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悪霊屋敷の謎
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「あの……」
姉と同じように日差しと共に入り込んできた何人もの女性。若い人が多いけれど、主婦くらいの年頃の方もいる。全員見た事のない顔だ。
「あっいた! あの人だよ!」
誰かがこちらには一切関心を向けていなかった捺を指さした。それを筆頭に我先にと捺の元へ駆け寄り、各々のバッグから写真を取り出す。
「あの、この写真見てください!」
「私のも。変なのが写ってて……怖いんです!」
捺は明らかに不機嫌そうな顔をしている。初めは無視を決め込んでいたようだけど、これだけの大人数に囲まれればそれも限界があるようで……仕方なく写真を受け取って、また以前の様に机の上で仕分けを始めた。
「また捺目当てで来た人達なのか……にしても多いなぁ」
呆れ気味にそれを見ていたら、更にドアベルが鳴って人が駆け込んできた。第二陣の登場らしい。一陣を押しのけて捺を取り囲み、あっという間に店内は人で溢れかえっていた。最初と同じように写真を見てとの声もあったが、その次に聞こえるのは「かっこよすぎ!」「ネットの写真より綺麗だよ!」「やばい、クールで良い」との声。
やっぱり捺目当てなんかい。
あーぁ……どうしてこんな能面毒舌男に夢中になれるのか……。というかネットの写真よりカッコいいってどういう事だ? 一応我が写真屋のホームページはあるけども、庭やモデルさんの写真だけで捺は載っていないけど……。
首を傾げつつその様子を見ていた。捺はもう人ごみに埋もれて見えなくなっている。
皆の熱気で店内の温度が春と思えない程に上がって、少し気持ち悪くなってきた。
「うぅ……外でよ……」
既に玄関付近まで追いやられていた事だし、扉を開けて玄関脇のポーチに避難した。人の中は余り得意ではない、ずっといるとむかむかとしてきてしまうから。
ポーチに靠れていると、バラの香りを纏った西風が吹いてきた。程よい甘い香りに、喉奥まで込み上げていた物は、すっと消えて行く。本当ここの家って、花と緑に囲まれて幸せな空間だよなぁ……。口うるさい奴と、顔面重視のお客だけが残念だけど。
騒ぎが収まるまでそうしているつもりだった。どうせ中に入ってもまだ色々とやっているんだろうし。そう思って表通りに視線を向けた時だった。
「あ……雅紀さん!」
「あれ? 君は足立さんのお友達の……えっと……」
「久保燈と言います。自己紹介がまだでしたね、すみません」
雅紀さんは半袖の紺のパーカーにジーンズとラフな格好で、左手には書店で購入したばかりと思われる本を持っていた。周りを普通の人が歩いていると、その高身長がかなり目だつ。細身だから本当、縦に長いって感じ。
雅紀さんは庭にやってきながら、声が漏れ出している店内を見て「何の騒ぎ?」と言った。
「えっと、写真の鑑定と言いますか……。ほぼ捺目当てですが……」
「捺……? あ、この前迎えに来た子だね。確かに稀に見る二枚目だったしね」
「性格は最悪ですよ」
これ重要。皆顔に騙され過ぎなのよ。
「と言う事は、久保さんは彼の恋人って訳じゃないんだ? 迎えに来た時、彼は僕の事を睨んでたからてっきりそうなのかと……」
「とんでもない! 捺とは、はとこなんです。あんなのと付き合うなんて、勘弁してください……。雅紀さんを見ていたのはどうしてか分かりませんが、元々嫌味な奴なんで、気にしないでください」
「気にはしていないよ。大丈夫」
雅紀さんはふんわりと笑った。やっぱり優しい人の笑顔って癒されるなぁ……捺は笑うなんてないし。優里が懐く理由も頷ける。ポーチを離れて歩き始めた雅紀さんを何となく追って、話しながら歩いて行く。
