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第二十四話 領地の内側
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第二十四話 領地の内側
スキーム・コンシール伯爵は、眠れずにいた。
王都での裁きの場に自分の名が出た――それだけで十分だった。
しかも、裁きを担うのは、ミシェル・ドミニク。
かつて自分が切り捨てた婚約者。
「……偶然だ」
そう言い聞かせ、酒杯を傾ける。
だが、喉を通る酒は苦く、腹の底に冷たいものを残した。
彼は知っている。
ミッシ・ドミニチの巡察は、必ず外から始まる。
いきなり城門を叩くことはない。
名乗りもせず、勅命も示さず、ただ静かに――
領地の内側を、先に見る。
そのことを、スキームは知らなかった。
すでに、彼女は入っていた。
領地の外れ、小さな村。
名もなき宿屋の一室で、ミシェルは帳面を広げていた。
「塩の流通量が、合いません」
随行の書記が、低い声で言う。
「はい」
ミシェルは、淡々と答える。
「帳簿では、十分に供給されていることになっている。
ですが、村では不足している」
「横流し、でしょうか」
「いいえ」
ミシェルは、首を振った。
「上で止まっています」
ノイマン司教は、窓辺に立って外を見ていた。
村の教会から、夕べの鐘が鳴る。
「信仰は、まだ生きています」
「ええ」
ミシェルは、帳面を閉じた。
「だからこそ、歪みが見える」
翌日、彼女は市場に立った。
豪奢な衣装は着ない。旅の女商人に見える程度だ。
「塩は?」
そう問えば、商人は決まって苦い顔をする。
「入らねえんです」
「理由は、分からない」
「上からだって」
“上”。
誰も、伯爵の名を出さない。
だが、誰もが理解している。
ノイマンは、村の司祭と話をしていた。
「最近、告解が増えています」
「内容は?」
「……言えません」
司祭は、視線を伏せる。
「ですが」
「“正しいことをしていない”と悩む者が、多い」
ノイマンは、静かに頷いた。
「それは、良い兆しです」
「良い、のですか?」
「ええ。
罪を罪だと理解している」
司教は、言葉を続ける。
「問題は、
罪を命令に変えた者です」
その頃、スキームの城では、別の動きがあった。
「最近、外から人が入っているそうです」
側近の報告に、スキームは顔を歪めた。
「誰だ」
「分かりません。
ただ、村を回り、帳面を見ていると」
スキームは、机を叩いた。
「放っておけ」
声が、上ずる。
「帳簿は、完璧だ。
外から見て分かるような証拠はない」
側近は、黙って下がった。
だが、その背に向かって、スキームは叫ぶ。
「いいか!
ミッシ・ドミニチが来たら、
最大限、歓待しろ!」
その言葉が、
すでに遅いことを、彼は知らない。
夜、ミシェルは村外れの丘に立っていた。
遠くに、伯爵城の灯が見える。
「気づいていますね」
ノイマンが、隣に立つ。
「ええ」
ミシェルは、静かに答える。
「だから、焦っている」
「帳簿は?」
「問題ありません」
ミシェルは、淡々と言う。
「だからこそ、
帳簿以外を見る必要がある」
彼女は、振り返った。
「次は、倉庫です」
剣は、まだ抜かれない。
勅命も、示されない。
だが、網は、確実に締まっていた。
スキーム・コンシール伯爵の領地は、
すでに――
内側から、調査されていた。
スキーム・コンシール伯爵は、眠れずにいた。
王都での裁きの場に自分の名が出た――それだけで十分だった。
しかも、裁きを担うのは、ミシェル・ドミニク。
かつて自分が切り捨てた婚約者。
「……偶然だ」
そう言い聞かせ、酒杯を傾ける。
だが、喉を通る酒は苦く、腹の底に冷たいものを残した。
彼は知っている。
ミッシ・ドミニチの巡察は、必ず外から始まる。
いきなり城門を叩くことはない。
名乗りもせず、勅命も示さず、ただ静かに――
領地の内側を、先に見る。
そのことを、スキームは知らなかった。
すでに、彼女は入っていた。
領地の外れ、小さな村。
名もなき宿屋の一室で、ミシェルは帳面を広げていた。
「塩の流通量が、合いません」
随行の書記が、低い声で言う。
「はい」
ミシェルは、淡々と答える。
「帳簿では、十分に供給されていることになっている。
ですが、村では不足している」
「横流し、でしょうか」
「いいえ」
ミシェルは、首を振った。
「上で止まっています」
ノイマン司教は、窓辺に立って外を見ていた。
村の教会から、夕べの鐘が鳴る。
「信仰は、まだ生きています」
「ええ」
ミシェルは、帳面を閉じた。
「だからこそ、歪みが見える」
翌日、彼女は市場に立った。
豪奢な衣装は着ない。旅の女商人に見える程度だ。
「塩は?」
そう問えば、商人は決まって苦い顔をする。
「入らねえんです」
「理由は、分からない」
「上からだって」
“上”。
誰も、伯爵の名を出さない。
だが、誰もが理解している。
ノイマンは、村の司祭と話をしていた。
「最近、告解が増えています」
「内容は?」
「……言えません」
司祭は、視線を伏せる。
「ですが」
「“正しいことをしていない”と悩む者が、多い」
ノイマンは、静かに頷いた。
「それは、良い兆しです」
「良い、のですか?」
「ええ。
罪を罪だと理解している」
司教は、言葉を続ける。
「問題は、
罪を命令に変えた者です」
その頃、スキームの城では、別の動きがあった。
「最近、外から人が入っているそうです」
側近の報告に、スキームは顔を歪めた。
「誰だ」
「分かりません。
ただ、村を回り、帳面を見ていると」
スキームは、机を叩いた。
「放っておけ」
声が、上ずる。
「帳簿は、完璧だ。
外から見て分かるような証拠はない」
側近は、黙って下がった。
だが、その背に向かって、スキームは叫ぶ。
「いいか!
ミッシ・ドミニチが来たら、
最大限、歓待しろ!」
その言葉が、
すでに遅いことを、彼は知らない。
夜、ミシェルは村外れの丘に立っていた。
遠くに、伯爵城の灯が見える。
「気づいていますね」
ノイマンが、隣に立つ。
「ええ」
ミシェルは、静かに答える。
「だから、焦っている」
「帳簿は?」
「問題ありません」
ミシェルは、淡々と言う。
「だからこそ、
帳簿以外を見る必要がある」
彼女は、振り返った。
「次は、倉庫です」
剣は、まだ抜かれない。
勅命も、示されない。
だが、網は、確実に締まっていた。
スキーム・コンシール伯爵の領地は、
すでに――
内側から、調査されていた。
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