24 / 40
第24話 提示される選択
しおりを挟む
第24話 提示される選択
昼前、フォールス・アキュゼーションは呼び出しを受けた。
場所は、大使館の応接間。裁判前にも使われていた部屋だが、今は空気が違う。緊張ではなく、整理のための静けさが漂っている。
すでにエクイティ・フェアネス・ロイヤル・ロードが席に着いていた。今日は、いつもの柔らかな笑みを控え、どこか実務者の顔をしている。
「座ってくれ」
「はい」
フォールスは向かいに腰を下ろした。
少し遅れて、ディヴァイン・プロテクションも入室し、壁際に立つ。護衛でありながら、この場では立会人のような位置取りだった。
「今日は、今後について具体的な話をする」
エクイティは、前置きなく切り出した。
「君が望んでいた“何者でもない時間”は、ある程度は確保できた。だが、それも永遠ではない」
「承知しています」
「だから、選択肢を提示する」
机の上に、三通の書簡が置かれた。
「一つ目」
エクイティは、左端の封を指で軽く叩く。
「王都への正式復帰。爵位の回復、家名の再登録、そして王家直轄の監査部門への登用だ」
フォールスは、視線を落としたまま聞いていた。
「二つ目」
中央の封筒。
「国外への移住。セルディア王国名義での保護付きだ。身分は伏せられる。実質的な自由を得られる」
フォールスの指先が、わずかに動く。
「三つ目」
右端の封筒。
「非公開のまま、王弟直属の顧問として残る。表に出ない代わりに、必要な時だけ力を貸してもらう」
部屋が静まり返る。
「……ずいぶん、極端ですね」
フォールスは、正直に言った。
「極端でない選択は、往々にして後悔を生む」
エクイティは、淡々と返す。
「どれを選んでも、君の意思は尊重される。だが、それぞれに代償はある」
フォールスは、三通の書簡を順に見た。
王都復帰。
それは、完全な名誉回復だ。自分が正しかったと、公に証明される。だが同時に、再び“役割”を背負うことになる。
国外移住。
誰も自分を知らない場所。静かで、平穏な生活。だが、過去をすべて切り離す覚悟が必要だ。
王弟直属。
名は残らない。だが、裁判で見た構造を、裏から正す力は持てる。
「……期限は?」
「三日」
短いが、十分な時間だ。
「その間、誰にも急かさせない」
エクイティは、はっきりと言った。
「この選択だけは、君自身のものだ」
フォールスは、深く息を吸った。
「質問しても?」
「もちろんだ」
「もし、私が国外移住を選んだ場合」
「追跡はしない。政治的にも、存在は薄める」
「……死んだことに、戻すのですか」
エクイティは、一瞬だけ考え、答えた。
「必要なら、そうなる」
フォールスは、静かに頷いた。
「王弟直属を選んだ場合は」
「自由は制限される」
即答だった。
「だが、嘘はつかせない。君が嫌だと言う仕事は、させない」
フォールスは、少しだけ笑った。
「それは、ずいぶん珍しい条件ですね」
「私は、駒を壊す趣味はない」
率直な言葉だった。
ディヴァインが、口を挟む。
「どれを選んでも、護衛は付く。命を狙われる可能性がゼロになることはない」
「……分かっています」
フォールスは、三通の書簡を見つめた。
どれも、間違いではない。
どれも、正解ではない。
だからこそ、選ばなければならない。
「今日は、持ち帰って考えていいですか」
「もちろんだ」
エクイティは、穏やかに頷く。
「選ぶ前に、一つだけ伝えておく」
「何でしょう」
「君は、もう“返された存在”ではない」
その言葉は、静かだが重かった。
「これからは、選んだ場所で、君自身の責任を生きることになる」
フォールスは、はっきりと答えた。
「それで構いません」
応接間を出たあと、廊下を歩きながら、フォールスは三通の書簡を抱えていた。
どれを開くか。
どれを閉じたままにするか。
答えは、まだ出ない。
だが、確かなことが一つだけある。
選択を迫られるということ自体が、
もう“生きている証”なのだ。
フォールス・アキュゼーションは、足を止め、深く息を吸った。
三日後。
自分は、どこに立つのだろうか。
その未来を想像しながら、
彼女は、ゆっくりと部屋へ戻っていった。
昼前、フォールス・アキュゼーションは呼び出しを受けた。
場所は、大使館の応接間。裁判前にも使われていた部屋だが、今は空気が違う。緊張ではなく、整理のための静けさが漂っている。
すでにエクイティ・フェアネス・ロイヤル・ロードが席に着いていた。今日は、いつもの柔らかな笑みを控え、どこか実務者の顔をしている。
「座ってくれ」
