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悪霊屋敷の謎
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強い陽射しが照り付けてくる車内で、停滞した窓の外を眺めていた。さっきから一向に動く気配がなく、流石にこの景色にも見飽きて来た。とは言え、私達を見る目はさっきから好奇心に満ちている。こんな高級車に明らか持ち主と思えない様相の二人の子供が乗っているんだもの、色々と想像してしまうのかもしれない。
今日はゴールデンウィーク初日、朝早くに迎えに来てもらったのに、もう高速道路は帰省ラッシュで渋滞していた。ここまでになってきたら下道の方が早いんじゃないかとも思うけど……それはそれで秋田までは長い道のりとなる。
「ニ十キロ先で事故があった模様です。お二人ともご気分は大丈夫でしょうか?」
運転手さんが時折私達を気遣ってくれる。日野さんを迎えに来ていたのと同じ、女性のドライバーさんだった。間近で見ると整った顔立ちときりっと上がった目がカッコいい、だけど口調は丁寧で優しい感じで良い雰囲気の人だった。
「はい、大丈夫です。蒔田さんは大丈夫ですか?」
蒔田さんとは運転手さんの名字だ。私達を迎えに来た際、名刺まで渡して丁寧にご挨拶してくれたのだ。
「お気遣いありがとうございます。お飲み物等準備はしておりますので、いつでもお申し付けください」
彼女はあくまでも丁寧に返答をして、再び無言になった。捺はさっきからずっと本を読んでいて、話しかけても返事をしてくれない。私は本持ってきてないし、スマホも充電が無くなるから使えないし……する事もなく、ただぼーっと遠くにある山を眺めていた。
空は雲一つなく、鳥が自由に飛び交っている。あーあ、この道も早くあんな風にすいすい通れるようになればいいのに……。心の中で呟きながら、温かな日差しを浴びて次第に瞼が重たくなっていった。
濡れた地面の香りと草の匂いがする。この匂い好きだな……自然の中にいるって感じで。なんだか体がふわふわ浮いている感じで、凄く心地いい。だけど揺れが大きくなってきたな……蒔田さんの運転は丁寧で振動なんて無かったのに、どうしたんだろう?
不思議に思いつつも、そのまま体を預けていたところ、突然揺れが収まって再び止まっているかのような運転になった。砂利道から舗装された道に出たのかな。それにしても、瞼が重たいなぁ……
心地よさに再び意識が持って行かれそうになった時。
「いでっ」
突然額を叩かれて目が覚める。
「いつまで寝てる気だ。もう着いた、降りる準備しろ」
捺はいつも通りに、冷たく言い放つ。これだけ長距離だったんだから、寝たって良いじゃない……
口を尖らせながら車を降りる。外は数刻前まで雨が降っていたらしく地面が濡れていた。濡れた土の香りが鼻をつく、夢の中と同じ香りだった。
「うわぁ……想像してたよりずっと凄い……」
目の前には大豪邸との言葉が相応しい建物が建っていた。敷地面積はどれくらいか分からないくらいだし、建物は古いけどよく手入れがされているようだった。基礎部分にはレンガが使われているけど、それもまた合っている。
ただ真琴さんの言う通り、しばらく住んでいなかったようだから、庭に花とかは無い。雑草が伸び放題で、家にも蔦が這っている。周りも鬱蒼とした木々に囲まれているから、森の中に突然これが現れたらちょっと怖い。
「遠くまでありがとうございます、燈さん、柴田さん。どうぞ中へお入りください」
大きな玄関扉を開け、中から真琴さんが出て来た。お嬢様っていう雰囲気があるから、お屋敷とのイメージも合っている。
「お荷物は私がお部屋までお運び致します」
蒔田さんがお辞儀をして言ってくれたので、お礼を言って真琴さんの元へと向かった。隣で捺は一切喋らずにいる。お礼くらい言いなさいな。
「お邪魔します……わぁっ……!」
中へ入ると更に驚いた。玄関ホールの上にはシャンデリアが飾られてあり、しかもかなりの広さを誇っている。ここのホールだけで家の実家は収まるなってくらいに。
スリッパに履き替えて中を歩くと、ふかふかの絨毯で埋め尽くされた廊下は、歩いてるだけで足裏が心地いいという新感覚だ。