「そう言えば、昨日から足立さんが帰ってないみたいだけど……」
「あ、そうなんです。よく分かりましたね。なんか親戚の集まりがあるとかで、実家に帰らなきゃって言ってて……優里も遊びに来れないし、私もお店から出られないしで、物凄くつまんなかったんです」
「寝るには早い時間に帰ったのに、電気が点いてなかったから。それは大変だね……お店のお手伝いも忙しいって言ってたしね」
「悟伯父さんが入院しているんで……。格安で住まわせて貰っているんだから、文句は言えないですしね。雅紀さんはこの後どうするんですか?」
「新しく買った本を読もうかなって。今はこの地方に伝わる歌謡の発祥、由来を調べているんだが……聞きたい?」
「聞きたい聞きたい!」
昔から伝わる歌には色々な意味が込められているってよく聞く。花一匁は子供を売る歌だし、カゴメは埋蔵金の在りかを示すって言っていた。民俗学の中でもそういう話は特に好きだった。だって聞いたまんまの意味だと思っていた歌が、実は別の側面を持っているって知ると、凄くわくわくして面白いから。
「うん、それじゃあね……」
雅紀さんは楽しそうに話し始めた。その歌は私の知らない歌だったけど、雅紀さんの説明がとても分かりやすくて、秘められた真実を聞いたときには溜息が漏れるほど納得した。これは雅紀さんの解釈だと言っていたけど、定説として行けると思うくらいによく出来ていた。
他にも言い伝えとかについて聞いていたら、気が付いたら雅紀さんの住むアパートに着いてしまった。
「良ければ家に寄って行くかい? さっき話してた資料もあるし」
雅紀さんはそう言ってくれる。どうしよう、お店放置しちゃってるし……でも今回は捺もいるし、森さん一人じゃないから良いよね。そう言い聞かせて、雅紀さんの言葉に甘えてお家にお邪魔させてもらうことにした。
室内は相変わらずの本の数だ。前にお邪魔した時よりも資料は増えて、机の上にいくつもの山を形成している。研究者ともなると、これくらいの資料は読まなきゃなんだろうな。
「えーと確かこの辺りに……あったあった」
本棚に詰め込まれた沢山の資料の中から一つを選び出し、私の待っていた机に持ってきて見せてくれる。雅紀さんの話し方はとても面白く、また分かりやすかった為、時間を忘れてすっかり居座ってしまった。
「こんなに遅くになっちゃった……」
星が輝く程になった頃、街灯と家から漏れる灯りで照らされた夜道を歩いていた。気が付いたらこんな時間になっていて、そろそろお夕飯作らなきゃと帰ってきたのだ。送って行くよと言ってくれた彼の言葉だけを有り難く頂戴して、捺から怒られることを想定し、頭を悩ませながら歩いて行った。
やがて住宅街の中に一際大きな家が見えて来た。洋風の外観をしているけれど、庭は和と洋が入り混じっている、傍から見れば不思議なお家だ。看板には写真館の文字が書かれている。
「うぅ……もっと早くに帰って来るつもりだったのに……。こんな遅くまで帰ってなかったから、絶対にばれてるよな……」
何度目かの溜息をついて、お店の扉を開けた。閉店後の薄暗い店内に、ドアベルの音が寂しそうに鳴り響く。オレンジ色の照明が弱く灯っていて、私の帰りを迎えてくれた。
森さんはもう帰ったのかな。捺は居ないみたいだし、急いでお夕飯作らなきゃ。振り返って扉の内鍵を閉めると、すぐ背後からうなじをなぞるような低い声がした。
「何処に行っていた?」
驚いて飛び跳ねながら振り向く。いつの間にか後ろに立っていた捺は、暗い照明のせいか昼間より数段不機嫌そうに見える。腕を組んで仁王立ちしている姿は、まるで門限を破った娘を叱るお父さんのようだ。私より身長が低いのに、今は大きく威圧感がある。
「えっと……その……ごめんなさい……」
その威圧感に思わず謝罪の言葉が出る。
「……こんな時間まで、何処に行っていた?」
静かにもう一度問いただす捺。こ、怖い……確かに何も言わないで出て行ったのは私だし。
