幻妖写鑑定局

かめりここ

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悪霊屋敷の謎

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「そっちは何もないか」
「うん」
 一時間経った所で、二人で室内のほとんどを調べきったと思う。それにしてもよくこんなに集めたなと思うほどの量だ。棚に隙間なく詰め込まれていて、高そうな桐箱に入った物なんかもいくつもあった。あとは一体何に使うんだろうと言うような物も……お金持ちの買い物って、分からないわ……
「昨日の由香さんが見たという時間になれば、何か分かるかもしれない。またその時間に調べるぞ」
「分かった」
 すっかり熱くなった照明を切ると、昼だと言うのに部屋は薄暗い。倉庫入口から漏れてくる光で辛うじて物を避けて歩ける程度だ。もっとちゃんとした照明つければいいのに……。
「お疲れ様です、柴田様、久保様。お茶の準備が出来ておりますので、こちらへ」
 倉庫の部屋を出た所で待機していたらしい使用人の女性が、ゆったりとした口調で言ってきた。十時のお茶か……優雅ですなぁ。
 案内してくれる女性の後ろを着いて行きながら捺が尋ねる。
「ありがとうございます。その場には三人とも揃っていますか?」
「はい。由香様、真琴様、詩織様がお揃いです」
「分かりました」
 そのままついた部屋は、丁度私達が居た部屋と間反対の場所。つまり初めに来た時由香さん達が居た部屋だった。既に三人にはお茶が出ていて、追加で私達の分も準備してくれているらしく、使用人の人が部屋の奥にあるキッチンへと向かった。此処に在るキッチンは本格的なものではなく、お湯を沸かしてお茶を淹れるという最低限の物らしい。しかも食器を入れておく部屋もあるらしい。ウォークイン食器棚って事だろうか。
「お仕事ご苦労様です。どうぞゆっくりなさってください」
 真琴さんが中央に盛られたお菓子を勧めながら言ってくれる。クッキーにパウンドケーキ、ブラウニー、ガレット・ブルトン……こんな高価なおやつが沢山……これは幸せだ。
 席に着いた所で、すぐに紅茶が運ばれてきた。茶葉の良い香りがする。ティーバッグ「とは大違いの、豊かで濃い香りだ。一口飲むと更に香りが強く、鼻に抜けていく。紅茶ってこんなに美味しいのがあるんだ……驚き。
「捺さん、何か分かりました?」
 詩織さんが期待した様子で聞いてくる。詩織さんは霊が居ないって言ってた人だから、物理的に早く説明つけて欲しいって事なんだろうな。
「はい、分かりました」
「流石です、お聞かせください」
「影の方はまだハッキリとは申し上げられませんが、昨晩の鏡や視線でしたら、やはり勘違いでしょう」
 捺の言葉に、由香さんは納得いかなそうに反論する。
「私はハッキリ見ましたのよ。それに視線もちゃんと感じました。夢だって変だったのよ」
「そんな事言って……お姉さま、嘘を吐いているんじゃないの?」
 詩織さんは疑いの眼差しを由香さんに向けた。由香さんは違うと言いきって、詩織さんを睨んでいる。
「だけど捺、私も変だと思うよ。だって由香さん、白い顔の女の人で、大体の年齢も分かってたじゃん」
「だからそれがおかしいんだ。視界の隅に写った物から、そこまでの情報が得られると思えません。貴方はソレが存在すると分かったらすぐに視線を外したと言っていましたね。なのにどうして相好の判別がついたのでしょうか。それに貴女は風呂上り、コンタクトレンズを外していた。ぼやけている視界でそこまでの事が分かると思えません」
 そうか、確かに捺の言う通りだ。あの時視線を上げて、隅に顔が見えたからすぐに目を伏せて真琴さんを呼んだと言っていた。だからハッキリ見えたとは言ってたけど、真正面に向かって見たってわけではないんだ。
 捺の言葉にすかさず勝ち誇った様子の詩織さんが入って来る。
「ほら、やっぱりお姉さまの嘘だと捺さんも言っているじゃない。いつまでも嘘を続けていないで、素直に認めたらどう?」
「だけど、私は本当に……! 今回は本当なんです!」
 由香さんは必死の表情で訴える。その言葉を聞いた捺が、何か確信した様子で言う。
「やはり、今までは嘘だったんですね。影を見たのは本当で、そこから色々と見えたと」
「……子供の頃から霊が見えると言うのは、注目を浴びたかった私の嘘でしたわ。だけど今回は本当に見えましたの! 信じてください」
「今まで嘘を言っていたお姉さまが、今更何を言ったって信用に値しないわ。写真だって、加工か何かしたのよきっと。ねぇ、捺さん?」
 過去の嘘をばらされた由香さんを、ここぞとばかりに攻撃する詩織さん。捺に同情を求めて、それで止めを挿す気なのか性格の悪い笑みを作っている。しかし捺から出た言葉は、それを見事に裏切るものだった。
「いいえ、加工はされていないようでした。恐らく何らかの現象で影は出来るのでしょう。それを見てしまった由香さんは、初めて霊の恐怖を味わった。だからそれまで気にならなかった物にも敏感に反応したのでしょう。鏡の後ろには人物画がありました。それが鏡に映ったのだと思います」
「……でも、私本当に彼女の顔を見ましたのよ? はっきりと」
