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第16話 王宮からの召喚状、そして意外な援軍
しおりを挟むその日、アイシスは領地の工房を見回っていた。
職人たちが誇らしげに並べる新作のランタンに目を向ける。
「いい出来ですわ。これなら夜道の安全にもつながりますわね」
褒められた職人は耳まで真っ赤になり、照れくさそうに帽子を脱いだ。
「お、お嬢様にそう言っていただけるとは……!」
そんな微笑ましい空気を切り裂くように、騎士団の馬車が勢いよく駆け込んできた。
「アイシス様! 急ぎお渡ししたい文書がございます!」
近衛騎士が持ってきた封筒には、王宮の紋章。
周囲がざわつく中、アイシスは静かに封を切る。
そして、目を走らせた瞬間——彼女は思わず小さく息をついた。
「……“事情聴取のため、王宮へ出頭せよ”……ですって」
工房内が一気に凍りつく。
「お嬢様を疑うなど、王宮は正気では……!」
「婚約破棄をしたくせに、今度は責任を押しつけようというのか!」
怒りの声が広がるが、アイシスは落ち着き払っていた。
「いいえ。むしろこれは好機かもしれませんわ。
真実を明らかにできるなら、引き受ける価値はあります」
そう言うアイシスの姿は、以前の“控えめでおとなしい令嬢”ではなかった。
堂々と立ち、前を見据えた強い女性そのもの。
だが次の瞬間。
「お嬢様を一人で行かせるわけにはまいりません!!」
「えっ?」
叫んだのは、工房の女性職人たちだった。
「王宮で何をされるかわかりません!
アイシス様は優しいから、向こうが無茶を言っても受け入れてしまうでしょう!」
「護衛は我らで固めます! お嬢様の身は必ず守る!!」
「いや、貴女たちは職人……」
アイシスが戸惑うと、今度は執事が深々と頭を下げた。
「お嬢様。領内の家臣団と自治会より、**“アイシス様を王都へ一人で行かせるな”**という要望が多数届いております」
「ええっ、自治会まで!?」
さらに——畑の方から馬を走らせてくる影が。
「お嬢様ーーっ!!」
「ルーファス……?」
若き領地騎士団長ルーファスが馬を降り、そのまま片膝をついた。
「我ら騎士団は決めました。
お嬢様を害する者があれば、王宮であろうと断じて許しません。
どうか、我らに同行をお許しください!」
「ちょっ……あの、王宮相手にそんな……!」
「アイシス様はこの領地の光なのです。
失ってはならない存在なのです」
職人、家臣、自治会、騎士団——
次々と集まる人々に囲まれ、アイシスは胸が熱くなった。
自分が戻ってきた理由は復興のため。
でも今、領地が彼女を守ろうとしている。
「……皆さま。ありがとうございます。
では、王都へ向かう際は……ぜひ、ご一緒にお願いできますか?」
その瞬間、周囲が歓声に包まれた。
「お任せください、お嬢様!」
「全力で守り抜きます!!」
アイシスは静かに微笑んだ。
──王太子テオドリック殿下。
婚約破棄された相手が、こんなにも支えられているとは……
あなた、まだ気づいていませんわね。
馬車の準備が進む中、アイシスはそっと空を見上げた。
「これは、私の反撃の始まりですわ」
王都への道のりは、すでに静かに火を噴き始めていた。
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