幻妖写鑑定局

かめりここ

文字の大きさ
18 / 28
悪霊屋敷の謎

18

しおりを挟む
「……捺さんは信じないかもしれませんが、私には分かります。どうか私の言う事を信じてください。そこにはお爺様の命を奪った悪霊が居ます」
「……悪霊、ですか?」
 捺の問いかけに、由香さんは静かに頷いた。だけどその中で、不満そうな声をあげたのは詩織さんだ。
「悪霊なんて、馬鹿げてるわ。お爺様が死んだのだって肺がんだったからよ。ちゃんとした病名がある」
「愚かな知識の詩織には分からないでしょうけれど、お爺様がタバコを一切吸わないのに重度の肺がんでしたのよ? おまけに私達の両親も非喫煙者」
「出先とかでいくらでもタバコの煙に巻かれることはあるわ」
「けれどお爺様は特にタバコを嫌ってましたのよ。お客様だろうと、タバコを吸うと言った方は容赦なくお屋敷の外に出していたじゃない」
「喫煙も受動喫煙も、あくまで肺がん発祥リスクが上がるってだけよ。吸っていなくても肺がんになる人はいる、愚かな思い込みのお姉さまには分からないでしょうけど」
「……姉に立てつくなんて、詩織もとても立派になりましたわね」
 一気に二人の間にぴりぴりとした雰囲気が立ち込める。二人とも顔は笑っているけれど、お互いへの嫌悪感丸出しだ。目は笑ってない、怖い。
「まぁまぁ……お姉さまも詩織も、今は落ち着きましょう」
 間で取り持つ真琴さんが可哀想になってくる。この対照的な二人でも、プライドが高いって事は共通しているみたいだし。今までもずっと、衝突してきた二人の間で苦労してきたんだろうなぁ……。
 可哀想だけど……ちょっとこの空間に居るのは、庶民の私には無理だ。気が付いたら捺は倉庫に入っていたし、後を追ってこの場をそそくさと逃げ出した。
 通路の奥は行き止まりとなっていて、その手前に倉庫の部屋があった。ただ想像していたものとは大分違っている。中は全面棚が備え付けられていて、そこには飾り切らないであろう陶器や絵、彫刻、和人形が保管してあった。部屋は六畳くらいはあるだろうか、この部屋に我が実家の居間がすっぽり入ってしまうサイズだ。
「凄い数だね……森さんが言った通り、名家だね、これは」
「そのようだな。しかし、確かに窓はない。ライトの設備が無ければ説明が出来ないか」
 捺は入口から見て奥に位置する棚を見ているけれど、どれも骨董品と名の付くものはあるけれど、ライトなどの設備はない。さっきまでの部屋とは対照的で、この部屋の照明は裸電球一つの弱々しい光だ。
「この明かりじゃ、通路まで影を伸ばす程の力はないね」
 窓がない室内では、手元を見るのがやっとの光源しかない。昔ながらのオレンジ色の電球だ。窓が無いせいか、ここは気温が低くて少し寒い。
「あぁ……少し暗すぎる、後で持ってきた撮影用のライトを使って部屋を見てみる」
「あとは真琴さんに、その時使ったカメラを用意してもらわないとね」
 撮影に使った物を調べるのも、捺の鉄則だ。こないだのだって、結局はカメラの問題だったわけだし……私にはこの原理は分からないけど、影が映るって言うならこの前よりも簡単なんじゃないかって、何となく感じてる。
「少しは利口になったみたいだな」
「どういう意味よ」
「そのまんまだ」
 口の端をニヤリと持ち上げて、部屋を出て行き様に言う。さてはコイツ……さっき散々あの二人に迷惑してたから、腹いせに私に八つ当たりしてるな。
「……関係ない私に当たるとか……得手勝手な奴だ」
 ぼそっと部屋の中で言葉を吐いてから、捺の後を追って倉庫を後にした。
 戻った部屋では真琴さんが間に入った事で、一応は言い争いを終えたらしい二人がソファに腰掛けていた。お互いから目を背けて顔をぷいっと横に向けていたが、捺が戻って来た所を見ると笑顔を浮かべて尻尾を振って話しかけてくる。この二人、性格は真逆だけど、本質は似た者同士のようだ。
「捺さん、何か分かりまして?」
「部屋が暗いので、照明機器を持ってきて調査をします。真琴さん、あとで撮影時に使用したカメラを用意しておいてください」
「分かりました。ではその前に、お二人のお部屋が決まりましたのでご案内いたしますね」
「ありがとうございます」
 再び真琴さんの後を追って部屋を出た。廊下を玄関まで戻る道を進んでいる途中、角の手前で真琴さんは止まり、二つ並んだ部屋を指して言った。
「こちらが燈さんのお部屋で、こちらが柴田さんのお部屋になります。お荷物は運び入れてありますので、ご自由に使ってください」
 なんと……別々の部屋を提供してもらえるなんて、なんて幸せ! 豪邸だから部屋は沢山あると思っていたけど、長期間とかの予定じゃないし、同じ部屋にされるんだと思っていた。
 扉を開けると、中は何畳あるのか分からない程大きなワンルームだった。ベッドはダブルサイズ、金の装飾がされた天蓋まで付いてるし……捺の家もとっても豪華なお部屋だけど、それを凌ぐ超豪華なお部屋だ。これがホテルならスウィートルームと呼ばれて、VIPが泊まる超お高いお値段の部屋になるんだろな。
「わぁ……凄い、凄すぎます! こんな良いお部屋に泊まれるなんて、幸せです」
「好みに合って良かったわ。こっちにシャワールームが付いているから、自由に使ってくださいね」
 い、一部屋にシャワールームが付いてるなんて……我が実家は数年前まで銭湯に通っていたのですよ。お家でお風呂に入れるようになったのなんて、まだつい最近の事なのに……この家は真琴さんのお爺さんの時代で既に部屋にシャワーとな。
「本当、驚きが収まらない程の豪邸です……」
