婚約破棄された伯爵令嬢、王の目となる

鷹 綾

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第二十三話 王都召喚

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第二十三話 王都召喚

 王都への召喚状は、簡潔だった。

 余分な修辞も、理由の説明もない。
 ただ一行――「国王陛下の御前に出頭せよ」。

 それだけで、意味は十分だった。

 ルートヴィヒ侯爵は、馬車の中で無言を貫いていた。
 護送ではない。形式上は、あくまで「要請」だ。
 だが同行する人数、経路、時間――すべてが指定されている。

 自由は、ない。

「……王都へ向かうのは、久しいな」

 ぽつりと侯爵が呟く。

 ミシェルは、向かいの席で静かに座っていた。
 鎧は着けていない。だが、彼女の存在そのものが、武だった。

「ええ。
 ですが今回は、凱旋ではありません」

 侯爵は、鼻で笑う。

「若いな。
 王都に呼ばれる理由など、いつも同じだ」

「違いますわ」

 ミシェルは、淡々と言った。

「今回は、説明を求められる側です」

 侯爵は、答えなかった。

 馬車の外では、護衛兵の足音が一定のリズムで響く。
 その音が、時間の経過を正確に刻んでいた。

 王都に入ると、空気が変わる。
 侯爵領の張り詰めた緊張とは異なり、ここには視線があった。

 噂は、すでに広がっている。

――女伯爵のミッシ・ドミニチ。
――司教を伴う巡察。
――処断された伯爵、解任された領主。

 民も、貴族も、等しく彼女を見る。

 王城の控えの間で、ノイマン司教が合流した。

「準備は、整っています」

「ええ」

 ミシェルは頷く。

「今日は、剣を抜きません」

「知を使う日ですね」

 ノイマンの声は、穏やかだった。

 玉座の間は、静まり返っていた。
 列席するのは、宰相、数名の公爵、そして高位聖職者。

 国王は、すでに着座している。

「ルートヴィヒ・フォン・グラーツ」

 国王の声は、低く、重い。

「そなたに、いくつか問いたい」

 侯爵は、膝を折った。

「お答えできることなら、すべて」

「よかろう」

 国王は、ミシェルを見る。

「ミッシ・ドミニチ。
 報告を」

 ミシェルは、一歩前に出た。

「陛下。
 侯爵領において、軍事費名目での教会寄進金転用が確認されました」

 ざわめきが、走る。

「転用、だと?」

「はい。
 慰霊と称し、教会の拒否権を奪った上での資金操作です」

 ノイマンが、続ける。

「教義上、重大な問題です。
 信仰を、命令にすり替えた」

 国王は、侯爵を見る。

「事実か」

 侯爵は、沈黙した。

 否定は、できない。
 だが、認めることもできない。

「……国境を守るためには、必要な措置でした」

「必要、とな」

 国王の声が、冷える。

「神を使ってでも、か?」

 侯爵の額に、汗が滲む。

「……不敬であることは、承知しています」

「ならば、聞こう」

 国王は、ゆっくりと身を乗り出した。

「その不敬を、
 誰が許した」

 答えは、ない。

 沈黙が、裁きだった。

「ルートヴィヒ侯爵」

 国王は、宣告する。

「即時の処断は、行わぬ」

 侯爵の肩が、わずかに揺れる。

「だが、侯爵位は一時停止。
 国境防衛の指揮権は、王命により剥奪する」

 息を呑む音。

「調査完了まで、王都預かりとする」

 侯爵は、深く頭を下げた。

「……御意」

 国王は、視線をミシェルに戻す。

「よくやった。
 武だけでは、ここまで来られなかっただろう」

「恐れ入ります」

「次だが――」

 国王の声に、場が緊張する。

「スキーム・コンシール伯爵」

 その名が出た瞬間、
 列席していた一人の伯爵が、顔色を失った。

「すでに、調査は始まっている」

 国王は、淡々と言う。

「ミッシ・ドミニチは、
 その続きを任せる」

 ミシェルは、一礼した。

「御意」

 その瞬間、スキームは悟った。

 逃げ場は、もうない。

 王都ですら――
 彼女の管轄なのだと。

 剣は抜かれず、血も流れない。
 だが、確実に、網は閉じていた。

 ミッシ・ドミニチの巡察は、
 ついに因縁の核心へと、向かい始めていた。
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