「あの……こんな時間になる前に帰ろうと思ってて……でもうっかりしちゃって……雅紀さんの家に行ってました……」
名前を出した時、捺の眉がピクリと動いた。更に黒いオーラのような物が捺の背後から現れる。目付きが鋭くなり、出てくる言葉には棘がある。
「奴の家で何してたんだ?」
「何って……民謡の話とか……資料見せてもらったり……」
捺はふんと鼻を鳴らして、腕を組み直して言う。
「……今度から出掛けるなら事前に言ってから行け。今はまだ日が伸びてきている時だから良いが、冬ならこの時間は真っ暗になる。人通りも多いとは言えない地帯だ。一応燈も女なんだ。何かあった時に対抗出来るのか?」
捺が静かな重厚感のある声で諭すように言ってくる。確かにそうだ……住宅街の中にあるから、周辺にお店のような強い灯りはない。街灯と家から漏れる光の僅かな光量で道路が照らされているだけ。お店にも捺にも迷惑かけちゃったな……。
「えっと、ごめんね、心配かけて……」
「……勘違いするな。燈を預かっている家の者として、何かあっては困るだけだ」
捺はぷいっと後ろを向いて言う。棘のある言い方だけど、一応でも心配してくれたんだ……。
その心は素直に嬉しいから、そう伝えようと口を開いた時
「あと……」
思い出したように振り返って言う。
「お前、趣味悪いな」
……はい?
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だ。研究者なんて大概が変人だぞ」
「ま、雅紀さんは変人じゃないもん! 自分が人気あるからって、偏屈な事言わないでよね!」
「少なくとも悪い趣味で無い事は確かだ。ゴボウみたいに細長い奴を好む人間は多くはない」
な……っ! こいつーっ!
ぎりぎりと歯ぎしりをする私を見て、口の片端を持ち上げにやりと笑う。そのまま後ろを向き、部屋に戻って行った。
「まったく、自分の背が低いからって人の事を皮肉るなんて、本当に子供……」
溜息をつき、私もすっかり夕飯の準備をする気にはなれず、そのまま部屋へと戻って行った。
姉と同じように日差しと共に入り込んできた何人もの女性。若い人が多いけれど、主婦くらいの年頃の方もいる。全員見た事のない顔だ。
「あっいた! あの人だよ!」
誰かがこちらには一切関心を向けていなかった捺を指さした。それを筆頭に我先にと捺の元へ駆け寄り、各々のバッグから写真を取り出す。
「あの、この写真見てください!」
「私のも。変なのが写ってて……怖いんです!」
捺は明らかに不機嫌そうな顔をしている。初めは無視を決め込んでいたようだけど、これだけの大人数に囲まれればそれも限界があるようで……仕方なく写真を受け取って、また以前の様に机の上で仕分けを始めた。
「また捺目当てで来た人達なのか……にしても多いなぁ」
呆れ気味にそれを見ていたら、更にドアベルが鳴って人が駆け込んできた。第二陣の登場らしい。一陣を押しのけて捺を取り囲み、あっという間に店内は人で溢れかえっていた。最初と同じように写真を見てとの声もあったが、その次に聞こえるのは「かっこよすぎ!」「ネットの写真より綺麗だよ!」「やばい、クールで良い」との声。
やっぱり捺目当てなんかい。
あーぁ……どうしてこんな能面毒舌男に夢中になれるのか……。というかネットの写真よりカッコいいってどういう事だ? 一応我が写真屋のホームページはあるけども、庭やモデルさんの写真だけで捺は載っていないけど……。
首を傾げつつその様子を見ていた。捺はもう人ごみに埋もれて見えなくなっている。
皆の熱気で店内の温度が春と思えない程に上がって、少し気持ち悪くなってきた。
「うぅ……外でよ……」
既に玄関付近まで追いやられていた事だし、扉を開けて玄関脇のポーチに避難した。人の中は余り得意ではない、ずっといるとむかむかとしてきてしまうから。
