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第36話 それは管理であって、独占ではありません
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第36話 それは管理であって、独占ではありません
ノエリア・ヴァンローゼは、自分が「感情に流される人間ではない」と確信している。
好き嫌いで判断しない。
気分で行動しない。
ましてや、誰かを縛るような感情など――論外だ。
だから、この日の出来事についても、
彼女は一貫してこう結論づけていた。
(……これは、
単なる業務管理ですわ)
※なお、
誰も同意していない。
---
発端は、何気ない一言だった。
午前中、書斎での作業中。
報告書を確認していたヴァルデリオが、
ふと口にした。
「……午後、
王都からの使者と
少し会うことになる」
それだけ。
深い意味も、
説明もない。
だが。
「……王都、ですか」
ノエリアの声が、
ほんの一瞬だけ低くなった。
本人は、
その変化に気づいていない。
---
「形式的な面会だ」
ヴァルデリオは、
特に意識せず続ける。
「公的な報告と、
挨拶程度」
「……そう」
ノエリアは、
一度頷き――
そこで、
手が止まった。
(……王都の使者)
(……最近、
余計なことばかり
していらっしゃいますわね)
思考が、
自然に“整理”へ向かう。
---
「……その面会」
ノエリアは、
視線を資料から離さずに言った。
「どなたが同席なさるのですか」
「私と、
政務官が一人」
「……他に?」
「特には」
その瞬間。
ノエリアの中で、
何かが
すっと決まった。
(……足りませんわね)
---
「でしたら」
顔を上げる。
「私も同席いたします」
即断。
ヴァルデリオが、
わずかに目を瞬かせる。
「……理由は?」
「ありますわ」
ノエリアは、
真剣な表情で答えた。
「王都は、
未だに
状況を誤解しています」
「その誤解を、
正す必要があります」
※正論。
だが、
動機は別の場所にある。
---
「……それは」
ヴァルデリオは、
一瞬考える。
拒否する理由は、
ない。
「構わない」
「ありがとうございます」
その返事を聞いて、
ノエリアの胸の奥が
ほんの少しだけ軽くなる。
――ここで、
ようやく違和感が生じた。
(……あら?)
(……なぜ、
安心したのでしょう)
だが、
深く考えない。
---
午後。
応接室。
王都の使者が、
丁寧な挨拶と共に入室する。
「本日は――」
途中で、
ノエリアの存在に気づき、
一瞬言葉に詰まる。
「……ノエリア様も
同席されるとは」
「問題ありますか?」
ノエリアは、
にこやかに問い返す。
声は柔らかいが、
逃げ道はない。
「い、いえ……」
使者は、
咳払いをした。
---
会談は、
表向きは穏やかに進んだ。
形式的な報告。
儀礼的な言葉。
だが。
「……ところで」
使者が、
慎重に切り出す。
「ノエリア様には、
最近――」
「私の生活は、
非常に安定しております」
ノエリアが、
即座に遮った。
ヴァルデリオは、
何も言わない。
言わせている。
---
「公爵家としても、
何の問題もありません」
続ける。
「外部からの
“配慮”は、
不要ですわ」
その言葉に、
使者は完全に黙り込んだ。
理由は明白。
彼女の態度が、
“内側の人間”のそれ
だったからだ。
---
会談終了後。
使者が退室すると同時に、
応接室の空気が
ふっと緩んだ。
「……助かった」
ヴァルデリオが、
低く言う。
「余計な探りを、
入れさせずに済んだ」
「当然ですわ」
ノエリアは、
さらりと答える。
「余計な刺激は、
与えるべきでは
ありません」
その言葉を聞いた
政務官が、
内心で絶叫した。
(……刺激を与えてるのは、
ノエリア様ご本人です……!)
---
その後。
廊下を歩きながら、
ヴァルデリオが
ぽつりと言った。
「……無理をさせたか」
「いいえ」
即答。
「必要なことでした」
一拍。
「それに――」
少し考えてから、
続ける。
「私が同席していた方が、
安心でしたので」
――完全アウト。
本人だけが、
気づいていない。
---
ヴァルデリオは、
足を止めた。
「……安心?」
「ええ」
ノエリアは、
何の疑問もなく頷く。
「また勝手なことを
言い出されると、
面倒ですもの」
※理由、後付け。
---
「……ノエリア」
ヴァルデリオは、
穏やかな声で言う。
「それは、
独占欲というのでは?」
ノエリアは、
一瞬きょとんとした。
次の瞬間。
「まさか」
即否定。
「管理ですわ」
断言。
「外部要因を
排除するための
合理的判断です」
胸を張る。
---
ヴァルデリオは、
それ以上追及しなかった。
必要はない。
行動が、
すでに答えだからだ。
---
夜。
ノエリアは、
日記を開いた。
『王都の使者に同席した。』
一行空ける。
『余計なことを
言わせずに済んだ。』
さらに一行。
『業務は円滑。
問題なし。』
満足そうに閉じる。
※なお、
最後まで
“独占”という単語は
登場しない。
---
同じ夜。
使用人控室。
「……見ました?」
「ええ」
「完全に、
囲ってましたね」
「本人は
“管理”のつもりですが」
全員、
深く頷いた。
---
白い結婚(予定)生活。
第36日目。
ノエリア・ヴァンローゼは、
自覚ゼロのまま、
はっきりと独占した。
それを
否定すればするほど、
周囲の確信は
深まっていく。
――次に崩れるのは、
自覚か、
言い訳か。
どちらにしても、
もう時間の問題だった。
ノエリア・ヴァンローゼは、自分が「感情に流される人間ではない」と確信している。
好き嫌いで判断しない。
気分で行動しない。
ましてや、誰かを縛るような感情など――論外だ。
だから、この日の出来事についても、
彼女は一貫してこう結論づけていた。
(……これは、
単なる業務管理ですわ)
※なお、
誰も同意していない。
---
発端は、何気ない一言だった。
午前中、書斎での作業中。
報告書を確認していたヴァルデリオが、
ふと口にした。
「……午後、
王都からの使者と
少し会うことになる」
それだけ。
深い意味も、
説明もない。
だが。
「……王都、ですか」
ノエリアの声が、
ほんの一瞬だけ低くなった。
本人は、
その変化に気づいていない。
---
「形式的な面会だ」
ヴァルデリオは、
特に意識せず続ける。
「公的な報告と、
挨拶程度」
「……そう」
ノエリアは、
一度頷き――
そこで、
手が止まった。
(……王都の使者)
(……最近、
余計なことばかり
していらっしゃいますわね)
思考が、
自然に“整理”へ向かう。
---
「……その面会」
ノエリアは、
視線を資料から離さずに言った。
「どなたが同席なさるのですか」
「私と、
政務官が一人」
「……他に?」
「特には」
その瞬間。
ノエリアの中で、
何かが
すっと決まった。
(……足りませんわね)
---
「でしたら」
顔を上げる。
「私も同席いたします」
即断。
ヴァルデリオが、
わずかに目を瞬かせる。
「……理由は?」
「ありますわ」
ノエリアは、
真剣な表情で答えた。
「王都は、
未だに
状況を誤解しています」
「その誤解を、
正す必要があります」
※正論。
だが、
動機は別の場所にある。
---
「……それは」
ヴァルデリオは、
一瞬考える。
拒否する理由は、
ない。
「構わない」
「ありがとうございます」
その返事を聞いて、
ノエリアの胸の奥が
ほんの少しだけ軽くなる。
――ここで、
ようやく違和感が生じた。
(……あら?)
(……なぜ、
安心したのでしょう)
だが、
深く考えない。
---
午後。
応接室。
王都の使者が、
丁寧な挨拶と共に入室する。
「本日は――」
途中で、
ノエリアの存在に気づき、
一瞬言葉に詰まる。
「……ノエリア様も
同席されるとは」
「問題ありますか?」
ノエリアは、
にこやかに問い返す。
声は柔らかいが、
逃げ道はない。
「い、いえ……」
使者は、
咳払いをした。
---
会談は、
表向きは穏やかに進んだ。
形式的な報告。
儀礼的な言葉。
だが。
「……ところで」
使者が、
慎重に切り出す。
「ノエリア様には、
最近――」
「私の生活は、
非常に安定しております」
ノエリアが、
即座に遮った。
ヴァルデリオは、
何も言わない。
言わせている。
---
「公爵家としても、
何の問題もありません」
続ける。
「外部からの
“配慮”は、
不要ですわ」
その言葉に、
使者は完全に黙り込んだ。
理由は明白。
彼女の態度が、
“内側の人間”のそれ
だったからだ。
---
会談終了後。
使者が退室すると同時に、
応接室の空気が
ふっと緩んだ。
「……助かった」
ヴァルデリオが、
低く言う。
「余計な探りを、
入れさせずに済んだ」
「当然ですわ」
ノエリアは、
さらりと答える。
「余計な刺激は、
与えるべきでは
ありません」
その言葉を聞いた
政務官が、
内心で絶叫した。
(……刺激を与えてるのは、
ノエリア様ご本人です……!)
---
その後。
廊下を歩きながら、
ヴァルデリオが
ぽつりと言った。
「……無理をさせたか」
「いいえ」
即答。
「必要なことでした」
一拍。
「それに――」
少し考えてから、
続ける。
「私が同席していた方が、
安心でしたので」
――完全アウト。
本人だけが、
気づいていない。
---
ヴァルデリオは、
足を止めた。
「……安心?」
「ええ」
ノエリアは、
何の疑問もなく頷く。
「また勝手なことを
言い出されると、
面倒ですもの」
※理由、後付け。
---
「……ノエリア」
ヴァルデリオは、
穏やかな声で言う。
「それは、
独占欲というのでは?」
ノエリアは、
一瞬きょとんとした。
次の瞬間。
「まさか」
即否定。
「管理ですわ」
断言。
「外部要因を
排除するための
合理的判断です」
胸を張る。
---
ヴァルデリオは、
それ以上追及しなかった。
必要はない。
行動が、
すでに答えだからだ。
---
夜。
ノエリアは、
日記を開いた。
『王都の使者に同席した。』
一行空ける。
『余計なことを
言わせずに済んだ。』
さらに一行。
『業務は円滑。
問題なし。』
満足そうに閉じる。
※なお、
最後まで
“独占”という単語は
登場しない。
---
同じ夜。
使用人控室。
「……見ました?」
「ええ」
「完全に、
囲ってましたね」
「本人は
“管理”のつもりですが」
全員、
深く頷いた。
---
白い結婚(予定)生活。
第36日目。
ノエリア・ヴァンローゼは、
自覚ゼロのまま、
はっきりと独占した。
それを
否定すればするほど、
周囲の確信は
深まっていく。
――次に崩れるのは、
自覚か、
言い訳か。
どちらにしても、
もう時間の問題だった。
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