 部屋にだってやっぱりお高そうなお皿や壺が飾られている。絵もあるけど、これは風景画だから良かったけど……変な事が起こると言われてる家で人物画があったら怖くて眠れなくなるわ。
「そうかしら……柴田さんのお家も、結構なお家でしたよ」
「あ、多分それは大叔父が写真屋をやっているので、その撮影も兼ねてなんだと思いますよ。部屋の中も私からすれば結構凄いお部屋ですが、此処はもっとお高そう」
「ふふ、星さんからよくご実家のお話は伺っていました。とても大変だったとか……」
 そう、我が家は父が先代から引き継いだ借金を残したまま、心筋梗塞で他界してしまったのだ。残された母は家を売ったり持ち物を売ったりして何とか返済して、しかも私と姉を大学に行かせるまでのお金も貯めてくれた。実の母ながら、よく出来た人だと思う。
「はい、恥ずかしながらお高い世界に慣れていないもので……」
「けれど星さんも燈さんも明るい方で、最初はとてもそうは見えませんでしたよ。素晴らしいお母様のお蔭でしょうね」
「はい、そうだと思います」
 貧しい中でも、母は常に私と姉の願いを出来る限り叶えてくれた。近所にプラネタリウムが出来た時に見に行きたいと姉が言えば、川原で寝そべって本物の星を見上げながら解説をしてくれた。誕生日には市販の安いロールケーキをアレンジして、ドーム状のケーキに仕立ててくれたし、プレゼントも用意してくれた。生活が苦しくても、常に明るい母のお蔭で楽しく過ごしてこれた。だから母の事を褒めてくれるのは、素直に嬉しいんだ。
「あ、それから……何かあれば私達の部屋は東側にありますので、いつでも来てください。使用人達も泊まりで居ますので、そちらに声をかけてもらっても大丈夫ですので」
「何から何まですみません、ありがとうございます」
「いいえ、それでは私はカメラを探して来ます。多分持ってきていたと思うので……」
 真琴さんは丁寧にお辞儀をして、部屋を出て行った。時刻は午後五時を指していた。
「どうしようかな……もう陽も落ち始めて来たし、今日の調査はしないかな?」
悩んだ挙句、一先ず自分の荷物を確認して、足りない物が無い事を確かめてから捺の部屋に向かう事にした。勝手に部屋で休んでて怒られても嫌だし、それならちゃんと許可を取ってからのんびり休みたい。せっかくこんな良いお部屋に一人で泊まれるんだし。
廊下を出て、隣の部屋をノックしてから扉を開ける。他の部屋の扉にも私と同じくゲストルームとの表記があるから、多分西側は来客用のお部屋ばっかりなんだろうな。
「捺、入るよー」
 一応声を掛けてから扉を開ける……と、中では二人の人物が捺を囲むように座って喋り倒していた。由香さんと詩織さんだ、ていうかまだ居たんだ、この二人。
 ソファの両端から挟まれている捺は、今日一番の機嫌の悪い顔をしている。そんな捺に構う事なく、二人ともベッタリ寄り添っている。へっへっへ、良いザマだぜ。顔が良いっていうのも困りもんだろ、と心の中で悪い笑みを浮かべていた。
「捺、今日はどうするの? 明日から調査するの?」
 私の言葉に、すかさず由香さんが乗って来る。
「そうですわ。もう陽も暮れますし、調査は明日からに致しましょう。あと少しすればお夕食のお時間にもなりますし、それまで私のお部屋でお茶等はいかが?」
「この辺りは周りに何もないから、日が暮れると真っ暗になります。ですから、調査は明日からの方が良いと言うのは私も賛成です。ですがお姉さまのお話なんて今まで散々聞きましたし、この後は私の部屋で是非撮影の指導を願いたいわ。プロのカメラマンから学べる機会なんて、中々ないもの」
 両側からのひよこのように煩い声に、捺は優里の様に耳をシャットアウトして何も反応しない。ただ私の言った事は分かっていたようで、立ち上がると無言のままこちらに歩いてくる。
「燈、カメラは持ってきて貰ったのか?」
「あ……今取りに行ってもらってるよ」
「じゃあそれを調べつつ打ち合わせをする。お前の部屋で良いな」
 返事を待たずに捺は出て行き、それからすぐ隣の部屋を開ける音がした。慌てて後ろの二人にお辞儀をして、私も部屋へと戻った。
「ちょっと捺……挨拶くらいしてから出て行きなよ!」
 あんな場所に取り残された私の気にもなってよね! 二人とも私の事は何とも思ってない様子だから良いけど、いくらそうだからってあの二人と一緒に残されるのは怖いんだから。さっきだって霊とかの話になった時のあの二人、殺気立って掴み合いそうだったんだし。
「……迷惑だ。俺は彼女らのお守りをしにきたわけじゃあに、仕事で来たんだ」
 捺はそう言うと、ソファに座って、体を沈み込ませた。
「そりゃ、そうだけど……」
 せっかく私の一人部屋だったのにー……。真琴さんがカメラ持ってきてくれたら、さっさと部屋に帰って貰おう。
 そう思っていたのに、持ってきてくれたカメラを一通り確認して、目だった問題が無さそうと判断して真琴さんに返した後も私の部屋に居座っている。言われていた通り既に陽は沈む寸前で、廊下の窓からは強い西日が射しこんでいる。
「……ねぇ、部屋に戻りなよ。もうあの二人居ないと思うよ」
「……」
「ねぇ、捺……」
 こちらに背を向けてソファに寝転ぶ、まるでふて寝している子供に声を掛けるも返事なし。真琴さんが帰ってからずっとこの調子だ、ていうか結局打ち合わせなんてしてないじゃないの。結局これじゃ、いつもの家と変わらないじゃないか……今日は家事から解放された分、のんびり出来ると思ったのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

