婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾

文字の大きさ
17 / 40

第17話 堂々たる行列、王都を震わせる

しおりを挟む


 王都へ向かう日の朝。
 アイシスの屋敷前には、信じられないほどの人数が集まっていた。

「お嬢様、馬車の横には私が乗ります!」
「いやいや、馬と並走するのは私の役目です!」
「護衛の円陣は任せてください!」

 騎士団から家臣、職人、自治会の代表者に至るまで、まるで国賓を迎えるかのような勢いである。

「ちょ、ちょっと皆さま……私はただ“事情聴取”に行くだけなのですが……」

「それこそ危険です!!」
「王宮がどんな無茶を言うか分かりません!」
「絶対に守り抜きます!!」

 アイシスは苦笑しながらも、胸が温かくなるのを感じていた。

 ──こんなふうに見守られる日が来るなんて。

 そして、豪華すぎる護衛隊を率いて出発の号令がかけられる。

「出発ーーッ!!」

 その瞬間。

王都へ続く街道は、
アイシス一行の威容に完全に支配された。

 騎士団が堂々と道を前方確保し、
 家臣たちが左右を固め、
 最後尾には「念のため」と医師団まで同行している。

「いやもう……完全に“偉い人の公式訪問”ですわね……」

 アイシスはそっと頬に手を当てた。

 だが通りすがりの人々の反応はもっと大げさだった。

「な、なんだこの行列は!?」
「この格式……まさか王女殿下!?」
「いや違う、これは……アイシス様だ!!」
「婚約破棄されたはずの……あの!?」

 噂は瞬く間に広がっていく。


---

■同刻、王宮——。

「殿下! 一大事です!!」
「なんだ今度は! また書類が届いたのか!」

 叫び声をあげる侍従に、テオドリックはうんざりして顔を上げた。

「アイシス様が……王都に向かっております!」

「それは知っている! 事情聴取だろう!」

「そ、それが……
 王宮の誰も見たことのない規模の護衛隊を連れております!!」

「……は?」

「道中の騎士団、家臣、医師団、職人団まで同行し……
 民衆の間では『王妃の凱旋か』『新たな統治者か』と……」

「ま、ま、待て! なんだその大げさな話は!!」

 テオドリックの顔がみるみるうちに真っ青になる。

「なぜ、あの女が……そんなに支持されているんだ!?」

 侍従は小声で答えた。

「……殿下。アイシス様は昔から領地では非常に慕われておりまして……
 その……“捨てられた可哀想な令嬢を守ろう”という気運が……」

「勝手に被害者面しやがって!!」

 だが怒鳴った直後、室内の空気が冷えた。

 司法長官レグナードが、背後に立っていたのだ。

「殿下。
 “被害者面”ではなく、殿下が “被害者を作った” のですぞ。」

「っ……!!」

「アイシス様はもうすぐ到着されます。
 その前に、ご自分の発言を整理しておかれた方がよろしい」

「……な、なぜ皆アイシスの味方に……?」

「簡単なことです。
 彼女は誠実で、努力家で、領地を豊かにする存在。
 殿下とは──真逆でしょう?」

「ぐっ……!!」

 テオドリックは椅子に崩れ落ちる。

 焦り、恐怖、劣等感が胸を締めつける。

 だがそこへ、さらなる追い打ちが。

「殿下。
 民衆の声が届いております。
 “アイシス様を王妃に戻せ”と」

「ば、ばかなああああ!!」

 王宮に響くテオドリックの絶叫。

 だがその頃、王都の門は静かに開かれつつあった。

 アイシス・ヴェルステッド。
 かつて婚約破棄された令嬢の“凱旋”が、今まさに始まろうとしていた。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

処理中です...