「素敵なお屋敷ですね。何年も人が住んでなかったとは思えないくらい、綺麗ですし」
「ありがとう。手伝いの人達がいつも綺麗に管理してくれていたので、ここまで保てたんだと思います」
「ここ売っちゃうなんて、勿体なくないですか? まだ問題なく住めるのに……」
立派で見た目も恥じないお家なんだから、問題ないと思うけど……
「見た目には綺麗なんですが、家自体は古いので、住むには少し心配ですね……。祖父が家を出た時のままの設備ですから、暖房器具が暖炉しかなくて、エアコンも着いてないんですよ。私もこの家は気に入っているんだけれど……」
真琴さんは残念そうに言っていた。確かにお爺さんの、しかもそのご両親の時代から建っていたんだから心配と言えば心配だ。基礎もレンガだし……
長い廊下を真っ直ぐ歩いて行く。途中いくつもの扉を通り過ぎ、空いてる壁にはお皿や絵画が飾られていて画廊と化していた。一体どれだけのお金持ちだったのか……。
やがて案内された一際大きな部屋で、何人かの女性が居た。と言っても二人以外はお手伝いさんらしく、お茶を淹れたりキッチンへいたりせっせと動いている。その中で二人の女性だけが椅子に腰かけ、やはり真琴さんのように優美にお茶を飲んでいた。
「どうぞ、こちらへ。お姉さん、詩織、こちらがお話していた柴田さんと燈さんです」
「は、初めまして……」
こちらに背を向けて座っている二人に、緊張しながら挨拶をする。だってこれが噂の、遺産争いをしている二人なんでしょ? 怖そうだし……。
「さぁこちらにお掛けになって」
真琴さんに案内されて、二人と向かい合う位置に腰掛ける。二人とも座ってから話そうと思っていたのか、それともさっきはあえて無視していたのか分からないけど、私達が腰かけてから……いや、正確に言えば捺を見てから仏頂面をすぐさま笑顔に変え、にっこりと人の良い笑顔を浮かべる。
「初めまして、日野家長女の由香と申します。こちらは三女の詩織ですわ」
「初めまして、姉さんから本日いらっしゃると伺っておりまして、楽しみにしておりました。……柴田さんと仰いましたね。失礼ですが下のお名前は?」
「捺と言います」
「捺さん……素敵なお名前だわ。お歳はいくつですの?」
「今年で二十歳になります」
「まぁ……成人なさっているのね。素敵なお顔立ち、モデルとかで活動しているのですか?」
「いいえ、まったく」
「素晴らしいお顔ですのに……勿体ないわ。学生さんですの?」
「大学生です」
捺はどの質問にも一答だけで通していく、っていうかこの二人の質問攻め凄いわ……。二人とも対照的な雰囲気なのに、好みは一緒なのかな。ていうか、いずれにしても捺を好みにするとか趣味悪いですよ。そりゃ確かに顔だけは良いけど。
お姉さんの由香さんは、おっとりした雰囲気の女性だ。低い身長とフリルの付いたドレスのようなワンピースを着ている為、人形のように見える。真琴さんより年上だけど、妹と言っても違和感ない程に若い。いや、若作りかな……?
対して三女の詩織さんはキリっとした、ビジネスウーマンと言った雰囲気だ。着ている服もこの三人の中で唯一パンツだし、スキニータイプだから更にシャープに見える。身長も私と同じ位あるから、詩織さんの場合は長女と言っても違和感ない感じだ。
ただ三人に共通して言えることは、その体のオーラと言ったところだろうか。この家に遜色ない物を持っている。この家と合わせて考えたら、由香さんはお姫様、真琴さんはお嬢様、詩織さんは当主って感じ。でも一番性格良さそうなのは真琴さんだな、うん。
「……それで、あの写真が撮れた場所へ案内願えますか?」
捺はいつまでも続く質問に嫌気がさした様子で言った。確かにあの後も、ずっと二人から家の事とか探りが入ってたもんなー……仕事で来てるから割合ソフトな言い方だったけど、お店に押しかけて来た人ならシカトしてたと思う。
「あ、はい。こちらです」
席を立った真琴さんの後に着いて行く。ていうか気が付いたら面食い姉妹もついて来てるし……移動の最中も捺は色々と話しかけられて迷惑そうだった。
一旦リビングまで来た道を戻り、再び玄関から今度は逆方向へと向かっていく。やはりこっちも画廊の如く、両側の壁には絵画や彫刻品が並んでいる。これ全部置いたまま家を離れたのかな? 価値は分からないけど、よく泥棒が入らなかったな。
「典型的な洋風造りの家だな……」
もはや後ろの二人の話を無視しだしていた捺が呟いた。
「どういうこと?」
「完璧にシンメトリーの家だと言う事だ。外側からの構造を見ていても思っていたが、中も扉の位置も完璧に左右対称だ。恐らく写真が撮られた部屋は、さっきのリビングの位置になるだろうな」
そうだったかな。でも確かに、日本の美は左右非対称だけど、外国は左右対称が美だって何かで見た事がある。でも中まで左右対称って、住みにくくないのかな……。
「流石ですわ、ほんの少し屋敷内を見ただけですのに、もうそこまでお分かりになっていて」
「本当、ここまで若くて優秀だととても頼りがいがありますね」
「………」
二人の褒め言葉も完全無視、この二人もよくめげずに話しかけられるな……関心するわ。
やがて捺の言った通り、さっき通った廊下と対象の道を進んでいくと、同じように一番奥に開けた部屋がある。部屋はやはり高そうなソファと暖炉が置いてある造りで、それらには見覚えがある。あの写真に写っていた物と同じ模様をしている、写真よりも高級そうに見えるのは日に照らされて光沢が出ているからだろうか。
部屋は表側、つまり南側に大きな窓が配置されていて、そこから緑の光を取り込んでいる。因みにこの部屋は西側で、さっきのリビングが東側だ。
部屋の更に西側には、写真で見た細い通路がある。此処に影が映っていたのか。
「すみませんが、写真と同じ位置に座ってもらえますか?」
「あ、はい」
捺の指示で、写真と同じようにソファの隣に膝をついて座った。車椅子だったお爺さんと視線を合わせる為に、そうしたんだろう。そうなると、テーブルの上にカメラを置いたということになるかな。
「もう一度確認しますが、その写真を撮っていた時、誰かいたり気配がしたりは無かったんですね?」
「はい……ずっと鍵も閉めておりましたし、その写真を撮った後に私この倉庫に行きましたけど、誰もいませんでした」
真琴さんは確信を持った声で言った。見に行く勇気がある真琴さんも凄いけど、確かにそうなるとこの影の主は何処に消えたんだろう……。それに最初の話の通り窓が無ければ、特別な装置とかが無いと廊下に流れ出るまでの影は出来ないだろうし。
捺は何も言わずに奥にある細い通路へと向かおうとした。その時
「行かない方が良いですわ。そこには霊が居ます、強力な」
突然強い口調になった由香さんが言った。さっきまでの雰囲気とは違い、目はきりっと吊り上がっている。
今日はゴールデンウィーク初日、朝早くに迎えに来てもらったのに、もう高速道路は帰省ラッシュで渋滞していた。ここまでになってきたら下道の方が早いんじゃないかとも思うけど……それはそれで秋田までは長い道のりとなる。
「ニ十キロ先で事故があった模様です。お二人ともご気分は大丈夫でしょうか?」
運転手さんが時折私達を気遣ってくれる。日野さんを迎えに来ていたのと同じ、女性のドライバーさんだった。間近で見ると整った顔立ちときりっと上がった目がカッコいい、だけど口調は丁寧で優しい感じで良い雰囲気の人だった。
「はい、大丈夫です。蒔田さんは大丈夫ですか?」
蒔田さんとは運転手さんの名字だ。私達を迎えに来た際、名刺まで渡して丁寧にご挨拶してくれたのだ。
「お気遣いありがとうございます。お飲み物等準備はしておりますので、いつでもお申し付けください」
彼女はあくまでも丁寧に返答をして、再び無言になった。捺はさっきからずっと本を読んでいて、話しかけても返事をしてくれない。私は本持ってきてないし、スマホも充電が無くなるから使えないし……する事もなく、ただぼーっと遠くにある山を眺めていた。
空は雲一つなく、鳥が自由に飛び交っている。あーあ、この道も早くあんな風にすいすい通れるようになればいいのに……。心の中で呟きながら、温かな日差しを浴びて次第に瞼が重たくなっていった。
濡れた地面の香りと草の匂いがする。この匂い好きだな……自然の中にいるって感じで。なんだか体がふわふわ浮いている感じで、凄く心地いい。だけど揺れが大きくなってきたな……蒔田さんの運転は丁寧で振動なんて無かったのに、どうしたんだろう?
