『ラノベでリアルに描いてみた。舞踏会で婚約破棄したら、その場で人生が終了した件

鷹 綾

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第28話 同罪という沈黙

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第28話 同罪という沈黙

 第二段階に移行した瞬間、舞踏会の性質はさらに明確になった。音楽も照明も変わらない。だが、そこにいる人間の「立ち位置」だけが、静かに再配置されていく。公式の場では、動かない者ほど多くを語る。今夜、その法則はあまりに露骨だった。

 私は広間の端から全体を見渡し、誰がどこに立ち、誰がどこに立たないかを確認していた。王太子の周囲に、意図的な空白が生まれている。そこには柵も壁もない。ただ、誰も足を踏み入れないという合意だけがあった。公の場で、あの位置に立つことは、意思表示を意味する。つまり、味方をすれば同罪になる。

 それを理解していない者はいない。理解していない者がいたとすれば、その者は今後、この社交界で生き残れないだろう。

 クラス・クラウン男爵令嬢が、王太子の半歩後ろに立っているのが見えた。彼女は笑顔を保っている。だが、その表情は舞踏会用に用意されたものではない。貼り付けられた仮面だ。彼女の視線は落ち着かず、周囲を探るように彷徨っている。誰かが助け舟を出してくれることを、まだ期待しているのだろう。

 だが、誰も動かない。

 男爵家は弱い。単独で王太子の味方に立つほどの地盤はない。だからこそ、彼女は「選ばれた」という事実に価値を見出した。王太子に伴われることで、自分の立場が公爵家と同列になると、信じてしまったのだ。

 公式の場では、身分は相対評価ではない。絶対値だ。その差を埋める手段は、制度の外には存在しない。

 背後で、側近たちが低い声で情報を整理していく。

「融資停止の通知は、王宮会計部へ正式に送達済みです」

「関連する男爵家への波及は?」

「すでに開始されています。保証関係はすべて洗い出しました」

 私は頷いた。
 処理は、個人を越えて広がっていく。これは見せしめではない。公式が機能した結果だ。公の場で行われた行為は、公的な責任として回収される。それだけの話。

 視線を戻すと、王太子が周囲に向かって何かを訴えかけているのが見えた。だが、誰も応じない。彼の言葉は、すでに「公式に処理された発言」の後に発せられている。効力を持つ余地はない。

 ある侯爵家の当主が、彼と目が合った瞬間、わずかに視線を逸らした。その動作は一瞬だったが、意味は十分すぎるほど伝わる。関わらない、という明確な意思表示だ。

 私はその光景を見て、内心で確認する。

 ――ここで誰かが庇えば、その者も終わる。

 公式の場において、中立は存在しない。賛同するか、距離を取るか、その二択だけだ。そして今夜、賛同を選ぶ者はいなかった。

 男爵令嬢の表情が、少しずつ崩れていく。彼女は王太子の袖に縋ろうとしたが、その動きすら、周囲の視線によって止められた。触れること自体が、意思表示になってしまうからだ。

「なぜ……?」

 彼女の呟きが、かすかに聞こえた。
 答えは簡単だが、今の彼女には理解できないだろう。

 ここは公の場で、彼女は公式を持たない。

 私は視線を外し、別の方向を確認した。すでに数名の貴族が、今夜の出来事を「なかったこと」にする準備に入っている。話題を変え、笑顔を作り、舞踏会を続ける。正しい対応だ。公式処理が進行している最中に、余計な感情を挟む必要はない。

 王太子の存在は、ゆっくりと背景に溶けていく。まだそこにいる。だが、誰の物語にも登場しない存在として。

 それが、公の場で「同罪」を避けた者たちの選択だった。

 私は扇子を開き、静かに息を整えた。
 第三段階は、すぐそこまで来ている。
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