婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾

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第7話 辺境伯からの使者、怪しすぎる件

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◆第7話

「辺境伯からの使者、怪しすぎる件」

フローレス公爵邸の客間では、
アイシスと家族、そして緊張した面持ちの侍女ミランダが整列していた。

まもなく――
低いノック音が響く。

「ヴァルベルト辺境伯家の使者、入ります」

扉が静かに開き、
黒と銀を基調とした礼服を着た青年が、ゆっくりと部屋へ入ってきた。

落ち着いた動作、丁寧な礼――
その一挙手一投足に、アイシスは思った。

(……この人、ただの使者じゃないわね)

青年の目は、周囲を一瞬だけ観察し、
最後にアイシスで止まった。

「初めまして。ヴァルベルト辺境伯家執務官、
 クレスト・ハウゼン と申します」

柔らかい声だが、どこか威圧感がある。

(執務官……つまり、辺境伯の右腕ってことね)

父・フローレス公爵が重々しくうなずく。

「遠路ご苦労だった。
 ……さて、そなたらの主が、何ゆえ我が娘を?」

クレストは一礼し、
淡々とした口調で文書を差し出した。

「本日は、正式な縁談のご提案に参りました。
 我が主、ライナルト・ヴァルベルト辺境伯より――」

アイシス(内心)
(……あら? なんか思ったより話が早いわね?)

公爵が書状を開き、目を走らせる。

そしてすぐに顔がひきつった。

「……これは本当か?」

「ええ、全文ライナルト様の直筆にございます」

公爵夫人も書状をのぞき込み、
次の瞬間、思わず小さく口元を押さえた。

「まあ……まあまあ……!」

ルキウスも覗き込んで叫ぶ。

「姉上!! この条件すごいよ!?
 なんか……自由度が高すぎて逆に不安なんだけど!!」

アイシスは椅子の上で少し身を乗り出した。

「……自由度?」

クレストが、静かに説明を始める。


---

◆“白い結婚契約案”の内容が、最高すぎて不安になる

「我が主は、大変に多忙な立場ゆえ、
 王都の縁談に巻き込まれぬよう“形式上の結婚”を望まれております。

 そこで、アイシス様に求める条件は――」

クレストは指を一本立てた。

「第一に、“干渉しない”こと。
 互いの生活を縛らず、各自の部屋と自由を確保する」

アイシス
(……最高?)

「第二に、“社交にも強制参加なし”の完全自由。
 領地内の行事にも、気が向いた時だけで構いません」

アイシス
(最高ね??)

「第三に、“経済的独立の尊重”。
 アイシス様のお好きなだけ書籍をご購入いただいて構いません」

アイシス
(神かしらこの辺境伯)

「主からの強制は一切行わない。
 ただし、必要とあらば……“妻”という立場を守るため、
 あらゆる外敵には出向きます」

アイシス
(……え? ちょっとかっこよくない?)

ルキウス 「うわ……これ……破格すぎない……?」

公爵夫人 「“白い結婚”にしては、相手が誠実すぎますわ……?」

父 「逆に何を狙っているのだ……?」

クレストは軽くまばたきし、首を横に振る。

「ご安心ください。
 我が主は……女性と二人で話すことすら苦手な方です」

「……は?」

家族全員がそろって固まった。


---

◆“コミュ障辺境伯”の真相

「辺境伯様は、女性の前に立つと……
 声が裏返り、目をそらし、逃げ出すこともございます」

アイシス
(……かわいい?)

クレストは淡々と続ける。

「過去に縁談話が20件以上立ちましたが、
 アプローチされるたびに胃痛で倒れ……全て断ってこられました」

アイシス
(胃弱……かわいい??)

父「ええと……つまり……」

クレストは静かに告げた。

「“家のために妻は必要。でも女性は苦手。
 そこで干渉せず自由に過ごしてもらえる相手がよい”
 ……という理由です」

アイシス
(理由が100%真面目だった!?)

公爵夫妻は顔を見合わせた。

母「……アイシスと相性が良すぎません?」

父「むしろ、自由を望むアイシスには理想の相手では……?」

ルキウス「姉上……ぜひ僕の胃薬も持っていってあげて……!」

アイシスは、こほんと咳払いし、姿勢を正した。

「クレスト様。
 正式に、私がお会いする場を設けてくださいますか?」

クレストは深く礼をした。

「承知いたしました。
 では本日より三日後、辺境伯家にて――
 “お見合いではなく、緩やかな対面”を」

「緩やか……?」

「辺境伯様は、急に女性と話すと逃走なさいますので」

アイシス(内心)
(かわいい???)

こうして、
“白い結婚を望む辺境伯”との
対面が正式に決まった。

だが、このときのアイシスはまだ知らない。

――彼女が自由生活を望むほどに、
  辺境伯ライナルトの心の方が、
  先にアイシスへ落ちていくということを。


---
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