『平民を人間扱いしない公爵令息、あなたも平民です! ~系譜検察官の目は欺けません~

鷹 綾

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第25話 家系図の違和感

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第25話 家系図の違和感

その日の夜。

アウレリアの屋敷の書斎には、いくつもの資料が広げられていた。

王宮図書室から持ち帰った写し。
貴族名鑑。
紋章記録。

そして、ジオニック公爵家の家系図。

机の上に置かれたその家系図を、アウレリアは静かに見つめていた。

リナが不思議そうに覗き込む。

「それが……ジオニック家の家系図ですか?」

「ええ」

アウレリアは頷いた。

「公表されているものです」

羊皮紙には、きれいに整えられた系図が描かれている。

三十年前。

初代ジオニック公爵。

その下に二代目。

そして現在の当主。

整った家系図だった。

だが――

アウレリアは小さく呟いた。

「綺麗すぎますね」

リナは首を傾げる。

「綺麗すぎる?」

「普通の家系図ではありません」

アウレリアは指で羊皮紙をなぞる。

「古い貴族の家系図は、もっと複雑です」

リナは困った顔をした。

「どういう意味ですか?」

アウレリアは説明する。

「養子」

「分家」

「婚姻」

「継承争い」

「そういうものが必ず存在します」

リナは頷く。

「確かに……」

アウレリアは家系図を指差した。

「ですがジオニック家には、それがほとんどありません」

初代。

二代目。

三代目。

まるで一直線に続く家系。

アウレリアは続けた。

「普通の貴族の家なら、どこかで枝分かれするものです」

「しかしこの家系図は――」

彼女は少し言葉を止めた。

「作られた図のように整っています」

リナの顔がこわばる。

「作られた……?」

そのとき、扉がノックされた。

「お嬢様」

使用人の声。

「セレスティア様がお見えです」

「通してください」

しばらくしてセレスティアが書斎へ入ってきた。

机の上の資料を見て、少し目を細める。

「調査は進んでいるようですね」

「ええ」

アウレリアは家系図を示した。

「これを見てください」

セレスティアは羊皮紙を手に取る。

「ジオニック家の家系図ですね」

「そうです」

アウレリアは言った。

「違和感を感じませんか?」

セレスティアはしばらく黙って見ていた。

やがて言う。

「……確かに」

リナが慌てて聞く。

「何が変なんですか?」

セレスティアは答える。

「簡単すぎる」

アウレリアは頷いた。

「その通りです」

セレスティアは続ける。

「普通の公爵家なら、もっと長い歴史があります」

「婚姻関係も複雑ですし、分家も存在します」

彼女は家系図を机に置いた。

「ですがこれは」

少し言葉を選びながら言う。

「不自然なほど整っています」

アウレリアは静かに言った。

「さらに問題があります」

二人が顔を上げる。

アウレリアは別の資料を開いた。

「王宮図書室の記録では」

「ジオニック公爵家の爵位認定は三十年前です」

セレスティアは頷く。

「それは知っています」

「戦功による爵位授与と聞いています」

アウレリアは静かに言った。

「問題は、その前です」

セレスティアが眉を寄せる。

「前?」

「ええ」

アウレリアは資料を指差した。

「その家の出自が、どこにも記録されていない」

部屋の空気が重くなる。

リナが小さく言った。

「でも……そんなことって」

セレスティアは静かに呟いた。

「普通はありません」

貴族の家は、必ず記録が残る。

土地台帳。
紋章登録。
婚姻記録。

それらが何世代も続いているのが普通だ。

だがジオニック家には、それが無い。

アウレリアは言った。

「この家系図は」

少し間を置く。

「三十年前からしか存在していません」

セレスティアは静かに息を吐いた。

「つまり」

「それ以前の家系が存在しない」

アウレリアは頷いた。

「少なくとも、王宮の記録にはありません」

沈黙が落ちる。

リナは不安そうに二人を見る。

「それって……」

セレスティアはゆっくり言った。

「まだ断定はできません」

だがその声は重かった。

アウレリアは机の上の家系図を見つめる。

整いすぎた家系図。

三十年前から始まる歴史。

それは、まるで――

最初から作られた家系図のようだった。
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