「人間の脳は都合の良いように置き換えるものです。視界の端でしか見てなくても、自分の良いように修正をしてしまいます。白い物としか分からなかったそれに、自分の想像で色を付け表情をつけ、作り上げてしまいます。視線は思い込み、夢は恐怖心から来たものだと考えられます」
「っ……」
「お姉さま?」
 由香さんは黙り込んでしまった。それを気遣って真琴さんが肩に手を添えるも、振り払って走って行ってしまう。その様子を見た詩織さんは、愉快そうに笑った。
「自業自得ですわ。嘘を吐き続けたから皆の前で恥をかくなんて。きっと恥ずかしくてたまらないんでしょうね」
「詩織、そんな言い方いけません。……すみません、私お姉さまを見てきますね」
 真琴さんは詩織さんの後を追って、部屋から出て行った。後に残った詩織さんは、誰に言うでもなくぼそっと呟いた。
「真琴お姉さまは、まだ良い子ぶっているのね……」
 一瞬真琴さんの背中を寂しそうに見たあと、すぐこちらに視線を向けた。こちらと言うのは適正表現ではないかな、捺に視線を向けたが正しい。私がいる事もお構いなしに、捺に媚び諂うような、色気ある目で見つめてくる。
「それにしても流石ですわ。一日と経たずに解決してしまうんですから」
「常識の範疇の問題です。何も凄い事はありません」
「そんな謙遜しないで。そうだわ、問題は解決した事ですし、私にカメラの指導を……」
 詩織さんはさりげなく席を立ち、捺の隣に座ろうとしたようだ。しかしその前に捺が立ち上がって、続きを聞かずに早口で答えた。
「まだ影の問題は解決していませんので。引き続き調査をします。では」
 言い切る前に私の腕を掴むと、そのまま無理やり引っ張りながら歩いて行った。
「ちょ、捺! 痛いって……」
 強く掴まれた右手を放させようとするけど、早歩きの捺に引っ張られながら解くのは難しい。結局引っ張られたまま私の部屋に戻り、そこでやっと解放してくれた。
「もお、なんで私まで連れて……」
 すっかり赤くなった手首を擦りながら言った。握られていた所がじんじんと痛む。うぐぅ……。
それに色々なお菓子食べたかったのに、結局クッキーとブラウニーしか食べられなかったんだからね。
「仕事だからに決まってる。遊びに来たんじゃないって、分かってるか?」
「分かってますよ! だけど、ならどうして捺はそうやって寝転んでるのさ。仕事するなら仕事すれば良いじゃん」
「昨日由香さんが影を見た時間まで待つ。仕事はそれからだ」
「……はぁ、自分勝手すぎ。それなら私だけ、お茶飲んでても問題なかったじゃん。まだガレットもパウンドケーキも食べて無かったのに」
「それ以上まだ豚になりたいのか?」
 捺が皮肉たっぷりの顔で言う。……本気でムカつくな、今の捺。
 顔をぷいっと横に向けて、朝のまま布団がめくれているベッドに横になった。
「寝ると牛にもなるぞ」
「うるさい。てか出てって」
 布団を被って言うも、捺は知らぬ存ぜぬと言った様子で部屋に居座る。むー……なんで部屋に帰らないのさ。何か部屋に戻って困る事でもあるの?
 昨日の夜私の部屋で寝たって言うのも、夜だったからの話でしょ。昼間なんだし相手にしてあげても良いじゃん。詩織さんが押し掛けてきて、帰らなくってもいつも通り無視してれば……あ、そうか。
「捺、詩織さんの事苦手なんだ?」
「……だから何だ」
 おっと、図星のようだ。確かに詩織さんの攻め方ってえげつない感じだもんなー……
「しょうがないなぁ、君に同情して、私の部屋に居座る事を許可してあげよう」
「そんな物求めた覚えはないがな」
「ふーん?  そんな事言って良いのかな? 部屋に置いてもらうんだから、少しは感謝を言動で表して欲しい物だけどねぇ?」
「ほう?」
 ニヤニヤとしながら続ける。こっちは相部屋を我慢してやるんだから、いつもの事を少しは改めて貰わないとねー。
「して、その感謝の言葉と言うのは一体どんな物なんだ?」
「そりゃ勿論、お疲れ様とか、お茶を準備しようかとか、敬う行動をだね……」
「なら、それを是非とも家で実践してもらいたいね。俺の家に住まわせてやってるんだから、な?」
「むっ……!」
 形勢逆転、今や腹黒い笑みを浮かべているのは捺の方だ。こいつめ……人の弱みに付け込みやがって……。
「代わりに家事してるでしょ!」
「お粗末な程度にな」
「お店だって手伝ってるし!」
「カウンターに座ってるだけで仕事にしてやってるんだから、感謝する事だな」
 ムカムカーっ! もうあったま来た! 確かに私は住まわせて貰ってる身で、撮影は出来ないし家事もそこそこだけど。でも全く払ってないわけじゃないもん! 食費は払ってるもん! ……一ごにょ円。
「お、何も言い返せないか?」
 ベッドの上で頬を膨らませている私を見て、捺はにやにやして言った。本当、良い性格してるわ……憎まれっ子世に憚るって言うし、長生きするだろうなこいつ。
 悔しさから布団を被り、目を閉じて何も考えないようにした。こんな事になると分かってたら、本とか宿題とか持ってきてたのに。いや、っていうかそもそも、空き時間はのんびりお茶飲んだりお散歩したりして旅行気分を味わうつもりだったのに。部屋に一人なら出来るけど、捺が出て行ってくれない限り一言余計なこと言うし……
 頭が破裂しそうに熱くなっているのを何とか冷やしつつ、そのままいつの間にか睡魔に襲われて眠ってしまった。
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