幻妖写鑑定局

かめりここ

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悪霊屋敷の謎

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 翌日の午前、まだ朝の冷たい空気が漂っている店内で、一人カウンターに腰掛けてぼーっと外を眺めていた。今日は捺と森さんは、朝から撮影の為に出払っている。撮影は大概スタジオで行うけど、稀に家で撮って欲しいとか、どこでの記念撮影とかを個人から依頼されるらしい。
 その為今日はほぼお休み。向うの都合で日曜日じゃないと駄目らしくて、今日は他の撮影は一切受け付けていない。私に出来る事と言ったら、フィルムを預かる、または現像してある写真を渡すことくらい。役立たず? 自分でも思いますよ、そりゃ。
「むー……暇……。優里は今頃何してるのかなー」
 今日の夕方に実家を出るって言ってたから、こっちに着くのは多分夜中だろうな。優里の実家も私と同じく遠方にあるし、交通の便もそんなに良くないらしい。バスと電車を乗り継いで帰らなきゃだから大変だよね。
「良いお天気……お昼寝したいなぁ……」
 人が居ないことを良い事に、大きな欠伸をした時だ。
「あのー……すみません」
「ふぁっ!」
 いつの間にか店内に入っていた女性は、こちらの様子を伺っている。げっ……欠伸してる所見られたかな。
「いらっしゃいませ!」
 眠気と恥ずかしさを吹き飛ばすように笑みを作り、女性を向かい入れた。見た事ないお客さんだ。装いが正装という程ではないが、普段着と言うには良すぎるものだ。撮影の人かな?
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
 女性は少し戸惑ったように店内を見渡したあと、おずおずと私に尋ねてくる。
「あの……久保燈さんは、いらっしゃいますでしょうか?」
「え? はい、私ですが……」
 私にお客さんなんて珍しい、捺目当てなら散々居たけれど。だけど私、この人見覚えないなぁ……こんな良い所のお嬢様との人脈なんてないし、忘れてるだけかな。
「貴女が……。初めまして、お姉さんの星さんと良き御付き合いをさせて頂いております、日野ひの真琴まことと申します」
「お姉ちゃんの……ですか? 初めまして……」
 こんな良い所のお嬢さんと知り合いだったとは、初耳ですよお姉ちゃん。しかし貧乏一家のお姉ちゃんと、明らかにお高い洋服と小物と雰囲気を放っているお嬢様が、一体どんな繋がりで出会ったんだろう? というかそもそも、妹の私に何の用なんだろ?
 次々と沸き起こる疑問に頭を悩ませていると、それが表情に出たのか、日野さんが少し申し訳なさそうに言う。
「急に来ちゃってごめんなさい、驚いちゃったわよね……? お姉さんから、何かお話は聞いてないかしら?」
「いえ、何も……。あの、どういったご用件でしょうか?」
「実は……変な写真が撮れて、それを視て欲しくて」
 え、まさか日野さんも写真鑑定目的の人だったとは。……だけどお姉ちゃんは捺が鑑定してるとか知らないはずだよね、どこから漏れたんだろう?
「星さんに相談したら、燈さんが今同居してる人が鑑定してくれるって教えてくれて、それで伺わせてもらったの。……やっぱり駄目かしら?」
「あぁ、いえ……鑑定出来るのは捺なんですけど、今出払ってるので……代理に私がお話を伺いますので、ソファに掛けてお待ちください。今お茶入れてきますね」
 日野さんをソファに座らせ、一旦キッチンへと下がる。そこでお湯を沸かしている最中にスマホを取り出し、電話を掛ける。相手は思いの外早く電話に出た。
『はぁーい、どしたの燈?』
 昨日と同じ、名前の通り明るい声がしてくる。
「お姉ちゃん。今、日野さんって方が来てるけど」
『うん、そうそう。捺君が鑑定してるよって教えたんだ』
「もう……それならそうと言っておいてよ。ていうか、どこで捺が鑑定してるって話を知ったの? 毎回ファンは団体で押し寄せてくるから、お店だって迷惑してるのに……」
 それに捺だって正直好んで鑑定しているわけではない。本当に困ってると言えば、以前の時のように解明したりしてくれるかもしれないけど、絶対に視てくれるって保証もないんだから。
 いつでも自分都合で決めちゃうんだから。そう思ってた私に、姉は戸惑った様子で言った。
『だって、鑑定してくれるって書いてあったよ?』
「どこに。ファンクラブの掲示板?」
『違うよー。心霊写真鑑定しますってタイトルで、捺君の写真が貼られてるのをネットで見たの。だから最近はこういうサービスあるんだって思って、お仕事紹介したんじゃないの』
「……はい? なにそれ、どこで見たの。お店のホームページのリンク載ってる?」
『そこまでは調べてないけど……捺君の鑑定してる様子も乗ってたし、本当かなって思ったのよ。迷惑してるなんて知らなかったもの』
 これは……捺が喜んで鑑定するなんて言わない事は明らかである以上、誰かが勝手に作ったページだと思われる……。そっか、だから昨日来た人達は「ネットで見たより良い」って言ってたんだ。……って事は、これからも襲来するって事か……うげぇ。
 ともかく、この事は捺に伝えておかないと。
『大変かもしれないけど、彼女の力になってあげて。捺君て、凄く秀才なんでしょ? 教授からも本格的に海外の研究機関に行かないかって言われてるって』
「その話も、ネットから?」
『そう書いてあったよ。久々に会ったけど、丁寧で優しい子だし。これは燈、ライバル多くて大変そうだなーって思ったもの』
 まぁ……確かにお姉ちゃんの前では猫被りしてたから、良い人に見えたかもしれないけど。
「実際はすんごく性格悪いから。本当、悪魔ってくらい」
『嫌なところも見える程、仲が良いって事なのね? ふふふ』
 私の気持ちを知ってか知らずか、電話口で楽しそうに笑っている姿が目に浮かぶ。
「あーのーねぇ! 私、捺を好きなんて一瞬たりとも思った事ないから!」
『一緒に居るからそう思うだけなのかもよ?』
 これ、完全に遊ばれてるよね私。火にかけておいたヤカンが音を立てている。日野さんをお待たせしてるんだから、これ以上くだらないお喋りをしている暇はないのに。
「……ともかく、一応日野さんの話は聞くけど、捺の機嫌次第だからね」
『そう……残念ね。真琴さんのお家でもちょっと困った事があるみたいで、捺君は頭が良いから解決できるかと思ってたんだけど……ダメ元で一応、そう伝えて見てくれない?』
「良いけど……駄目って言われたら、もう私から何言っても無駄だからね」
『そしたら私からもお願いしにいくから。じゃ、宜しくね』
 私の返事を待たずにプツッと電話を切る。少し早口だったし、どうやら忙しい時にかけてしまったようだ。
「ま、日野さん良い人そうだし。本当に困ってそうなら、捺も手を貸してくれるでしょ」
 紅茶をカップに注ぎ、待たせている日野さんの元へと戻った。
 お店に戻ると、彼女はまるでお人形のように背筋を真っ直ぐ伸ばしてソファに腰掛けている。落ち着いているけれど、まだ若い人なんだと思う。肌も白魚のように真っ白だし。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
 彼女は深々とお辞儀をして、角砂糖を一粒入れて口を付けた。飲み方も音を立てずに静かに飲んでいる。日本人は蕎麦にしてもお抹茶にしても、音を立て飲む文化が染みついている。だから紅茶もつい音を立てがちだけど、やっぱり彼女のように静かに頂いている姿は優美だ。
「では早速ですが……写真を見せて頂けますか」
「はい。こちらになります」
 白いブランドのロゴが付いたハンドバッグを開け、中から一枚の写真を差し出してくる。
 受け取ると、中には二人の人物が写っていた。車椅子に座っているお爺さんと、目の前にいる日野さんだ。部屋はリビングのような場所らしく、ソファと机が見切れて写っている。壁には蝋燭立が付けてあり、部屋の奥には暖炉らしき物もある。どれもアンティーク調の、お高そうな物だ。どのくらいかなんて、骨董屋じゃないから分からないけど。だけど高そうだって事だけは分かる。やっぱり日野さん、お嬢様なんだ。
 だけど肝心な不可解な部分は分からない。彼女もお爺さんも顔や手等変な所はないし、写真全体に発光球体があるわけでもない。じゃあ何か写っているのかと言われれば顔のような物は無さそうだし……。
「あの……すみません、何処が変なんでしょうか?」
「実は、そこの壁にある影なんです……」
 影? 彼女が指差した部分は廊下へと続く角の部分で、そこの壁に人影が映っていた。髪が長いようで風に煽られて少し巻き上がっている。影は廊下から上半身だけ覗かせているような感じで、斜めに壁に写っている。下半身は手前のソファやテーブルによって遮られていて見えない。
 でも……これって普通に居る人の影なんじゃないだろうか? 初め私はそう思っていた。此処に誰かいて、偶々写真に写っちゃった影なんだろうなって。これが突然壁の真ん中に、伸びた人影じゃなくて影のみ現れたらそれはおかしいって思うけど……。
「……あの、廊下に居る人の影じゃないんですか? 他の物の影からしても、陽射しで出来た影と同じ角度をしていますし」
「それが……。この時、この家には私と祖父以外、誰も居なかったんです。……だから気味が悪くて……」
 確かに、そう言う事なら気味が悪いし、変な写真って事になる。だけど、それが真っ先に心霊とかそういう方向に結びつくわけでもない。不法侵入者とか、窓の外からどうにか写った影とか、そういう事もあるかもしれないし。
「もしかしたら誰か居たのかもしれませんよ? そしたら危ないし、うちより警察の方が良いかと……」
「私もそれは考えました。……だけどこの撮影のあと、この廊下を見たら誰も居なかったし、その先の倉庫にもだれも居ませんでした。……だけどそもそも。この廊下と倉庫には窓は無いんです。だから人が居ても影は出来ないはずなんです」
「倉庫には電気は無いんですか?」
「ありますが、撮影時には点いてませんでした。でも万が一気付かずについていたかもと思って、電気を付けたまま人を配置しておく検証をしてみたんです。だけど、電気は真上からの物なので、影は真下にしか出来なくて……」
 日野さんの言う通りだ、横に電気が点いてないとさっきの方法では説明出来ない。だとしたらどうやって映ったんだろう? まさか合成? いや、でも日野さん本当に困ってるっぽいのに、どうしてそんな事をするってなるよね……。
「それに……」
 首を傾げながら写真と睨めっこをしていると、日野さんが言いにくそうに話し始めた。
「このお屋敷、昔神隠しがあったって話があって……。だから今は、誰も住んでいないんです」
「神隠し?」
「はい。祖父が経験したようで……。まだ小さな頃、家で追いかけっこしていた子供がどこかに消えてしまったらしいんです。子供が角を曲がって行って、祖父がすぐ後を追ったらしいんですが、もうその時には姿が無かったって……。通路は行き止まりだったし、隣の部屋にもいなかったって」
「その後お子さんを探さなかったんですか?」
「それが……」
 日野さんは更に言いにくそうにしている。
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