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第37話 隠す理由が、消えました
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第37話 隠す理由が、消えました
異変は、ある日突然起きるものではない。
むしろ――
誰もが分かっているのに、
なぜか言葉にしなかったことが、
一斉に「もういいか」と解禁される瞬間に起きる。
公爵家では、まさにそれが起きていた。
---
朝。
ノエリア・ヴァンローゼは、
いつも通りの時間に廊下を歩いていた。
「おはようございます」
「おはようございます、ノエリア様」
返事は揃っている。
礼も正しい。
――だが。
(……視線が、
やけに温かいですわね)
違和感はある。
しかし、
理由までは考えない。
---
食堂。
朝食の準備が整う。
席は、
自然に二人分。
以前なら、
間に距離があった。
今は、
最初から並んでいる。
(……配置が、
変わりましたわね)
だが、
ノエリアはそれを
「効率化」と判断した。
※誰も異議を唱えていない。
---
「紅茶は、
いつも通りでよろしいですか」
メイドが尋ねる。
「ええ」
「公爵様も、
同じで?」
「ああ」
一括処理。
メイドは、
満足そうに頷いた。
(……もう、
分ける必要ありませんね)
※誰もそう言っていないが、
全員がそう思っている。
---
午前。
書斎。
政務官が、
資料を運びながら
ぽつりと呟いた。
「……最近、
説明が楽でして」
「何がだ?」
ヴァルデリオが尋ねる。
「いえ、
ノエリア様がいらっしゃると」
一拍。
「“家としての結論”が
即座にまとまりますので」
ノエリアは、
その会話を聞きながら、
首をかしげた。
(……それは、
連携が取れているからですわ)
※正しいが、
理由が違う。
---
昼。
庭園。
数名の貴族が
非公式に訪問していた。
表向きは、
挨拶と世間話。
だが。
「……ノエリア様」
一人が、
探るように口を開く。
「最近は、
公爵家での生活が
お忙しいとか」
「ええ」
ノエリアは、
何の含みもなく答える。
「とても充実していますわ」
その瞬間。
全員が確信した。
――否定しない。
曖昧にもしない。
堂々と肯定した。
---
「……それは、
何よりです」
貴族たちは、
それ以上踏み込まなかった。
いや、
踏み込む必要がなかった。
もう答えは、
出ている。
---
午後。
使用人控室。
「……もう、
隠さなくていいですよね」
「ええ」
「王都も、
理解したでしょうし」
「“理解した”というより、
“諦めた”ですね」
全会一致。
方針決定。
---
その結果。
夕方以降、
屋敷の空気が
微妙に変わった。
ノエリアが移動すれば、
自然にヴァルデリオの予定が調整される。
ヴァルデリオが動けば、
ノエリアの席が用意される。
誰も指示していない。
誰も命令していない。
勝手に、そうなった。
---
「……最近」
ノエリアは、
書斎でぽつりと呟いた。
「皆さん、
親切すぎませんか」
「そうか?」
ヴァルデリオは、
書類から目を離さずに答える。
「以前より、
動線が整っている気がしますわ」
「合理的だ」
それで会話終了。
※誰も訂正しない。
---
夜。
非公式の晩餐。
席順は、
完全に固定されていた。
ノエリアの右に、
ヴァルデリオ。
当然の配置。
誰一人、
疑問に思っていない。
ノエリアだけが、
少し考え込んだ。
(……あら)
(……私、
どこへ行くにも
この位置ですわね)
だが、
嫌ではない。
むしろ、
落ち着く。
その感覚を、
彼女はまだ
言語化しない。
---
晩餐後。
廊下を並んで歩く。
ノエリアが、
ふと足を止める。
「……ヴァルデリオ様」
「どうした」
「最近、
皆さんの対応が
少し変わった気がします」
ヴァルデリオは、
一瞬だけ考え――
正直に答えた。
「……今さら、
取り繕う必要が
なくなっただけだ」
「?」
ノエリアは、
首をかしげる。
「何を、
ですか」
ヴァルデリオは、
答えなかった。
答える必要が、
ないからだ。
---
夜。
ノエリアは、
日記を開いた。
『最近、
周囲が騒がしい。』
一行空ける。
『でも、
不思議と居心地は良い。』
さらに一行。
『なぜかは、
まだ分からない。』
閉じる。
※全員分かっている。
---
同じ夜。
使用人控室。
「……もう、
完全に“公爵夫妻”扱いですね」
「ええ」
「本人たち以外、
誰も否定していませんし」
「否定する理由も、
ありません」
結論。
---
白い結婚(予定)生活。
第37日目。
隠す理由は、
完全に消えた。
残っているのは、
