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第40話 辺境の空に、未来を誓う
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第40話 辺境の空に、未来を誓う
王太子ユリウスが逃げ帰った翌日。
辺境伯領には、嘘のように静かな朝が訪れた。
澄んだ空気。遠くで聞こえる騎士たちの訓練の音。
すべてが、昨日の騒動が夢であったかのように穏やかだった。
しかしアイシスには分かっていた。
――これは“嵐の終わり”ではなく、“新しい日常の始まり”だと。
◆
王都からの正式な報せは、その日の午後に届いた。
『王太子ユリウス殿下の継承権は停止。
今後の政治への関与も凍結する。
辺境伯ライナルトに対し、先日の無礼について王家は謝罪する。』
ライナルトが書状を読み終えると、アイシスへ向き直った。
「……これで、すべて終わった」
「ええ。ようやく、落ち着きますわね」
「アイシス。
本当に、君のおかげだ」
「わたくしは何もしておりませんわ。
ただ“言いたいことを言った”だけですもの」
「それができる人は、そう多くない」
ライナルトはふっと微笑む。
その笑顔は、いつもの冷たさを帯びたものではなく――
どこか、温度を持っていて。
アイシスの胸が、ぽっと熱くなった。
◆
「アイシス」
「なんでしょう?」
彼が立ち上がり、歩み寄る。
夕陽が差し込み、彼の銀髪が赤く染まる。
「君と出会ってから……私は何度も救われた。
自分の弱さも、孤独も、君は当然のように受け止めてくれた」
「ライナルト様?」
彼は胸元から、小さな箱を取り出した。
アイシスが息を呑む。
「これは……?」
「本来なら、契約結婚ではなく、
“本物の夫婦”になる日に渡すはずだった」
箱の蓋が開く。
中には、辺境の宝石で作られた銀色の指輪――
冷たく、美しい光。
アイシスの視界が揺れる。
「アイシス。
もし君が……この地を、
そして私を嫌っていないのなら」
ゆっくりと、彼はひざまずいた。
「――改めて。
私の妻になってくれないか?」
胸がくすぐったくなるような、甘い痛みが広がる。
アイシスはそっと微笑んだ。
「そんなの……ずっと前から、決まっていましたのに」
右手を差し出す。
ライナルトの指が、震えながら指輪をはめる。
触れた瞬間――
綺麗に光が弾けたように感じた。
「アイシス……」
「はい、ライナルト様。
これからは、正式に“本物の夫婦”ですわね」
その言葉に、彼は彼女を抱きしめる。
強く、しかし優しく。
守るという想いがその腕に込められていた。
◆
穏やかな風が吹く。
外では、使用人たちがさりげなく遠巻きに見守っている。
辺境伯領に仕える全員が、この瞬間を祝福していた。
アイシスはライナルトの胸元に顔を寄せ、小さく言った。
「――わたくし、この地が好きですわ。
あなたと過ごす毎日が、何よりも愛おしくて」
「私もだ。
君がいてくれるなら、辺境はどこよりも尊い場所だ」
二人はゆっくりと唇を重ねた。
契約ではなく、政略でも義務でもない。
ただひとりの人を想う、静かで深い口づけだった。
◆
日が落ち、空が紫に染まる頃。
アイシスはふっと笑った。
「……わたくし、自由を求めて辺境に来たはずでしたのに。
気づけばあなたに捕まってしまいましたわね」
「捕まえたつもりはないが……
君が逃げる気がないのなら、永遠に離さない」
「まぁ……強引ですわ」
「君が好きだ、アイシス」
その告白は、どこまでもまっすぐで。
アイシスはそっと彼の手を握り返した。
「……わたくしも、ですわ」
辺境の空は、二人の未来を祝福するように澄み渡っていた。
――こうして、“婚約破棄”から始まった二人の物語は
本当の夫婦としての第一歩を踏み出したのであった。
王太子ユリウスが逃げ帰った翌日。
辺境伯領には、嘘のように静かな朝が訪れた。
澄んだ空気。遠くで聞こえる騎士たちの訓練の音。
すべてが、昨日の騒動が夢であったかのように穏やかだった。
しかしアイシスには分かっていた。
――これは“嵐の終わり”ではなく、“新しい日常の始まり”だと。
◆
王都からの正式な報せは、その日の午後に届いた。
『王太子ユリウス殿下の継承権は停止。
今後の政治への関与も凍結する。
辺境伯ライナルトに対し、先日の無礼について王家は謝罪する。』
ライナルトが書状を読み終えると、アイシスへ向き直った。
「……これで、すべて終わった」
「ええ。ようやく、落ち着きますわね」
「アイシス。
本当に、君のおかげだ」
「わたくしは何もしておりませんわ。
ただ“言いたいことを言った”だけですもの」
「それができる人は、そう多くない」
ライナルトはふっと微笑む。
その笑顔は、いつもの冷たさを帯びたものではなく――
どこか、温度を持っていて。
アイシスの胸が、ぽっと熱くなった。
◆
「アイシス」
「なんでしょう?」
彼が立ち上がり、歩み寄る。
夕陽が差し込み、彼の銀髪が赤く染まる。
「君と出会ってから……私は何度も救われた。
自分の弱さも、孤独も、君は当然のように受け止めてくれた」
「ライナルト様?」
彼は胸元から、小さな箱を取り出した。
アイシスが息を呑む。
「これは……?」
「本来なら、契約結婚ではなく、
“本物の夫婦”になる日に渡すはずだった」
箱の蓋が開く。
中には、辺境の宝石で作られた銀色の指輪――
冷たく、美しい光。
アイシスの視界が揺れる。
「アイシス。
もし君が……この地を、
そして私を嫌っていないのなら」
ゆっくりと、彼はひざまずいた。
「――改めて。
私の妻になってくれないか?」
胸がくすぐったくなるような、甘い痛みが広がる。
アイシスはそっと微笑んだ。
「そんなの……ずっと前から、決まっていましたのに」
右手を差し出す。
ライナルトの指が、震えながら指輪をはめる。
触れた瞬間――
綺麗に光が弾けたように感じた。
「アイシス……」
「はい、ライナルト様。
これからは、正式に“本物の夫婦”ですわね」
その言葉に、彼は彼女を抱きしめる。
強く、しかし優しく。
守るという想いがその腕に込められていた。
◆
穏やかな風が吹く。
外では、使用人たちがさりげなく遠巻きに見守っている。
辺境伯領に仕える全員が、この瞬間を祝福していた。
アイシスはライナルトの胸元に顔を寄せ、小さく言った。
「――わたくし、この地が好きですわ。
あなたと過ごす毎日が、何よりも愛おしくて」
「私もだ。
君がいてくれるなら、辺境はどこよりも尊い場所だ」
二人はゆっくりと唇を重ねた。
契約ではなく、政略でも義務でもない。
ただひとりの人を想う、静かで深い口づけだった。
◆
日が落ち、空が紫に染まる頃。
アイシスはふっと笑った。
「……わたくし、自由を求めて辺境に来たはずでしたのに。
気づけばあなたに捕まってしまいましたわね」
「捕まえたつもりはないが……
君が逃げる気がないのなら、永遠に離さない」
「まぁ……強引ですわ」
「君が好きだ、アイシス」
その告白は、どこまでもまっすぐで。
アイシスはそっと彼の手を握り返した。
「……わたくしも、ですわ」
辺境の空は、二人の未来を祝福するように澄み渡っていた。
――こうして、“婚約破棄”から始まった二人の物語は
本当の夫婦としての第一歩を踏み出したのであった。
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