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第三十七話 背中を預けるということ
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第三十七話 背中を預けるということ
改革が進むほど、
前に立つ者は、少なくなっていく。
だが――
前に立たなくても済むようになるほど、
背中を預ける相手の存在が、重要になる。
王都の官庁では、以前には考えられなかった光景が増えていた。
「この判断、こちらで引き受けます」 「問題が出たら、私の部署で修正します」
言葉は、淡々としている。
だが、その裏には、逃げない意思がある。
かつての王都では、
責任を引き受ける言葉は、
昇進か、処罰か、
どちらかに直結していた。
だから、誰も言わなかった。
今は違う。
責任を引き受ける言葉が、
組織を前に進めるための道具になっている。
午後。
王都に、新たな課題が持ち込まれる。
隣国との共同水利計画。
利点は大きいが、政治的にも、感情的にも難しい。
「……今回は、外部との判断が絡みます」
会議室で、誰かがそう言った。
「一本化が必要だな」
その言葉に、
自然と、全員の視線が、アントナン・ドームに集まる。
だが――
「待て」
声を出したのは、
これまで補佐に回っていた中堅官吏だった。
「今回は、我々で案をまとめる」 「殿下には、最終確認だけお願いしたい」
一瞬、空気が張り詰める。
「……理由は?」
アントナンの問いに、
中堅官吏は、真っ直ぐ答えた。
「判断基準は、共有されています」 「政治的な責任は殿下にありますが、
実務判断まで、背負わせるべきではありません」
静まり返る会議室。
それは、
権限を奪う言葉ではない。
背中を預けるという意思表示だった。
アントナンは、しばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「……分かった」 「案を見せてくれ」
その一言で、
会議は前に進み始める。
数日後。
共同水利計画の草案が、提出される。
利害調整。
段階導入。
最悪時の撤退条件。
どれも、現実的だった。
「……よく、ここまで詰めたな」
アントナンの言葉に、
中堅官吏は、静かに答える。
「殿下が、立ってくださっているからです」 「だから、こちらも立てます」
その言葉は、
忠誠でも、賛辞でもない。
信頼の言葉だった。
夜。
王宮の書斎。
アントナンは、椅子に座り、深く息を吐いた。
(……背中を預ける、か)
これまでの自分は、
誰にも背中を預けなかった。
預けられなかった。
だが今は――
(預けても、倒れない)
それを、初めて実感していた。
一方、隣国。
エミー・マイセンは、王都の共同水利計画についての報告を受けていた。
「実務判断は、現場主導です」 「王太子は、最終確認のみ」
その内容に、彼女は目を伏せ、静かに頷く。
「……ようやく、背中を預け合える段階ですね」
補佐官が、慎重に問う。
「追いついた、と見ますか?」
エミーは、首を横に振る。
「追いつく必要はありません」 「同じ速さで、別の道を歩ければ、それで十分です」
ガイストが、低く言う。
「君がいなくても、回り始めたな」
「はい」
エミーは、淡々と答える。
「だからこそ、私は戻らない」
それは、拒絶ではない。
完成に近づいた証だった。
王都では、今日も判断が進んでいる。
誰かが前に立ち、
誰かが支え、
誰かが背中を預ける。
その循環が、
ようやく、自然に回り始めていた。
改革が進むほど、
前に立つ者は、少なくなっていく。
だが――
前に立たなくても済むようになるほど、
背中を預ける相手の存在が、重要になる。
王都の官庁では、以前には考えられなかった光景が増えていた。
「この判断、こちらで引き受けます」 「問題が出たら、私の部署で修正します」
言葉は、淡々としている。
だが、その裏には、逃げない意思がある。
かつての王都では、
責任を引き受ける言葉は、
昇進か、処罰か、
どちらかに直結していた。
だから、誰も言わなかった。
今は違う。
責任を引き受ける言葉が、
組織を前に進めるための道具になっている。
午後。
王都に、新たな課題が持ち込まれる。
隣国との共同水利計画。
利点は大きいが、政治的にも、感情的にも難しい。
「……今回は、外部との判断が絡みます」
会議室で、誰かがそう言った。
「一本化が必要だな」
その言葉に、
自然と、全員の視線が、アントナン・ドームに集まる。
だが――
「待て」
声を出したのは、
これまで補佐に回っていた中堅官吏だった。
「今回は、我々で案をまとめる」 「殿下には、最終確認だけお願いしたい」
一瞬、空気が張り詰める。
「……理由は?」
アントナンの問いに、
中堅官吏は、真っ直ぐ答えた。
「判断基準は、共有されています」 「政治的な責任は殿下にありますが、
実務判断まで、背負わせるべきではありません」
静まり返る会議室。
それは、
権限を奪う言葉ではない。
背中を預けるという意思表示だった。
アントナンは、しばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「……分かった」 「案を見せてくれ」
その一言で、
会議は前に進み始める。
数日後。
共同水利計画の草案が、提出される。
利害調整。
段階導入。
最悪時の撤退条件。
どれも、現実的だった。
「……よく、ここまで詰めたな」
アントナンの言葉に、
中堅官吏は、静かに答える。
「殿下が、立ってくださっているからです」 「だから、こちらも立てます」
その言葉は、
忠誠でも、賛辞でもない。
信頼の言葉だった。
夜。
王宮の書斎。
アントナンは、椅子に座り、深く息を吐いた。
(……背中を預ける、か)
これまでの自分は、
誰にも背中を預けなかった。
預けられなかった。
だが今は――
(預けても、倒れない)
それを、初めて実感していた。
一方、隣国。
エミー・マイセンは、王都の共同水利計画についての報告を受けていた。
「実務判断は、現場主導です」 「王太子は、最終確認のみ」
その内容に、彼女は目を伏せ、静かに頷く。
「……ようやく、背中を預け合える段階ですね」
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「追いついた、と見ますか?」
エミーは、首を横に振る。
「追いつく必要はありません」 「同じ速さで、別の道を歩ければ、それで十分です」
ガイストが、低く言う。
「君がいなくても、回り始めたな」
「はい」
エミーは、淡々と答える。
「だからこそ、私は戻らない」
それは、拒絶ではない。
完成に近づいた証だった。
王都では、今日も判断が進んでいる。
誰かが前に立ち、
誰かが支え、
誰かが背中を預ける。
その循環が、
ようやく、自然に回り始めていた。
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