幻妖写鑑定局

かめりここ

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不思議な写真

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「悟伯父さーん、入りまーす」
 あれから数日後、私は日課のお見舞いへと来ていた。未だ血栓を溶かす点滴をしている悟伯父さんだけど、以前より大分小さくなったらしく嬉しそうだ。
「朝刊と着替えと……あとほら、捺!」
 入口に立ったままだった捺を無理やり引っ張って連れてくる。今日はある事情で捺も着いてきたんだけど、今度は逃すまいと悟伯父さんの病室まで連行したのだ。
「おぉ捺、久しぶりだな。でっかくなっちゃったなー」
 入院から数週間後、やっと見舞いにきた捺にこれ見よがしな嫌味を言う。
「爺さんこそ、まだのこのこと生き残っていたようで何よりです」
 捺も負けじと嫌味で返す。そのいつもの様子に、悟伯父さんは大きく口を開けて笑う。
「変わってねぇなー捺は。ま、心配なんてしてきた日には、逆に捺の事が心配になるがな」
「だけど、もう少し心配しても良いでしょ? 捺……これからもお見舞いに……」
「では俺はこれで失礼します。店があるので」
 話を強制的に切り上げると、さっさと部屋を出て帰ってしまった。初お見舞いは一分で終了した。
「まったく……どうしてこうも可愛げがないんだか……」
「捺はあれが正常なんだ。大変だろうけど、許してやってくれ。にしても珍しいな……よく病院まで来たもんだ」
 悟伯父さんは意外そうに言った。
「あぁ、それは以前話した松田さんのお見舞いに来たんですよ。回復したって連絡があったので」
 そう、松田さんのお母さんが数日間意識不明だったけれど、なんとか目を覚ましたのだ。その後の回復も順調で、面会の許可も下りたから会いに行ったのだ。
 ベッドサイドのテーブルには例の写真が飾られていた。松田さんは捺のお願い通り黙っていてくれたらしく、お母さんは今でも旦那さんが写ったと大切にしているようだ。
 しかもまだ昏睡状態の時にこの写真を飾ったらしく、その後目覚めたお母さんは
「お父さんがね、会いに来てくれたの。もっと生きなきゃだめだって、励まされたの。そしたら急に目が覚めたのよ」
と言ったと、松田さんは言っていた。続けて
「捺さんの言った通り、これは偶然の産物で撮れてしまったものだけど、私達にとってはやっぱり父が写った大切な有り難い写真なんだって分かったわ。だってそのおかげで、母は目が覚めたんだもの」
 今は緊張が抜け、ほっとした表情で笑っていた。それを見て、私達もやっと仕事を終えたって気分になれたのだ。ま、捺に言ったら「燈は何もしてない」って言われたけど。私のお蔭で解決出来たって事を完璧にスルーしている事には腹が立った。
「そうかそうか、目が覚めたなら良かったよ。しかし……仕事関係なら見舞いに来るのに、自分の祖父の見舞いに来ないとは……」
 今度の悟伯父さんは少し悲しそうに言った。
「悟伯父さんも、早く退院してお店に戻ってきてくださいね! 捺が我が物で居るから、早く怒ってやってください。葉物野菜は食べないし」
「はは、そうするよ」
 それから洗濯物を預かって、一人外へと出る。いつも通りの道を歩いていると、少し先の街路樹の下で捺がこっちを見て立っていた。
「どうかしたの?」
 捺の元まで来た所で尋ねるも、すぐに後ろを向いて歩き始めた。何ですか、無視ですか、いつもの事だけど……。
 一々文句を垂れていても仕方が無いし、少し離れた後ろで私も歩き始めた。既に桜は散り、青々した若葉が沢山芽吹いていた。ちょっと風が強いけど、運んでくるまだ若い緑の香りは春独特の物で、少し荒々しく髪を梳いていく。
「あのね、捺の事ちょっと見直した」
 こうも気分が良いと、今までの嫌な部分とか無駄な意地とかは消えて、素直に今の気持ちが言えるんだから不思議。捺は振り向きもせずに前を歩く。本当に聞こえてないのかもしれない。
「あの写真は本物のお父さんじゃなかったけど、きっとお母さんの想いが届いたから、お父さんが救ってくれたんだよね。不思議だけど、そう思うんだ」
 振り向かない捺の背に語る。心地よい暖かさを纏った春風は、私の口を滑らせ続ける。
「私の事バカバカ言うし、小言も嫌味も多い本当に嫌な奴って思ってたけど……ちゃんと人の事考えてるんだなって思った。プライド高いだけじゃないんだね」
 ま、聞こえてないし、これくらいの嫌味は付け足しても良いよね。今まで言われてきた分があるし、これでも十分褒めてるわ。
 前を歩いていた捺は急に振り返る。驚いて私もその場に立ち止まった。
「俺は思ってる事しか言わない」
「き、聞こえてたの?」
 私の言葉に答えることなく、捺は続けた。
「それに最善の策を考えて行動している。心配していた松田さんには真実を、お母さんには信じている方を伝えただけだ。燈はバカだとの真実を突き付けてやらないと治らなそうだからな。痛む心を持ちつつそう伝えてやっているんだ。感謝しろ」
 ぽかんと口を開けている私を置きざりに、捺は振り返って再び歩いて行ってしまった。
「な……な……」
 やっとのことで言葉を理解すると、怒りやなんやらが溢れてきて顔が真っ赤になった。頭では正直何を考えているのか、自分でも分からない程に高速回転している。
「捺のバカーー!」
 小さくなる背中に思いっきり叫んだ。周囲には住宅もお店も、人の気配もなかったから良かったけど。褒めたのにあの言われようじゃ、流石に私だって我慢の限界なんだから!
 そんな私の叫びにも、捺は気にすることなく歩いて行ってしまった。
「くそー……あいつめ、覚えてろよ! 今日の夕飯は葉物野菜だけにしてやる!」
 肩から落ちていたバッグを背負い直し、献立を考えながら大股で帰って行った。私に気圧されたのか、あの気持ちの良い風は止んでいた。
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