「はい」
フォールスは向かいに腰を下ろした。
少し遅れて、ディヴァイン・プロテクションも入室し、壁際に立つ。護衛でありながら、この場では立会人のような位置取りだった。
「今日は、今後について具体的な話をする」
エクイティは、前置きなく切り出した。
「君が望んでいた“何者でもない時間”は、ある程度は確保できた。だが、それも永遠ではない」
「承知しています」
「だから、選択肢を提示する」
机の上に、三通の書簡が置かれた。
「一つ目」
エクイティは、左端の封を指で軽く叩く。
「王都への正式復帰。爵位の回復、家名の再登録、そして王家直轄の監査部門への登用だ」
フォールスは、視線を落としたまま聞いていた。
「二つ目」
中央の封筒。
「国外への移住。セルディア王国名義での保護付きだ。身分は伏せられる。実質的な自由を得られる」
フォールスの指先が、わずかに動く。
「三つ目」
右端の封筒。
「非公開のまま、王弟直属の顧問として残る。表に出ない代わりに、必要な時だけ力を貸してもらう」
部屋が静まり返る。
「……ずいぶん、極端ですね」
フォールスは、正直に言った。
「極端でない選択は、往々にして後悔を生む」
エクイティは、淡々と返す。
「どれを選んでも、君の意思は尊重される。だが、それぞれに代償はある」
フォールスは、三通の書簡を順に見た。
王都復帰。
それは、完全な名誉回復だ。自分が正しかったと、公に証明される。だが同時に、再び“役割”を背負うことになる。
国外移住。
誰も自分を知らない場所。静かで、平穏な生活。だが、過去をすべて切り離す覚悟が必要だ。
王弟直属。
名は残らない。だが、裁判で見た構造を、裏から正す力は持てる。
「……期限は?」
「三日」
短いが、十分な時間だ。
「その間、誰にも急かさせない」
エクイティは、はっきりと言った。
「この選択だけは、君自身のものだ」
フォールスは、深く息を吸った。
「質問しても?」
「もちろんだ」
「もし、私が国外移住を選んだ場合」
「追跡はしない。政治的にも、存在は薄める」
「……死んだことに、戻すのですか」
エクイティは、一瞬だけ考え、答えた。
「必要なら、そうなる」
フォールスは、静かに頷いた。
「王弟直属を選んだ場合は」
「自由は制限される」
即答だった。
「だが、嘘はつかせない。君が嫌だと言う仕事は、させない」
フォールスは、少しだけ笑った。
「それは、ずいぶん珍しい条件ですね」
「私は、駒を壊す趣味はない」
率直な言葉だった。
ディヴァインが、口を挟む。
「どれを選んでも、護衛は付く。命を狙われる可能性がゼロになることはない」
「……分かっています」
フォールスは、三通の書簡を見つめた。
どれも、間違いではない。
どれも、正解ではない。
だからこそ、選ばなければならない。
「今日は、持ち帰って考えていいですか」
「もちろんだ」
エクイティは、穏やかに頷く。
「選ぶ前に、一つだけ伝えておく」
「何でしょう」
「君は、もう“返された存在”ではない」
その言葉は、静かだが重かった。
「これからは、選んだ場所で、君自身の責任を生きることになる」
フォールスは、はっきりと答えた。
「それで構いません」
応接間を出たあと、廊下を歩きながら、フォールスは三通の書簡を抱えていた。
どれを開くか。
どれを閉じたままにするか。
答えは、まだ出ない。
だが、確かなことが一つだけある。
選択を迫られるということ自体が、
もう“生きている証”なのだ。
フォールス・アキュゼーションは、足を止め、深く息を吸った。
三日後。
自分は、どこに立つのだろうか。
その未来を想像しながら、
彼女は、ゆっくりと部屋へ戻っていった。
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
(完結)モブ令嬢の婚約破棄
あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう?
攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。
お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます!
緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。
完結してます。適当に投稿していきます。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる