29 / 40
第29話 王弟殿下、まさかの直談判に来る
しおりを挟む
第29話 王弟殿下、まさかの直談判に来る
王家から“三つの進路案”が提示されてから数日後の早朝。
アイシスは庭で軽い散歩をしていた。
そのとき——。
「お嬢様! 大変です!」
使用人が血相を変えて走ってくる。
「まあ、何事ですの?」
「王城から……その……とんでもない方がお越しで……!」
「とんでもない……?」
言い終わる前に、重厚な馬車が屋敷前に止まった。
金と黒を基調にした、王族専用の紋章入り。
(……嫌な予感しかしませんわ)
そう思った瞬間、馬車の扉が開いた。
---
■王弟殿下、颯爽と現れる
「初めまして、アイシス・ヴェルステッド嬢」
姿を見せたのは、銀髪に蒼眼の青年。
王太子とは違い、静かな知性と落ち着いた気品をまとっている。
それが王弟——レオニール殿下だった。
(想像以上に……整いすぎていませんこと?)
驚きで数秒固まるアイシス。
しかしレオニールは気にする素振りもなく、
「突然押しかけ、失礼した。
どうしても直接お会いして話したかったのだ」
と、さらりと言ってのけた。
(……え? 本当に来たの?手紙だけでなく?)
完全に想定外である。
---
■アイシス、丁寧に距離を取る
「殿下。はるばるお越しいただき恐縮ですが……
ご存知のとおり、私は元・王太子の婚約者でございますわ。
その……複雑な時期にこのような訪問は……」
やんわり遠ざける意図を込めて言う。
だが、レオニールは微笑んだ。
「複雑だからこそ来たのだよ。
噂では、君はとても優秀で、領地を立て直した改革者だと聞いている」
「評価は過大でございます。私は——」
「いや、過少評価だ」
「えっ」
まっすぐな眼差しで言われ、アイシスは一瞬言葉を失った。
(ちょっと……この殿下、押しが強すぎません!?)
---
■領民たち、面接が始まる
そこへ屋敷の前に集まり始める領民たち。
「お、おい……あれって王弟殿下じゃないか?」
「本当に来たの? 求婚に?」
「アイシス様の恋人候補……?」
「どれどれ、品定めだ!」
「静かに! 声がデカい!」
ひそひそ声が丸聞こえである。
(お願いですから、もう少し控えめに……!)
アイシスが密かに心の中で叫ぶ。
---
■王弟殿下、領民に囲まれる
レオニールは気づけば領民に囲まれていた。
「殿下、武は強いんですか?」
「年収は? いえ、王族だからいいのか」
「お嬢様を泣かせない覚悟はあります?」
「朝は弱いタイプですか? 家事は?」
「理不尽に婚約破棄とかしませんよね?」
まるで“領民による花嫁(婿)面接”である。
(わ、私より質問されてませんこと!?)
ところがレオニールは一つも動じず、微笑みながら答えていく。
「剣術は得意だ。
朝は強い方だし、料理も多少できる。
そして——アイシス嬢を泣かせるような真似は、断じてしない」
その言葉に領民たちはざわざわ。
「お、おい……想像以上に好青年だぞ?」
「……気に入った!」
「アイシス様の隣に置いても恥ずかしくないな!」
「うむ、合格」
完全に採点が終わってしまった。
(いつから私の結婚相手は領民の投票制になりましたの!?)
---
■レオニールの“率直すぎる告白”
夕刻。
屋敷の庭を案内していると、レオニールが足を止めた。
「アイシス嬢。
一つだけ、誤解を解いておきたいことがある」
「誤解……?」
レオニールは柔らかく微笑む。
「私は“王太子の元婚約者だから”君に興味を持ったのではない。
王都で流れていた噂より、
“君自身の生き方”が素晴らしいと思ったからだ」
「……っ」
真正面からの言葉に、アイシスの心臓が一瞬跳ねた。
(な、なにを自然に言っていますの……!)
「もちろん、君が望まないのなら無理強いはしない。
ただ、私は……君と未来を語れる関係になれればと思っている」
夕焼けの光が差し、風がそよぐ。
その静かで誠実な声に——アイシスは思わず、言葉を失った。
---
■そして、アイシスの返答は……
しばらく沈黙が続いたのち。
「……殿下。
お言葉は嬉しく存じますわ。
ですが、私はまだ“過去を整理する途中”ですの」
ゆっくりと、しかしはっきり。
「未来について考えるのは……もう少し、時間をいただけますか?」
レオニールは微笑んで頷いた。
「もちろんだ。
君が結論を出すその日まで、私は待とう」
穏やかで誠実なその声は、
どんな口説き文句より心に響いた。
---
■領民たちの反応(相変わらず早い)
屋敷に戻ると——。
「お嬢様! 殿下、気に入ったぞ!」
「誠実そうで良い男だ!」
「決まったら披露宴は広場でやりましょう!」
「気が早すぎますわ!!」
アイシスの叫びが屋敷に響き渡った。
しかし頬は、ほんのり赤い。
(……困った方ですけれど。
でも、なぜか……嫌ではありませんわね)
そんな小さな本音が胸の奥でこぼれたのだった。
---
王家から“三つの進路案”が提示されてから数日後の早朝。
アイシスは庭で軽い散歩をしていた。
そのとき——。
「お嬢様! 大変です!」
使用人が血相を変えて走ってくる。
「まあ、何事ですの?」
「王城から……その……とんでもない方がお越しで……!」
「とんでもない……?」
言い終わる前に、重厚な馬車が屋敷前に止まった。
金と黒を基調にした、王族専用の紋章入り。
(……嫌な予感しかしませんわ)
そう思った瞬間、馬車の扉が開いた。
---
■王弟殿下、颯爽と現れる
「初めまして、アイシス・ヴェルステッド嬢」
姿を見せたのは、銀髪に蒼眼の青年。
王太子とは違い、静かな知性と落ち着いた気品をまとっている。
それが王弟——レオニール殿下だった。
(想像以上に……整いすぎていませんこと?)
驚きで数秒固まるアイシス。
しかしレオニールは気にする素振りもなく、
「突然押しかけ、失礼した。
どうしても直接お会いして話したかったのだ」
と、さらりと言ってのけた。
(……え? 本当に来たの?手紙だけでなく?)
完全に想定外である。
---
■アイシス、丁寧に距離を取る
「殿下。はるばるお越しいただき恐縮ですが……
ご存知のとおり、私は元・王太子の婚約者でございますわ。
その……複雑な時期にこのような訪問は……」
やんわり遠ざける意図を込めて言う。
だが、レオニールは微笑んだ。
「複雑だからこそ来たのだよ。
噂では、君はとても優秀で、領地を立て直した改革者だと聞いている」
「評価は過大でございます。私は——」
「いや、過少評価だ」
「えっ」
まっすぐな眼差しで言われ、アイシスは一瞬言葉を失った。
(ちょっと……この殿下、押しが強すぎません!?)
---
■領民たち、面接が始まる
そこへ屋敷の前に集まり始める領民たち。
「お、おい……あれって王弟殿下じゃないか?」
「本当に来たの? 求婚に?」
「アイシス様の恋人候補……?」
「どれどれ、品定めだ!」
「静かに! 声がデカい!」
ひそひそ声が丸聞こえである。
(お願いですから、もう少し控えめに……!)
アイシスが密かに心の中で叫ぶ。
---
■王弟殿下、領民に囲まれる
レオニールは気づけば領民に囲まれていた。
「殿下、武は強いんですか?」
「年収は? いえ、王族だからいいのか」
「お嬢様を泣かせない覚悟はあります?」
「朝は弱いタイプですか? 家事は?」
「理不尽に婚約破棄とかしませんよね?」
まるで“領民による花嫁(婿)面接”である。
(わ、私より質問されてませんこと!?)
ところがレオニールは一つも動じず、微笑みながら答えていく。
「剣術は得意だ。
朝は強い方だし、料理も多少できる。
そして——アイシス嬢を泣かせるような真似は、断じてしない」
その言葉に領民たちはざわざわ。
「お、おい……想像以上に好青年だぞ?」
「……気に入った!」
「アイシス様の隣に置いても恥ずかしくないな!」
「うむ、合格」
完全に採点が終わってしまった。
(いつから私の結婚相手は領民の投票制になりましたの!?)
---
■レオニールの“率直すぎる告白”
夕刻。
屋敷の庭を案内していると、レオニールが足を止めた。
「アイシス嬢。
一つだけ、誤解を解いておきたいことがある」
「誤解……?」
レオニールは柔らかく微笑む。
「私は“王太子の元婚約者だから”君に興味を持ったのではない。
王都で流れていた噂より、
“君自身の生き方”が素晴らしいと思ったからだ」
「……っ」
真正面からの言葉に、アイシスの心臓が一瞬跳ねた。
(な、なにを自然に言っていますの……!)
「もちろん、君が望まないのなら無理強いはしない。
ただ、私は……君と未来を語れる関係になれればと思っている」
夕焼けの光が差し、風がそよぐ。
その静かで誠実な声に——アイシスは思わず、言葉を失った。
---
■そして、アイシスの返答は……
しばらく沈黙が続いたのち。
「……殿下。
お言葉は嬉しく存じますわ。
ですが、私はまだ“過去を整理する途中”ですの」
ゆっくりと、しかしはっきり。
「未来について考えるのは……もう少し、時間をいただけますか?」
レオニールは微笑んで頷いた。
「もちろんだ。
君が結論を出すその日まで、私は待とう」
穏やかで誠実なその声は、
どんな口説き文句より心に響いた。
---
■領民たちの反応(相変わらず早い)
屋敷に戻ると——。
「お嬢様! 殿下、気に入ったぞ!」
「誠実そうで良い男だ!」
「決まったら披露宴は広場でやりましょう!」
「気が早すぎますわ!!」
アイシスの叫びが屋敷に響き渡った。
しかし頬は、ほんのり赤い。
(……困った方ですけれど。
でも、なぜか……嫌ではありませんわね)
そんな小さな本音が胸の奥でこぼれたのだった。
---
0
あなたにおすすめの小説
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる