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第17話 堂々たる行列、王都を震わせる
しおりを挟む王都へ向かう日の朝。
アイシスの屋敷前には、信じられないほどの人数が集まっていた。
「お嬢様、馬車の横には私が乗ります!」
「いやいや、馬と並走するのは私の役目です!」
「護衛の円陣は任せてください!」
騎士団から家臣、職人、自治会の代表者に至るまで、まるで国賓を迎えるかのような勢いである。
「ちょ、ちょっと皆さま……私はただ“事情聴取”に行くだけなのですが……」
「それこそ危険です!!」
「王宮がどんな無茶を言うか分かりません!」
「絶対に守り抜きます!!」
アイシスは苦笑しながらも、胸が温かくなるのを感じていた。
──こんなふうに見守られる日が来るなんて。
そして、豪華すぎる護衛隊を率いて出発の号令がかけられる。
「出発ーーッ!!」
その瞬間。
王都へ続く街道は、
アイシス一行の威容に完全に支配された。
騎士団が堂々と道を前方確保し、
家臣たちが左右を固め、
最後尾には「念のため」と医師団まで同行している。
「いやもう……完全に“偉い人の公式訪問”ですわね……」
アイシスはそっと頬に手を当てた。
だが通りすがりの人々の反応はもっと大げさだった。
「な、なんだこの行列は!?」
「この格式……まさか王女殿下!?」
「いや違う、これは……アイシス様だ!!」
「婚約破棄されたはずの……あの!?」
噂は瞬く間に広がっていく。
---
■同刻、王宮——。
「殿下! 一大事です!!」
「なんだ今度は! また書類が届いたのか!」
叫び声をあげる侍従に、テオドリックはうんざりして顔を上げた。
「アイシス様が……王都に向かっております!」
「それは知っている! 事情聴取だろう!」
「そ、それが……
王宮の誰も見たことのない規模の護衛隊を連れております!!」
「……は?」
「道中の騎士団、家臣、医師団、職人団まで同行し……
民衆の間では『王妃の凱旋か』『新たな統治者か』と……」
「ま、ま、待て! なんだその大げさな話は!!」
テオドリックの顔がみるみるうちに真っ青になる。
「なぜ、あの女が……そんなに支持されているんだ!?」
侍従は小声で答えた。
「……殿下。アイシス様は昔から領地では非常に慕われておりまして……
その……“捨てられた可哀想な令嬢を守ろう”という気運が……」
「勝手に被害者面しやがって!!」
だが怒鳴った直後、室内の空気が冷えた。
司法長官レグナードが、背後に立っていたのだ。
「殿下。
“被害者面”ではなく、殿下が “被害者を作った” のですぞ。」
「っ……!!」
「アイシス様はもうすぐ到着されます。
その前に、ご自分の発言を整理しておかれた方がよろしい」
「……な、なぜ皆アイシスの味方に……?」
「簡単なことです。
彼女は誠実で、努力家で、領地を豊かにする存在。
殿下とは──真逆でしょう?」
「ぐっ……!!」
テオドリックは椅子に崩れ落ちる。
焦り、恐怖、劣等感が胸を締めつける。
だがそこへ、さらなる追い打ちが。
「殿下。
民衆の声が届いております。
“アイシス様を王妃に戻せ”と」
「ば、ばかなああああ!!」
王宮に響くテオドリックの絶叫。
だがその頃、王都の門は静かに開かれつつあった。
アイシス・ヴェルステッド。
かつて婚約破棄された令嬢の“凱旋”が、今まさに始まろうとしていた。
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