所有物だった公爵令嬢は、民に選ばれ女王となる

鷹 綾

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第十四話 強行派の刃

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第十四話 強行派の刃

 王宮の空気は、静まり返っているようで、実際には沸騰寸前だった。

 表では「時間をよこせ」と国王が宣言した。
 だが裏では、強行派の貴族たちが動き始めている。

「王は弱った」 「王太子は女に影響されている」 「このままでは王国は崩壊する」

 そんな言葉が密室で交わされていた。

 私は公爵邸の一室に戻されていた。

 表向きは“保護”。
 実質は“監視”。

 侍女の数が増えている。
 廊下の兵も倍だ。

 父が訪ねてくる。

「なぜ、そこまで言った」

 静かな声だが、怒りと焦りが混じっている。

「言わなければ、もっと血が流れます」

 私は答える。

「お前は、公爵家の娘だ」

「はい」

「王国の体制を揺るがす存在になっている」

「体制が揺らいでいるのは、私のせいではありません」

 父の目が揺れる。

「民は、気づいていたのです」

 飼われていることに。

 父は言葉を失う。

「私は、あなたの奴隷でも物でもありません」

 私は静かに続ける。

「感情と意志のある人間です」

 その言葉は、以前は言えなかった。

 父は深く息を吐く。

「……危険だぞ」

「承知しています」

 それ以上、父は何も言わなかった。

 その夜、王宮で動きがあった。

 強行派の侯爵が、私の拘束を提案したのだ。

「隣国と通じた女は危険だ」 「民の反乱の象徴だ」

 国王は即座には頷かない。

 だが迷いが見える。

 王太子は反対する。

「彼女を拘束すれば、民の怒りは加速します」

「ならばどうする」

 国王の声は疲れている。

 答えは出ない。

 その隙を、強行派は突く。

 翌朝。

 邸の外が騒がしい。

 兵の数が明らかに増えている。

 侍女が蒼白な顔で言う。

「侯爵家の兵が……」

 私は窓辺に立つ。

 強行派の旗。

 王命ではない。

 私的な動き。

 やはり来た。

 扉が乱暴に開かれる。

「公爵令嬢、同行願う」

 命令口調。

「理由は」

「国家反逆の疑い」

 私は笑う。

「まだ罪状も決まっていないのですね」

 兵は苛立つ。

 だがその瞬間、別の声が響く。

「止まれ」

 王太子だった。

 彼は自ら兵を率いている。

「これは私の命ではない」

 強行派の侯爵が現れる。

「殿下、王国のためです」

「王国のために、勝手に兵を動かすのか」

 鋭い問い。

 侯爵は怯まない。

「王が迷うなら、我らが守る」

 その言葉は、事実上の宣戦布告。

 王太子は剣を抜かない。

 だが一歩前に出る。

「彼女に触れるな」

 その一言が、場を止める。

 私は二人の間に立つ。

「争うのはやめてください」

 全員の視線が私に向く。

「今、敵は外ではありません」

 私は強行派を見る。

「あなた方が恐れているのは、隣国ではなく、変化です」

 侯爵の顔が歪む。

「女が国家を語るな!」

「語らせなかった結果が、今です」

 私は一歩も退かない。

「力で抑えれば、一時は静まるでしょう」

「ならば抑える!」

「その瞬間、国は二つに割れます」

 兵たちが動揺する。

 彼らもまた、民の出だ。

「兵を退かせてください」

 私は王太子を見る。

「血を流せば、もう戻れません」

 王太子は短く命じる。

「退け」

 一瞬の緊張。

 やがて、兵が一歩下がる。

 強行派の侯爵は睨みつける。

「これは終わらん」

「ええ」

 私は答える。

「終わりません」

 だが今は、衝突は避けられた。

 王太子が私を見る。

「君は、命を狙われる」

「覚悟しています」

「なぜそこまで」

 私は静かに言う。

「所有物でいる方が、怖いからです」

 彼は言葉を失う。

 遠くで鐘が鳴る。

 今度は王都の中心部。

 民が王宮前に集まり始めている。

「私たちは物ではない」

 声が、波のように広がる。

 強行派の刃は、まだ収まっていない。

 だが民も、もう引かない。

 王国は、分岐点を越えつつあった。

 私は夜、ひとりで考える。

 国家を滅ぼすべきか。

 その問いが頭をよぎる。

 だが答えは違う。

 滅ぼすのではない。

 変える。

 だが変化は、必ず血を伴う。

 その覚悟を、私は持てているのか。

 窓の外、王都の灯が揺れる。

 秩序と混乱の境界線。

 私はその上に立っていた。
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