婚約破棄と暗殺で死んだはずの公爵令嬢ですが、前に出ずに全てを崩壊させます

鷹 綾

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第24話 提示される選択

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第24話 提示される選択

 昼前、フォールス・アキュゼーションは呼び出しを受けた。

 場所は、大使館の応接間。裁判前にも使われていた部屋だが、今は空気が違う。緊張ではなく、整理のための静けさが漂っている。

 すでにエクイティ・フェアネス・ロイヤル・ロードが席に着いていた。今日は、いつもの柔らかな笑みを控え、どこか実務者の顔をしている。

「座ってくれ」

「はい」

 フォールスは向かいに腰を下ろした。

 少し遅れて、ディヴァイン・プロテクションも入室し、壁際に立つ。護衛でありながら、この場では立会人のような位置取りだった。

「今日は、今後について具体的な話をする」

 エクイティは、前置きなく切り出した。

「君が望んでいた“何者でもない時間”は、ある程度は確保できた。だが、それも永遠ではない」

「承知しています」

「だから、選択肢を提示する」

 机の上に、三通の書簡が置かれた。

「一つ目」

 エクイティは、左端の封を指で軽く叩く。

「王都への正式復帰。爵位の回復、家名の再登録、そして王家直轄の監査部門への登用だ」

 フォールスは、視線を落としたまま聞いていた。

「二つ目」

 中央の封筒。

「国外への移住。セルディア王国名義での保護付きだ。身分は伏せられる。実質的な自由を得られる」

 フォールスの指先が、わずかに動く。

「三つ目」

 右端の封筒。

「非公開のまま、王弟直属の顧問として残る。表に出ない代わりに、必要な時だけ力を貸してもらう」

 部屋が静まり返る。

「……ずいぶん、極端ですね」

 フォールスは、正直に言った。

「極端でない選択は、往々にして後悔を生む」

 エクイティは、淡々と返す。

「どれを選んでも、君の意思は尊重される。だが、それぞれに代償はある」

 フォールスは、三通の書簡を順に見た。

 王都復帰。
 それは、完全な名誉回復だ。自分が正しかったと、公に証明される。だが同時に、再び“役割”を背負うことになる。

 国外移住。
 誰も自分を知らない場所。静かで、平穏な生活。だが、過去をすべて切り離す覚悟が必要だ。

 王弟直属。
 名は残らない。だが、裁判で見た構造を、裏から正す力は持てる。

「……期限は?」

「三日」

 短いが、十分な時間だ。

「その間、誰にも急かさせない」

 エクイティは、はっきりと言った。

「この選択だけは、君自身のものだ」

 フォールスは、深く息を吸った。

「質問しても?」

「もちろんだ」

「もし、私が国外移住を選んだ場合」

「追跡はしない。政治的にも、存在は薄める」

「……死んだことに、戻すのですか」

 エクイティは、一瞬だけ考え、答えた。

「必要なら、そうなる」

 フォールスは、静かに頷いた。

「王弟直属を選んだ場合は」

「自由は制限される」

 即答だった。

「だが、嘘はつかせない。君が嫌だと言う仕事は、させない」

 フォールスは、少しだけ笑った。

「それは、ずいぶん珍しい条件ですね」

「私は、駒を壊す趣味はない」

 率直な言葉だった。

 ディヴァインが、口を挟む。

「どれを選んでも、護衛は付く。命を狙われる可能性がゼロになることはない」

「……分かっています」

 フォールスは、三通の書簡を見つめた。

 どれも、間違いではない。
 どれも、正解ではない。

 だからこそ、選ばなければならない。

「今日は、持ち帰って考えていいですか」

「もちろんだ」

 エクイティは、穏やかに頷く。

「選ぶ前に、一つだけ伝えておく」

「何でしょう」

「君は、もう“返された存在”ではない」

 その言葉は、静かだが重かった。

「これからは、選んだ場所で、君自身の責任を生きることになる」

 フォールスは、はっきりと答えた。

「それで構いません」

 応接間を出たあと、廊下を歩きながら、フォールスは三通の書簡を抱えていた。

 どれを開くか。
 どれを閉じたままにするか。

 答えは、まだ出ない。

 だが、確かなことが一つだけある。

 選択を迫られるということ自体が、
 もう“生きている証”なのだ。

 フォールス・アキュゼーションは、足を止め、深く息を吸った。

 三日後。
 自分は、どこに立つのだろうか。

 その未来を想像しながら、
 彼女は、ゆっくりと部屋へ戻っていった。
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