婚約破棄? では、その誠実さはどちらに置いていらしたのですか?

鷹 綾

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第二十四話 崩れ始める王位

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第二十四話 崩れ始める王位

 円卓会議から三日。

 王宮の空気は、目に見えて張り詰めていた。

 廊下で交わされる会話は短く、視線は避けられる。

 誰も声を荒げない。

 だが、全員が“待っている”。

 信任の行方を。

 執務室。

 レオンハルトは報告書を閉じた。

「票読みは」

「五分でございます」

 側近が答える。

「宰相派は中立。軍務卿は慎重。財務卿は否定的」

「否定的、か」

「王庫の件が響いております」

 当然だ。

 港は戻った。

 だが、軍備凍結は事実。

 貴族は損失を忘れない。

「殿下」

 側近が声を落とす。

「もし信任を失えば」

「廃嫡か」

 静かに言う。

「その可能性も」

 沈黙。

 愛を選んだ。

 だが、その代償が王位に及ぶなら。

 扉が叩かれる。

「陛下がお呼びです」

 王の間。

 国王は立ったまま、息子を見ていた。

「覚悟はあるか」

「ございます」

「結果がどうあれ、王家の名を守れ」

「承知しております」

 短いやり取り。

 父の目に、感情は見えない。

 それが何より重い。

 一方、王宮の別室。

 ミレイナは震える指を握り締めていた。

「どうなるの」

 侍女は答えられない。

 社交界の噂は、さらに鋭くなる。

「信任が通らなければ、婚約も白紙では」

「公爵家は動かないのかしら」

「動く必要がないわ」

 それが現実。

 公爵家は何もしていない。

 契約通りに動いただけ。

 だが、その結果が王位を揺らす。

 信任投票の日。

 重厚な扉が閉まる。

 貴族たちが席につく。

 票が入れられる。

 沈黙。

 数えられる。

 レオンハルトは、まっすぐ前を見据えていた。

 逃げない。

 それだけは決めている。

 やがて、宰相が立ち上がる。

「結果を申し上げます」

 空気が凍る。

「信任――辛うじて可決」

 ざわめき。

 完全な支持ではない。

 だが、否決でもない。

 国王が静かに頷く。

「王太子は留任する」

 それで終わり。

 だが、傷は残る。

 “辛うじて”。

 その言葉が重い。

 王宮の廊下。

 ミレイナは結果を聞き、息を吐いた。

「……良かった」

 だが、胸の奥は軽くならない。

 支持は薄い。

 王太子は守られた。

 だが、絶対ではない。

 公爵邸。

 アルドリックは報告を受ける。

「信任可決か」

「はい。僅差でございます」

「そうか」

 それだけ。

 動かない。

 何も。

 夜。

 レオンハルトは一人、玉座の前に立っていた。

 座ることのない椅子。

 だが、いつか座るはずの場所。

「辛うじて、か」

 呟く。

 王位は守られた。

 だが、盤石ではない。

 信用は削れた。

 信任は薄い。

 四面楚歌は消えていない。

 形を変えただけだ。

 清算は金で終わった。

 信任は、かろうじて守られた。

 だが。

 王位は、初めて揺らいだ。

 そして、その揺らぎは、まだ止まっていない。
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