ポーチに靠れていると、バラの香りを纏った西風が吹いてきた。程よい甘い香りに、喉奥まで込み上げていた物は、すっと消えて行く。本当ここの家って、花と緑に囲まれて幸せな空間だよなぁ……。口うるさい奴と、顔面重視のお客だけが残念だけど。
騒ぎが収まるまでそうしているつもりだった。どうせ中に入ってもまだ色々とやっているんだろうし。そう思って表通りに視線を向けた時だった。
「あ……雅紀さん!」
「あれ? 君は足立さんのお友達の……えっと……」
「久保燈と言います。自己紹介がまだでしたね、すみません」
雅紀さんは半袖の紺のパーカーにジーンズとラフな格好で、左手には書店で購入したばかりと思われる本を持っていた。周りを普通の人が歩いていると、その高身長がかなり目だつ。細身だから本当、縦に長いって感じ。
雅紀さんは庭にやってきながら、声が漏れ出している店内を見て「何の騒ぎ?」と言った。
「えっと、写真の鑑定と言いますか……。ほぼ捺目当てですが……」
「捺……? あ、この前迎えに来た子だね。確かに稀に見る二枚目だったしね」
「性格は最悪ですよ」
これ重要。皆顔に騙され過ぎなのよ。
「と言う事は、久保さんは彼の恋人って訳じゃないんだ? 迎えに来た時、彼は僕の事を睨んでたからてっきりそうなのかと……」
「とんでもない! 捺とは、はとこなんです。あんなのと付き合うなんて、勘弁してください……。雅紀さんを見ていたのはどうしてか分かりませんが、元々嫌味な奴なんで、気にしないでください」
「気にはしていないよ。大丈夫」
雅紀さんはふんわりと笑った。やっぱり優しい人の笑顔って癒されるなぁ……捺は笑うなんてないし。優里が懐く理由も頷ける。ポーチを離れて歩き始めた雅紀さんを何となく追って、話しながら歩いて行く。
「そう言えば、昨日から足立さんが帰ってないみたいだけど……」
「あ、そうなんです。よく分かりましたね。なんか親戚の集まりがあるとかで、実家に帰らなきゃって言ってて……優里も遊びに来れないし、私もお店から出られないしで、物凄くつまんなかったんです」
「寝るには早い時間に帰ったのに、電気が点いてなかったから。それは大変だね……お店のお手伝いも忙しいって言ってたしね」
「悟伯父さんが入院しているんで……。格安で住まわせて貰っているんだから、文句は言えないですしね。雅紀さんはこの後どうするんですか?」
「新しく買った本を読もうかなって。今はこの地方に伝わる歌謡の発祥、由来を調べているんだが……聞きたい?」
「聞きたい聞きたい!」
昔から伝わる歌には色々な意味が込められているってよく聞く。花一匁は子供を売る歌だし、カゴメは埋蔵金の在りかを示すって言っていた。民俗学の中でもそういう話は特に好きだった。だって聞いたまんまの意味だと思っていた歌が、実は別の側面を持っているって知ると、凄くわくわくして面白いから。
「うん、それじゃあね……」
雅紀さんは楽しそうに話し始めた。その歌は私の知らない歌だったけど、雅紀さんの説明がとても分かりやすくて、秘められた真実を聞いたときには溜息が漏れるほど納得した。これは雅紀さんの解釈だと言っていたけど、定説として行けると思うくらいによく出来ていた。
他にも言い伝えとかについて聞いていたら、気が付いたら雅紀さんの住むアパートに着いてしまった。
「良ければ家に寄って行くかい? さっき話してた資料もあるし」
雅紀さんはそう言ってくれる。どうしよう、お店放置しちゃってるし……でも今回は捺もいるし、森さん一人じゃないから良いよね。そう言い聞かせて、雅紀さんの言葉に甘えてお家にお邪魔させてもらうことにした。
室内は相変わらずの本の数だ。前にお邪魔した時よりも資料は増えて、机の上にいくつもの山を形成している。研究者ともなると、これくらいの資料は読まなきゃなんだろうな。
「えーと確かこの辺りに……あったあった」