不思議に思いつつも、そのまま体を預けていたところ、突然揺れが収まって再び止まっているかのような運転になった。砂利道から舗装された道に出たのかな。それにしても、瞼が重たいなぁ……
心地よさに再び意識が持って行かれそうになった時。
「いでっ」
突然額を叩かれて目が覚める。
「いつまで寝てる気だ。もう着いた、降りる準備しろ」
捺はいつも通りに、冷たく言い放つ。これだけ長距離だったんだから、寝たって良いじゃない……
口を尖らせながら車を降りる。外は数刻前まで雨が降っていたらしく地面が濡れていた。濡れた土の香りが鼻をつく、夢の中と同じ香りだった。
「うわぁ……想像してたよりずっと凄い……」
目の前には大豪邸との言葉が相応しい建物が建っていた。敷地面積はどれくらいか分からないくらいだし、建物は古いけどよく手入れがされているようだった。基礎部分にはレンガが使われているけど、それもまた合っている。
ただ真琴さんの言う通り、しばらく住んでいなかったようだから、庭に花とかは無い。雑草が伸び放題で、家にも蔦が這っている。周りも鬱蒼とした木々に囲まれているから、森の中に突然これが現れたらちょっと怖い。
「遠くまでありがとうございます、燈さん、柴田さん。どうぞ中へお入りください」
大きな玄関扉を開け、中から真琴さんが出て来た。お嬢様っていう雰囲気があるから、お屋敷とのイメージも合っている。
「お荷物は私がお部屋までお運び致します」
蒔田さんがお辞儀をして言ってくれたので、お礼を言って真琴さんの元へと向かった。隣で捺は一切喋らずにいる。お礼くらい言いなさいな。
「お邪魔します……わぁっ……!」
中へ入ると更に驚いた。玄関ホールの上にはシャンデリアが飾られてあり、しかもかなりの広さを誇っている。ここのホールだけで家の実家は収まるなってくらいに。
スリッパに履き替えて中を歩くと、ふかふかの絨毯で埋め尽くされた廊下は、歩いてるだけで足裏が心地いいという新感覚だ。
「素敵なお屋敷ですね。何年も人が住んでなかったとは思えないくらい、綺麗ですし」
「ありがとう。手伝いの人達がいつも綺麗に管理してくれていたので、ここまで保てたんだと思います」
「ここ売っちゃうなんて、勿体なくないですか? まだ問題なく住めるのに……」
立派で見た目も恥じないお家なんだから、問題ないと思うけど……
「見た目には綺麗なんですが、家自体は古いので、住むには少し心配ですね……。祖父が家を出た時のままの設備ですから、暖房器具が暖炉しかなくて、エアコンも着いてないんですよ。私もこの家は気に入っているんだけれど……」
真琴さんは残念そうに言っていた。確かにお爺さんの、しかもそのご両親の時代から建っていたんだから心配と言えば心配だ。基礎もレンガだし……
長い廊下を真っ直ぐ歩いて行く。途中いくつもの扉を通り過ぎ、空いてる壁にはお皿や絵画が飾られていて画廊と化していた。一体どれだけのお金持ちだったのか……。
やがて案内された一際大きな部屋で、何人かの女性が居た。と言っても二人以外はお手伝いさんらしく、お茶を淹れたりキッチンへいたりせっせと動いている。その中で二人の女性だけが椅子に腰かけ、やはり真琴さんのように優美にお茶を飲んでいた。
「どうぞ、こちらへ。お姉さん、詩織、こちらがお話していた柴田さんと燈さんです」
「は、初めまして……」
こちらに背を向けて座っている二人に、緊張しながら挨拶をする。だってこれが噂の、遺産争いをしている二人なんでしょ? 怖そうだし……。
「さぁこちらにお掛けになって」
真琴さんに案内されて、二人と向かい合う位置に腰掛ける。二人とも座ってから話そうと思っていたのか、それともさっきはあえて無視していたのか分からないけど、私達が腰かけてから……いや、正確に言えば捺を見てから仏頂面をすぐさま笑顔に変え、にっこりと人の良い笑顔を浮かべる。
「初めまして、日野家長女の由香と申します。こちらは三女の詩織ですわ」
「初めまして、姉さんから本日いらっしゃると伺っておりまして、楽しみにしておりました。……柴田さんと仰いましたね。失礼ですが下のお名前は?」
「捺と言います」
「捺さん……素敵なお名前だわ。お歳はいくつですの?」
「今年で二十歳になります」
「まぁ……成人なさっているのね。素敵なお顔立ち、モデルとかで活動しているのですか?」
「いいえ、まったく」
「素晴らしいお顔ですのに……勿体ないわ。学生さんですの?」
「大学生です」
捺はどの質問にも一答だけで通していく、っていうかこの二人の質問攻め凄いわ……。二人とも対照的な雰囲気なのに、好みは一緒なのかな。ていうか、いずれにしても捺を好みにするとか趣味悪いですよ。そりゃ確かに顔だけは良いけど。
お姉さんの由香さんは、おっとりした雰囲気の女性だ。低い身長とフリルの付いたドレスのようなワンピースを着ている為、人形のように見える。真琴さんより年上だけど、妹と言っても違和感ない程に若い。いや、若作りかな……?
