所有物だった公爵令嬢は、民に選ばれ女王となる

鷹 綾

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第十八話 責任の重さ

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第十八話 責任の重さ

 王宮の大広間は、かつてない緊張に包まれていた。

 民が推し、王太子が支持し、国王が退位した。

 だが正式な即位は、まだ。

 玉座は空いたまま。

 その空白が、重い。

 私はその前に立っていた。

 王冠はまだ頭にない。
 だが視線は、既に王を見る目だ。

 強行派の貴族たちは拘束されている。

 だが全員ではない。

 沈黙している者たちが、まだいる。

「あなたが王位を継ぐことに、法的根拠はあるのか」

 老練な伯爵が口を開く。

 当然の問い。

「ありません」

 私は即答する。

 ざわめき。

「だからこそ、整えます」

 私は続ける。

「王位継承法を改めます」

「女王など前例がない」

「前例を作ります」

 静かだが、迷いはない。

「王は血だけで決まる存在ではない」

 広間が揺れる。

「民の承認を要件に加えます」

 それは革命に近い。

 だが暴力ではない。

 制度の変更。

 王太子が一歩前に出る。

「私は、王位継承権を放棄する」

 空気が凍る。

「何を言っている」

 重臣が叫ぶ。

「私は彼女を支持する」

 その声は揺れない。

「私は守る王になれる。だが、今この国に必要なのは変える王だ」

 彼の決断は、重い。

 私を支えると同時に、自らの可能性を捨てる。

 私は彼を見る。

「後悔しませんか」

「しない」

 短い答え。

 だが覚悟がある。

 父が前に出る。

「公爵家は支持する」

 広間にざわめきが広がる。

 名門公爵家の支持は大きい。

「だが条件がある」

 父は私を見る。

「王は、独裁してはならぬ」

「当然です」

 私は頷く。

「権限を分けます」

 法を整え、評議会を設ける。

 王の決定は、監督される。

 所有する王ではなく、調整する王へ。

 やがて、広間の空気が変わる。

 反対の声は残る。

 だが、明確な否定は出ない。

 民の支持が背後にある。

 隣国の後ろ盾もある。

 何より、王太子の放棄が決定的だった。

 私は一歩、玉座に近づく。

 座らない。

 まだ。

「囚われた王族と、強行派の貴族たちについて」

 私は口を開く。

 広間が静まる。

「彼らに個人的な恨みはありません」

 事実だ。

「しかし、この国の体制の責任者でもありました」

 重い言葉。

「何らかの責任を取っていただかなければ、民は納得しません」

 老伯爵が問う。

「処刑か」

「いいえ」

 私は首を振る。

「退任と、公職追放」

 財産の一部没収。

 だが命は奪わない。

「血で始まる王政は、また血で終わります」

 静かな決断。

 復讐ではない。

 整理。

 夜。

 私は玉座の前にひとりで立つ。

 手を触れない。

 冷たい金属。

 ここに座れば、戻れない。

 私は窓の外を見る。

 王都の灯が揺れている。

 かつては鳥籠だった。

 今は、責任の重さを示す光。

 王太子が静かに入ってくる。

「迷っているか」

「少しだけ」

 正直に言う。

「怖いのか」

「はい」

 それも事実。

「それでいい」

 彼は言う。

「怖くない王は危険だ」

 私は小さく笑う。

「あなたは、隣に立ちますか」

 問い。

「王配としてか」

「いいえ」

 私は首を振る。

「人として」

 彼はしばらく沈黙し、やがて頷く。

「立つ」

 その答えに、胸が軽くなる。

 私は深く息を吸う。

 所有物ではない。

 庇護下でもない。

 選ばれた。

 だが同時に、選んだ。

 明日、正式に即位が宣言される。

 私は玉座に背を向け、歩き出す。

 座るのは、明日。

 今夜は、ただ考える。

 国家の形。

 法の形。

 人の尊厳。

 責任の重さ。

 公爵令嬢だった私。

 新たな王へ。

 夜は静かに更けていった。
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