本棚に詰め込まれた沢山の資料の中から一つを選び出し、私の待っていた机に持ってきて見せてくれる。雅紀さんの話し方はとても面白く、また分かりやすかった為、時間を忘れてすっかり居座ってしまった。
「こんなに遅くになっちゃった……」
星が輝く程になった頃、街灯と家から漏れる灯りで照らされた夜道を歩いていた。気が付いたらこんな時間になっていて、そろそろお夕飯作らなきゃと帰ってきたのだ。送って行くよと言ってくれた彼の言葉だけを有り難く頂戴して、捺から怒られることを想定し、頭を悩ませながら歩いて行った。
やがて住宅街の中に一際大きな家が見えて来た。洋風の外観をしているけれど、庭は和と洋が入り混じっている、傍から見れば不思議なお家だ。看板には写真館の文字が書かれている。
「うぅ……もっと早くに帰って来るつもりだったのに……。こんな遅くまで帰ってなかったから、絶対にばれてるよな……」
何度目かの溜息をついて、お店の扉を開けた。閉店後の薄暗い店内に、ドアベルの音が寂しそうに鳴り響く。オレンジ色の照明が弱く灯っていて、私の帰りを迎えてくれた。
森さんはもう帰ったのかな。捺は居ないみたいだし、急いでお夕飯作らなきゃ。振り返って扉の内鍵を閉めると、すぐ背後からうなじをなぞるような低い声がした。
「何処に行っていた?」
驚いて飛び跳ねながら振り向く。いつの間にか後ろに立っていた捺は、暗い照明のせいか昼間より数段不機嫌そうに見える。腕を組んで仁王立ちしている姿は、まるで門限を破った娘を叱るお父さんのようだ。私より身長が低いのに、今は大きく威圧感がある。
「えっと……その……ごめんなさい……」
その威圧感に思わず謝罪の言葉が出る。
「……こんな時間まで、何処に行っていた?」
静かにもう一度問いただす捺。こ、怖い……確かに何も言わないで出て行ったのは私だし。
「あの……こんな時間になる前に帰ろうと思ってて……でもうっかりしちゃって……雅紀さんの家に行ってました……」
名前を出した時、捺の眉がピクリと動いた。更に黒いオーラのような物が捺の背後から現れる。目付きが鋭くなり、出てくる言葉には棘がある。
「奴の家で何してたんだ?」
「何って……民謡の話とか……資料見せてもらったり……」
捺はふんと鼻を鳴らして、腕を組み直して言う。
「……今度から出掛けるなら事前に言ってから行け。今はまだ日が伸びてきている時だから良いが、冬ならこの時間は真っ暗になる。人通りも多いとは言えない地帯だ。一応燈も女なんだ。何かあった時に対抗出来るのか?」
捺が静かな重厚感のある声で諭すように言ってくる。確かにそうだ……住宅街の中にあるから、周辺にお店のような強い灯りはない。街灯と家から漏れる光の僅かな光量で道路が照らされているだけ。お店にも捺にも迷惑かけちゃったな……。
「えっと、ごめんね、心配かけて……」
「……勘違いするな。燈を預かっている家の者として、何かあっては困るだけだ」
捺はぷいっと後ろを向いて言う。棘のある言い方だけど、一応でも心配してくれたんだ……。
その心は素直に嬉しいから、そう伝えようと口を開いた時
「あと……」
思い出したように振り返って言う。
「お前、趣味悪いな」
……はい?
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だ。研究者なんて大概が変人だぞ」
「ま、雅紀さんは変人じゃないもん! 自分が人気あるからって、偏屈な事言わないでよね!」
「少なくとも悪い趣味で無い事は確かだ。ゴボウみたいに細長い奴を好む人間は多くはない」
な……っ! こいつーっ!
ぎりぎりと歯ぎしりをする私を見て、口の片端を持ち上げにやりと笑う。そのまま後ろを向き、部屋に戻って行った。
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