対して三女の詩織さんはキリっとした、ビジネスウーマンと言った雰囲気だ。着ている服もこの三人の中で唯一パンツだし、スキニータイプだから更にシャープに見える。身長も私と同じ位あるから、詩織さんの場合は長女と言っても違和感ない感じだ。
ただ三人に共通して言えることは、その体のオーラと言ったところだろうか。この家に遜色ない物を持っている。この家と合わせて考えたら、由香さんはお姫様、真琴さんはお嬢様、詩織さんは当主って感じ。でも一番性格良さそうなのは真琴さんだな、うん。
「……それで、あの写真が撮れた場所へ案内願えますか?」
捺はいつまでも続く質問に嫌気がさした様子で言った。確かにあの後も、ずっと二人から家の事とか探りが入ってたもんなー……仕事で来てるから割合ソフトな言い方だったけど、お店に押しかけて来た人ならシカトしてたと思う。
「あ、はい。こちらです」
席を立った真琴さんの後に着いて行く。ていうか気が付いたら面食い姉妹もついて来てるし……移動の最中も捺は色々と話しかけられて迷惑そうだった。
一旦リビングまで来た道を戻り、再び玄関から今度は逆方向へと向かっていく。やはりこっちも画廊の如く、両側の壁には絵画や彫刻品が並んでいる。これ全部置いたまま家を離れたのかな? 価値は分からないけど、よく泥棒が入らなかったな。
「典型的な洋風造りの家だな……」
もはや後ろの二人の話を無視しだしていた捺が呟いた。
「どういうこと?」
「完璧にシンメトリーの家だと言う事だ。外側からの構造を見ていても思っていたが、中も扉の位置も完璧に左右対称だ。恐らく写真が撮られた部屋は、さっきのリビングの位置になるだろうな」
そうだったかな。でも確かに、日本の美は左右非対称だけど、外国は左右対称が美だって何かで見た事がある。でも中まで左右対称って、住みにくくないのかな……。
「流石ですわ、ほんの少し屋敷内を見ただけですのに、もうそこまでお分かりになっていて」
「本当、ここまで若くて優秀だととても頼りがいがありますね」
「………」
二人の褒め言葉も完全無視、この二人もよくめげずに話しかけられるな……関心するわ。
やがて捺の言った通り、さっき通った廊下と対象の道を進んでいくと、同じように一番奥に開けた部屋がある。部屋はやはり高そうなソファと暖炉が置いてある造りで、それらには見覚えがある。あの写真に写っていた物と同じ模様をしている、写真よりも高級そうに見えるのは日に照らされて光沢が出ているからだろうか。
部屋は表側、つまり南側に大きな窓が配置されていて、そこから緑の光を取り込んでいる。因みにこの部屋は西側で、さっきのリビングが東側だ。
部屋の更に西側には、写真で見た細い通路がある。此処に影が映っていたのか。
「すみませんが、写真と同じ位置に座ってもらえますか?」
「あ、はい」
捺の指示で、写真と同じようにソファの隣に膝をついて座った。車椅子だったお爺さんと視線を合わせる為に、そうしたんだろう。そうなると、テーブルの上にカメラを置いたということになるかな。
「もう一度確認しますが、その写真を撮っていた時、誰かいたり気配がしたりは無かったんですね?」
「はい……ずっと鍵も閉めておりましたし、その写真を撮った後に私この倉庫に行きましたけど、誰もいませんでした」
真琴さんは確信を持った声で言った。見に行く勇気がある真琴さんも凄いけど、確かにそうなるとこの影の主は何処に消えたんだろう……。それに最初の話の通り窓が無ければ、特別な装置とかが無いと廊下に流れ出るまでの影は出来ないだろうし。
捺は何も言わずに奥にある細い通路へと向かおうとした。その時
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