怪異の忘れ物

木全伸治
ホラー
千近くあったショートショートを下記の理由により、ツギクル、ノベルアップ+、カクヨムなどに分散させました。 さて、Webコンテンツより出版申請いただいた 「怪異の忘れ物」につきまして、 審議にお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。 ご返信が遅くなりましたことをお詫びいたします。 さて、御著につきまして編集部にて出版化を検討してまいりましたが、 出版化は難しいという結論に至りました。 私どもはこのような結論となりましたが、 当然、出版社により見解は異なります。 是非、他の出版社などに挑戦され、 「怪異の忘れ物」の出版化を 実現されることをお祈りしております。 以上ご連絡申し上げます。 アルファポリス編集部 というお返事をいただいたので、本作品は、一気に全削除はしませんが、ある程度別の投稿サイトに移行しました。 www.youtube.com/@sinzikimata 私、俺、どこかの誰かが体験する怪奇なお話。バットエンド多め。少し不思議な物語もあり。ショートショート集。 いつか、茶風林さんが、主催されていた「大人が楽しむ朗読会」の怪し会みたいに、自分の作品を声優さんに朗読してもらうのが夢。

【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ
ホラー
それは、あなたの『隣』にも潜んでいるのかもしれない。 日常風景が歪む瞬間、すぐそばに現れる異様な気配。 襖の隙間、スマートフォンの画面、アパートの天井裏、曰く付きの達磨…。 身近な場所を舞台にした怪異譚が、これから続々と語られていきます。 じわりと心を侵食する恐怖の記録、短編集『隣の怪異』。 今宵もまた、新たな怪異の扉が開かれる──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...