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第二十五話 王太子の影
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第二十五話 王太子の影
王都に戻った翌日、評議会の議題に一つの案件が上がった。
「旧王太子派の再編成の動きが見られます」
報告官が淡々と告げる。
空気がわずかに緊張する。
旧王太子――つまり、かつての私の婚約者。
彼自身は今、政治の前線から退いている。
だが彼を象徴とする勢力は、完全には消えていない。
「主張は」
「女王は隣国の影響下にある、というものです」
私は眉を動かさない。
予想していた。
「そして?」
「“本来の王統に戻すべき”と」
王統。
血。
正統性。
かつて私を所有物と見なしていた価値観が、まだ根強い。
「アルト殿下はどうされますか」
視線が彼に向く。
彼は静かに立っていた。
「私は、女王陛下を支持する」
短い。
だが揺らぎはない。
会議後、私は彼と向き合う。
「あなたが動けば、火種になる」
「承知している」
「それでも立つ?」
「立つ」
迷いはない。
「私は、あなたを所有していた過去の象徴だ」
その言葉は重い。
「だからこそ、否定する責任がある」
私は彼を見つめる。
かつて心優しいが“庇護”の枠から出られなかった男。
今は、枠を壊そうとしている。
数日後、旧王太子派の貴族たちとの公開対話を開くことにした。
閉鎖的な裁定ではなく、議論の場。
王宮の広間に、彼らが集まる。
「女王陛下は、隣国の傀儡ではないのか」
真っ直ぐな問い。
私は即答する。
「違います」
「隣国の支援を受けて即位した」
「支援は受けました」
否定しない。
「だが、決定はこの国の民が下した」
ざわめき。
「反乱は民が起こした」
「扇動されたのでは」
「民は、所有物ではありません」
私は静かに言う。
「誰かに操られる存在ではない」
彼らの表情が変わる。
その瞬間、アルトが前に出る。
「私が証言しよう」
広間が静まる。
「私は、かつて彼女を“庇護下”と呼んだ」
空気が凍る。
「善意のつもりだった」
彼は続ける。
「だがそれは、所有の言葉だった」
沈黙。
「私は、誤っていた」
貴族たちの目が揺らぐ。
「彼女は、所有物ではない」
「ならば王配か?」
誰かが皮肉る。
彼は首を振る。
「私は、女王の配偶者でもなければ、上位でもない」
広間がざわつく。
「隣に立つ者だ」
その言葉は、あの日の言葉と重なる。
私は立ち上がる。
「この国は、血統だけで動く時代を終えます」
「では何で動く」
「責任と合意です」
静かな声。
だが確固たる。
「王統を否定しません」
「だが、絶対ではない」
彼らは沈黙する。
議論は数時間に及んだ。
完全な同意は得られない。
だが、敵意は薄れた。
夜、私は執務室で息を吐く。
「疲れた」
「当然だ」
アルトが笑う。
「王とは楽な仕事ではない」
「あなたは?」
「少し楽になった」
「なぜ」
「初めて、所有ではなく選択として立てた」
私は小さく笑う。
「あなたは変わりました」
「変えられた」
「誰に?」
「あなたに」
沈黙。
窓の外、王都の灯が静かに揺れる。
旧王太子の影は、まだ残る。
だがそれは恐怖ではない。
過去の象徴。
それを正面から否定できた。
私は思う。
ざまあとは、滅ぼすことではない。
価値観を覆すことだ。
所有から、選択へ。
庇護から、対等へ。
そして今、私は確かに知っている。
この国は、ゆっくりとだが、変わっている。
かつての影を、自らの言葉で否定できる国へ。
王都に戻った翌日、評議会の議題に一つの案件が上がった。
「旧王太子派の再編成の動きが見られます」
報告官が淡々と告げる。
空気がわずかに緊張する。
旧王太子――つまり、かつての私の婚約者。
彼自身は今、政治の前線から退いている。
だが彼を象徴とする勢力は、完全には消えていない。
「主張は」
「女王は隣国の影響下にある、というものです」
私は眉を動かさない。
予想していた。
「そして?」
「“本来の王統に戻すべき”と」
王統。
血。
正統性。
かつて私を所有物と見なしていた価値観が、まだ根強い。
「アルト殿下はどうされますか」
視線が彼に向く。
彼は静かに立っていた。
「私は、女王陛下を支持する」
短い。
だが揺らぎはない。
会議後、私は彼と向き合う。
「あなたが動けば、火種になる」
「承知している」
「それでも立つ?」
「立つ」
迷いはない。
「私は、あなたを所有していた過去の象徴だ」
その言葉は重い。
「だからこそ、否定する責任がある」
私は彼を見つめる。
かつて心優しいが“庇護”の枠から出られなかった男。
今は、枠を壊そうとしている。
数日後、旧王太子派の貴族たちとの公開対話を開くことにした。
閉鎖的な裁定ではなく、議論の場。
王宮の広間に、彼らが集まる。
「女王陛下は、隣国の傀儡ではないのか」
真っ直ぐな問い。
私は即答する。
「違います」
「隣国の支援を受けて即位した」
「支援は受けました」
否定しない。
「だが、決定はこの国の民が下した」
ざわめき。
「反乱は民が起こした」
「扇動されたのでは」
「民は、所有物ではありません」
私は静かに言う。
「誰かに操られる存在ではない」
彼らの表情が変わる。
その瞬間、アルトが前に出る。
「私が証言しよう」
広間が静まる。
「私は、かつて彼女を“庇護下”と呼んだ」
空気が凍る。
「善意のつもりだった」
彼は続ける。
「だがそれは、所有の言葉だった」
沈黙。
「私は、誤っていた」
貴族たちの目が揺らぐ。
「彼女は、所有物ではない」
「ならば王配か?」
誰かが皮肉る。
彼は首を振る。
「私は、女王の配偶者でもなければ、上位でもない」
広間がざわつく。
「隣に立つ者だ」
その言葉は、あの日の言葉と重なる。
私は立ち上がる。
「この国は、血統だけで動く時代を終えます」
「では何で動く」
「責任と合意です」
静かな声。
だが確固たる。
「王統を否定しません」
「だが、絶対ではない」
彼らは沈黙する。
議論は数時間に及んだ。
完全な同意は得られない。
だが、敵意は薄れた。
夜、私は執務室で息を吐く。
「疲れた」
「当然だ」
アルトが笑う。
「王とは楽な仕事ではない」
「あなたは?」
「少し楽になった」
「なぜ」
「初めて、所有ではなく選択として立てた」
私は小さく笑う。
「あなたは変わりました」
「変えられた」
「誰に?」
「あなたに」
沈黙。
窓の外、王都の灯が静かに揺れる。
旧王太子の影は、まだ残る。
だがそれは恐怖ではない。
過去の象徴。
それを正面から否定できた。
私は思う。
ざまあとは、滅ぼすことではない。
価値観を覆すことだ。
所有から、選択へ。
庇護から、対等へ。
そして今、私は確かに知っている。
この国は、ゆっくりとだが、変わっている。
かつての影を、自らの言葉で否定できる国へ。
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