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第三十話 社交界の断罪
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第三十話 社交界の断罪
王都の朝は、妙に明るかった。
まるで何事もなかったかのように、馬車は行き交い、店は開き、貴婦人たちは優雅に茶会へ向かう。
だが――
招待状が届かなかった家が、あった。
ルヴァリエ公爵邸。
エルヴィラは、届くはずの封筒がないことに気づき、眉をひそめる。
「今日は伯爵夫人の春の茶会よね?」
「……そのようですが」
侍女が視線を逸らす。
「招待状は?」
「届いておりません」
空気が、ぴしりと割れる。
「何かの間違いよ!」
継母は立ち上がる。
「私を外すなんて、あり得ないわ!」
だが、あり得た。
別の家でも、同じことが起きていた。
「ミレイナ様は、今回ご遠慮いただきたいと……」
「どういう意味?」
「……社交界の空気が」
言葉を濁す侍女。
つまり、呼ばれない。
それだけだ。
午後。
エルヴィラは自ら伯爵夫人の屋敷へ乗り込んだ。
だが、門前で止められる。
「本日は招待客のみでございます」
「私は公爵夫人よ!」
「……存じております」
冷たい視線。
「ですが、現在の状況を鑑みますと」
その一言で、理解した。
信用が、ない。
舞踏会での暴露。 王命。 資産凍結。
すべてが、社交界の判断材料。
その頃、王宮では。
レオンハルトは廊下を歩いていた。
だが、誰も視線を合わせない。
以前なら、頭を下げていた貴族たちが、そっと距離を取る。
使用人でさえ、態度が違う。
「……殿下」
呼びかける声は、もうない。
王太子ではない。
継承権停止中の王族。
それだけだ。
一方、ミレイナは鏡の前で座り込んでいた。
「どうして……どうして……」
王太子妃になるはずだった。
皆が羨む立場。
それが、たった数日のうちに崩れた。
鏡に映る自分が、みじめに見える。
「お姉様のせいよ……」
呟く。
だが、心の奥では分かっている。
手紙は本物。 密会も事実。
否定できない。
夕刻。
公爵邸の書斎。
アルドリックは、重い息を吐いた。
「取引先が契約を見直したいと」
家令が告げる。
「理由は?」
「“信用問題”と」
言葉は柔らかい。
だが意味は明確だ。
家の名に傷がついた。
「エルヴィラの行動が裏目に出た」
「……私の責任だ」
初めて、父がそう認めた。
だが、遅い。
夜。
セリシアは静かに庭を歩いていた。
噂は完全に逆転した。
「可哀想な令嬢」 「裏切られたのね」 「よく耐えたわ」
同情と称賛。
彼女は、何もしていない。
ただ、事実を示しただけ。
それなのに、立場は変わる。
翌日。
王宮から正式な通達が出る。
レオンハルトの継承権は、停止から剥奪へと変更。
理由――
「王家の信用を著しく損なったため」
それは、ほぼ廃嫡。
社交界は一斉に理解した。
終わった、と。
ミレイナは泣き崩れ、 エルヴィラは叫び、 アルドリックは頭を抱える。
そしてレオンハルトは、ただ立ち尽くした。
誰も助けない。
誰も庇わない。
四面楚歌。
今度は、彼らの番だった。
転落は、止まらない。
これはまだ、序章に過ぎない。
王都の朝は、妙に明るかった。
まるで何事もなかったかのように、馬車は行き交い、店は開き、貴婦人たちは優雅に茶会へ向かう。
だが――
招待状が届かなかった家が、あった。
ルヴァリエ公爵邸。
エルヴィラは、届くはずの封筒がないことに気づき、眉をひそめる。
「今日は伯爵夫人の春の茶会よね?」
「……そのようですが」
侍女が視線を逸らす。
「招待状は?」
「届いておりません」
空気が、ぴしりと割れる。
「何かの間違いよ!」
継母は立ち上がる。
「私を外すなんて、あり得ないわ!」
だが、あり得た。
別の家でも、同じことが起きていた。
「ミレイナ様は、今回ご遠慮いただきたいと……」
「どういう意味?」
「……社交界の空気が」
言葉を濁す侍女。
つまり、呼ばれない。
それだけだ。
午後。
エルヴィラは自ら伯爵夫人の屋敷へ乗り込んだ。
だが、門前で止められる。
「本日は招待客のみでございます」
「私は公爵夫人よ!」
「……存じております」
冷たい視線。
「ですが、現在の状況を鑑みますと」
その一言で、理解した。
信用が、ない。
舞踏会での暴露。 王命。 資産凍結。
すべてが、社交界の判断材料。
その頃、王宮では。
レオンハルトは廊下を歩いていた。
だが、誰も視線を合わせない。
以前なら、頭を下げていた貴族たちが、そっと距離を取る。
使用人でさえ、態度が違う。
「……殿下」
呼びかける声は、もうない。
王太子ではない。
継承権停止中の王族。
それだけだ。
一方、ミレイナは鏡の前で座り込んでいた。
「どうして……どうして……」
王太子妃になるはずだった。
皆が羨む立場。
それが、たった数日のうちに崩れた。
鏡に映る自分が、みじめに見える。
「お姉様のせいよ……」
呟く。
だが、心の奥では分かっている。
手紙は本物。 密会も事実。
否定できない。
夕刻。
公爵邸の書斎。
アルドリックは、重い息を吐いた。
「取引先が契約を見直したいと」
家令が告げる。
「理由は?」
「“信用問題”と」
言葉は柔らかい。
だが意味は明確だ。
家の名に傷がついた。
「エルヴィラの行動が裏目に出た」
「……私の責任だ」
初めて、父がそう認めた。
だが、遅い。
夜。
セリシアは静かに庭を歩いていた。
噂は完全に逆転した。
「可哀想な令嬢」 「裏切られたのね」 「よく耐えたわ」
同情と称賛。
彼女は、何もしていない。
ただ、事実を示しただけ。
それなのに、立場は変わる。
翌日。
王宮から正式な通達が出る。
レオンハルトの継承権は、停止から剥奪へと変更。
理由――
「王家の信用を著しく損なったため」
それは、ほぼ廃嫡。
社交界は一斉に理解した。
終わった、と。
ミレイナは泣き崩れ、 エルヴィラは叫び、 アルドリックは頭を抱える。
そしてレオンハルトは、ただ立ち尽くした。
誰も助けない。
誰も庇わない。
四面楚歌。
今度は、彼らの番だった。
転落は、止まらない。
これはまだ、序章に過ぎない。
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