑を確認します」
司書は頷いた。
「奥の書庫だな」
「ありがとうございます」
アウレリアは奥の書庫へ向かった。
そこには、さらに古い資料が保管されている。
埃をかぶった箱。
革紐で束ねられた羊皮紙。
王国が成立した頃からの記録も残っている。
アウレリアは慎重に箱を開けた。
中から古い名鑑を取り出す。
表紙の文字は、すでに擦れて読みにくくなっていた。
ページをめくる。
公爵家の一覧。
ヴァルデン。
ルミナール。
フェルドラン。
やはり――
ジオニックの名前は無い。
アウレリアは静かに息を吐いた。
「……なるほど」
そのあと、紋章記録も確認する。
ジオニック家の紋章。
黒地の盾。
中央に金の剣。
だがその記録も――
比較的新しいものだった。
古い紋章記録には、存在しない。
アウレリアは本を閉じた。
窓から夕日が差し込んでいる。
王宮図書室は静まり返っていた。
彼女は小さく呟く。
「記録が……新しい」
公爵家の歴史としては、あまりにも。
普通の公爵家なら、何百年もの記録が残っている。
だがジオニック家は違う。
記録が現れるのは、三十年前からだ。
アウレリアは机に手を置いた。
そして静かに考える。
三十年前。
その頃、何があったのか。
貴族の家系が突然現れることなど、本来あり得ない。
だがもし――
何かの理由で
家系が作られたとしたら。
アウレリアは本を閉じた。
まだ断定はできない。
だが一つだけ、確かなことがある。
ジオニック公爵家。
その家の歴史には――
大きな空白が存在していた。
王宮図書室は、王都でも特別な場所だった。
高い天井。
壁一面に並ぶ書架。
そこには王国の歴史が、静かに積み重ねられている。
古い羊皮紙の匂いと、乾いた紙の香り。
この場所を訪れる貴族は少ない。
だがアウレリアにとっては、見慣れた場所だった。
その日も彼女は、迷いなく図書室の奥へ向かっていた。
「また来たのか」
低い声がした。
机の向こうに座っているのは、図書室の管理司書だ。
白髪の老人で、王宮の古文書を長年管理している人物だった。
アウレリアは軽く頭を下げる。
「お世話になります」
「今日は何だ」
司書は眼鏡の奥から彼女を見た。
「家系調査です」
アウレリアは簡潔に答える。
「ジオニック公爵家について」
司書の眉がわずかに動いた。
「公爵家?」
「ええ」
司書は少し考え、ゆっくり立ち上がった。
「貴族名鑑はあちらだ」
「紋章記録はその隣の棚」
「土地台帳は奥の書庫にある」
「ありがとうございます」
アウレリアは書架へ向かった。
まず手に取ったのは、王国貴族名鑑だった。
分厚い本を机に置き、ページをめくる。
公爵家の項目。
そこには王国でも限られた家名が並んでいた。
ヴァルデン公爵家。
ルミナール公爵家。
フェルドラン公爵家。
そして――
ジオニック公爵家。
アウレリアは指を止める。
「……」
名鑑の記述は簡潔だった。
家名。
紋章。
領地。
特に問題のある記述ではない。
だがアウレリアは、別の本を取り出した。
十年前の名鑑。
二十年前の名鑑。
ページをめくる。
同じ項目を探す。
そして――
「……ありました」
ジオニック家。
確かに記録はある。
だがアウレリアはそのまま、本を閉じなかった。
さらに古い名鑑を手に取る。
三十年前。
四十年前。
ページをめくる。
公爵家の一覧。
ヴァルデン。
ルミナール。
フェルドラン。
だが――
ジオニックの名前は、そこに無かった。
アウレリアの指が止まる。
「……」
そのときだった。
「見つかったか?」
司書が声をかけてくる。
アウレリアは顔を上げた。
「まだです」
そして静かに言う。
「もう少し古い名鑑を確認します」
司書は頷いた。
「奥の書庫だな」
「ありがとうございます」
アウレリアは奥の書庫へ向かった。
そこには、さらに古い資料が保管されている。
埃をかぶった箱。
革紐で束ねられた羊皮紙。
王国が成立した頃からの記録も残っている。
アウレリアは慎重に箱を開けた。
中から古い名鑑を取り出す。
表紙の文字は、すでに擦れて読みにくくなっていた。
ページをめくる。
公爵家の一覧。
ヴァルデン。
ルミナール。
フェルドラン。
やはり――
ジオニックの名前は無い。
アウレリアは静かに息を吐いた。
「……なるほど」
そのあと、紋章記録も確認する。
ジオニック家の紋章。
黒地の盾。
中央に金の剣。
だがその記録も――
比較的新しいものだった。
古い紋章記録には、存在しない。
アウレリアは本を閉じた。
窓から夕日が差し込んでいる。
王宮図書室は静まり返っていた。
彼女は小さく呟く。
「記録が……新しい」
公爵家の歴史としては、あまりにも。
普通の公爵家なら、何百年もの記録が残っている。
だがジオニック家は違う。
記録が現れるのは、三十年前からだ。
アウレリアは机に手を置いた。
そして静かに考える。
三十年前。
その頃、何があったのか。
貴族の家系が突然現れることなど、本来あり得ない。
だがもし――
何かの理由で
家系が作られたとしたら。
アウレリアは本を閉じた。
まだ断定はできない。
だが一つだけ、確かなことがある。
ジオニック公爵家。
その家の歴史には――
大きな空白が存在していた。
0
あなたにおすすめの小説
王太子に婚約破棄されたけど、私は皇女。幸せになるのは私です。
夢窓(ゆめまど)
恋愛
王太子に婚約破棄された令嬢リリベッタ。
「これで平民に落ちるのかしら?」――そんな周囲の声をよそに、本人は思い出した。
――わたし、皇女なんですけど?
叔父は帝国の皇帝。
昔のクーデターから逃れるため、一時期王国に亡命していた彼女は、
その見返りとして“王太子との婚約”を受け入れていただけだった。
一方的に婚約破棄されたのをきっかけに、
本来の立場――“帝国の皇女”として戻ることに決めました。
さようなら、情けない王太子。
これからは、自由に、愛されて、幸せになりますわ!
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
妹さんが婚約者の私より大切なのですね
はまみ
恋愛
私の婚約者、オリオン子爵令息様は、
妹のフローラ様をとても大切にされているの。
家族と仲の良いオリオン様は、きっととてもお優しいのだわ。
でも彼は、妹君のことばかり…
この頃、ずっとお会いできていないの。
☆お気に入りやエール、♥など、ありがとうございます!励みになります!
【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました
あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。
そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。
平民出身のヒロインの「善意」、
王太子の「優しさ」、
そしてそれらが生み出す無数の歪み。
感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。
やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。
それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。
なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。
これは、
「断罪される側」が最後まで正しかった物語。
そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる