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第二十六話 継母の焦燥
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第二十六話 継母の焦燥
王都の東区、ルヴァリエ公爵邸。
再契約が締結され、社交界の評価が公爵家へと傾く中、邸内の空気はむしろ張り詰めていた。
応接室で、エルヴィラは扇子を握りしめていた。
「……信任は可決されたのね」
報告を受け、薄く笑う。
「辛うじて、でございます」
侍女が答える。
「辛うじて、か」
エルヴィラの目が細くなる。
完全勝利ではない。
だが、王太子は傷ついた。
それは事実。
「ミレイナの立場は?」
「王太子殿下は変わらず婚約を維持するご意向とのこと」
扇子がぴたりと止まる。
「維持……」
当然だ。
だが、盤石ではない。
社交界の噂は耳に入っている。
“次期王妃としての資質”。
その言葉が、じわじわと広がっている。
「ミレイナを呼びなさい」
数日後、ミレイナは久しぶりに公爵邸へ戻った。
応接室で向き合う母と娘。
「大変だったわね」
エルヴィラは柔らかな声を出す。
「……はい」
「でも、王太子は守られた」
「辛うじて、ですが」
その言葉に、エルヴィラの目がわずかに動く。
「辛うじて、でも十分よ」
「母上……」
「あなたは選ばれたの」
強い声。
「氷の令嬢ではなく、あなたが」
その名は出さない。
だが、空気に漂う。
「それなのに、弱気になってどうするの」
「でも、わたくしは」
「学べばいい」
即断。
「政務も、契約も、信用も」
「……今からでも」
「遅くない」
エルヴィラは身を乗り出す。
「王太子が揺らげば、あなたの立場も揺らぐ。ならば、支えるの」
それは母としての言葉。
だが、その奥には焦りがある。
王位が揺れれば、娘の地位も消える。
公爵家の立場も。
夜。
アルドリックはその様子を報告で知る。
「エルヴィラが動いたか」
「はい。ミレイナ様に政務の学習を」
「遅い」
短い一言。
「ですが、努力は始まりました」
「努力は評価されぬ」
淡々と答える。
「結果のみだ」
その冷酷さが、公爵家の強さ。
一方、王宮。
ミレイナは書庫にこもっていた。
帳簿。
契約書。
税制の解説。
難解な文言に目を通す。
「……分からない」
小さく呟く。
だが、閉じない。
逃げない。
それだけは決めた。
扉が開く。
「何をしている」
レオンハルトが立っていた。
「勉強を」
「今さらか」
思わず漏れた言葉。
ミレイナの胸に刺さる。
「……今さらでも」
目を伏せずに言う。
「支えたいの」
沈黙。
レオンハルトは、しばらく何も言えなかった。
守ると言った。
だが、守るだけでは足りない。
支えられる覚悟があるか。
王宮の灯りが揺れる。
継母の焦燥。
娘の決意。
だが、時間は戻らない。
信任は辛うじて。
王位は揺れたまま。
四面楚歌は、まだ解けていない。
王都の東区、ルヴァリエ公爵邸。
再契約が締結され、社交界の評価が公爵家へと傾く中、邸内の空気はむしろ張り詰めていた。
応接室で、エルヴィラは扇子を握りしめていた。
「……信任は可決されたのね」
報告を受け、薄く笑う。
「辛うじて、でございます」
侍女が答える。
「辛うじて、か」
エルヴィラの目が細くなる。
完全勝利ではない。
だが、王太子は傷ついた。
それは事実。
「ミレイナの立場は?」
「王太子殿下は変わらず婚約を維持するご意向とのこと」
扇子がぴたりと止まる。
「維持……」
当然だ。
だが、盤石ではない。
社交界の噂は耳に入っている。
“次期王妃としての資質”。
その言葉が、じわじわと広がっている。
「ミレイナを呼びなさい」
数日後、ミレイナは久しぶりに公爵邸へ戻った。
応接室で向き合う母と娘。
「大変だったわね」
エルヴィラは柔らかな声を出す。
「……はい」
「でも、王太子は守られた」
「辛うじて、ですが」
その言葉に、エルヴィラの目がわずかに動く。
「辛うじて、でも十分よ」
「母上……」
「あなたは選ばれたの」
強い声。
「氷の令嬢ではなく、あなたが」
その名は出さない。
だが、空気に漂う。
「それなのに、弱気になってどうするの」
「でも、わたくしは」
「学べばいい」
即断。
「政務も、契約も、信用も」
「……今からでも」
「遅くない」
エルヴィラは身を乗り出す。
「王太子が揺らげば、あなたの立場も揺らぐ。ならば、支えるの」
それは母としての言葉。
だが、その奥には焦りがある。
王位が揺れれば、娘の地位も消える。
公爵家の立場も。
夜。
アルドリックはその様子を報告で知る。
「エルヴィラが動いたか」
「はい。ミレイナ様に政務の学習を」
「遅い」
短い一言。
「ですが、努力は始まりました」
「努力は評価されぬ」
淡々と答える。
「結果のみだ」
その冷酷さが、公爵家の強さ。
一方、王宮。
ミレイナは書庫にこもっていた。
帳簿。
契約書。
税制の解説。
難解な文言に目を通す。
「……分からない」
小さく呟く。
だが、閉じない。
逃げない。
それだけは決めた。
扉が開く。
「何をしている」
レオンハルトが立っていた。
「勉強を」
「今さらか」
思わず漏れた言葉。
ミレイナの胸に刺さる。
「……今さらでも」
目を伏せずに言う。
「支えたいの」
沈黙。
レオンハルトは、しばらく何も言えなかった。
守ると言った。
だが、守るだけでは足りない。
支えられる覚悟があるか。
王宮の灯りが揺れる。
継母の焦燥。
娘の決意。
だが、時間は戻らない。
信任は辛うじて。
王位は揺れたまま。
四面楚歌は、まだ解けていない。
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