ただ一つ。
――本人の自覚だけ。
だが。
それすらも、
もはや時間の問題だった。
異変は、ある日突然起きるものではない。
むしろ――
誰もが分かっているのに、
なぜか言葉にしなかったことが、
一斉に「もういいか」と解禁される瞬間に起きる。
公爵家では、まさにそれが起きていた。
---
朝。
ノエリア・ヴァンローゼは、
いつも通りの時間に廊下を歩いていた。
「おはようございます」
「おはようございます、ノエリア様」
返事は揃っている。
礼も正しい。
――だが。
(……視線が、
やけに温かいですわね)
違和感はある。
しかし、
理由までは考えない。
---
食堂。
朝食の準備が整う。
席は、
自然に二人分。
以前なら、
間に距離があった。
今は、
最初から並んでいる。
(……配置が、
変わりましたわね)
だが、
ノエリアはそれを
「効率化」と判断した。
※誰も異議を唱えていない。
---
「紅茶は、
いつも通りでよろしいですか」
メイドが尋ねる。
「ええ」
「公爵様も、
同じで?」
「ああ」
一括処理。
メイドは、
満足そうに頷いた。
(……もう、
分ける必要ありませんね)
※誰もそう言っていないが、
全員がそう思っている。
---
午前。
書斎。
政務官が、
資料を運びながら
ぽつりと呟いた。
「……最近、
説明が楽でして」
「何がだ?」
ヴァルデリオが尋ねる。
「いえ、
ノエリア様がいらっしゃると」
一拍。
「“家としての結論”が
即座にまとまりますので」
ノエリアは、
その会話を聞きながら、
首をかしげた。
(……それは、
連携が取れているからですわ)
※正しいが、
理由が違う。
---
昼。
庭園。
数名の貴族が
非公式に訪問していた。
表向きは、
挨拶と世間話。
だが。
「……ノエリア様」
一人が、
探るように口を開く。
「最近は、
公爵家での生活が
お忙しいとか」
「ええ」
ノエリアは、
何の含みもなく答える。
「とても充実していますわ」
その瞬間。
全員が確信した。
――否定しない。
曖昧にもしない。
堂々と肯定した。
---
「……それは、
何よりです」
貴族たちは、
それ以上踏み込まなかった。
いや、
踏み込む必要がなかった。
もう答えは、
出ている。
---
午後。
使用人控室。
「……もう、
隠さなくていいですよね」
「ええ」
「王都も、
理解したでしょうし」
「“理解した”というより、
“諦めた”ですね」
全会一致。
方針決定。
---
その結果。
夕方以降、
屋敷の空気が
微妙に変わった。
ノエリアが移動すれば、
自然にヴァルデリオの予定が調整される。
ヴァルデリオが動けば、
ノエリアの席が用意される。
誰も指示していない。
誰も命令していない。
勝手に、そうなった。
---
「……最近」
ノエリアは、
書斎でぽつりと呟いた。
「皆さん、
親切すぎませんか」
「そうか?」
ヴァルデリオは、
書類から目を離さずに答える。
「以前より、
動線が整っている気がしますわ」
「合理的だ」
それで会話終了。
※誰も訂正しない。
---
夜。
非公式の晩餐。
席順は、
完全に固定されていた。
ノエリアの右に、
ヴァルデリオ。
当然の配置。
誰一人、
疑問に思っていない。
ノエリアだけが、
少し考え込んだ。
(……あら)
(……私、
どこへ行くにも
この位置ですわね)
だが、
嫌ではない。
むしろ、
落ち着く。
その感覚を、
彼女はまだ
言語化しない。
---
晩餐後。
廊下を並んで歩く。
ノエリアが、
ふと足を止める。
「……ヴァルデリオ様」
「どうした」
「最近、
皆さんの対応が
少し変わった気がします」
ヴァルデリオは、
一瞬だけ考え――
正直に答えた。
「……今さら、
取り繕う必要が
なくなっただけだ」
「?」
ノエリアは、
首をかしげる。
「何を、
ですか」
ヴァルデリオは、
答えなかった。
答える必要が、
ないからだ。
---
夜。
ノエリアは、
日記を開いた。
『最近、
周囲が騒がしい。』
一行空ける。
『でも、
不思議と居心地は良い。』
さらに一行。
『なぜかは、
まだ分からない。』
閉じる。
※全員分かっている。
---
同じ夜。
使用人控室。
「……もう、
完全に“公爵夫妻”扱いですね」
「ええ」
「本人たち以外、
誰も否定していませんし」
「否定する理由も、
ありません」
結論。
---
白い結婚(予定)生活。
第37日目。
隠す理由は、
完全に消えた。
残っているのは、
ただ一つ。
――本人の自覚だけ。
だが。
それすらも、
もはや時間の問題だった。
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