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悪霊屋敷の謎
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「え、詩織さんが……?」
「はい、何処にもおりませんでして……。荷物は置いてあるのですが……」
今朝は更に驚く事態が起こっていた。朝食の時間になっても起きてこない詩織さんの部屋を使用人さんが訪れると、中に詩織さんの姿は無かったと言う。真琴さんの時と同じように荷物は放置されたままだった。
室内をバタバタと何人もの人が探し回っている。そりゃそうか、由香さんは帰ってしまい、真琴さんと詩織さんは行方不明になったのだから、今この屋敷には使用人さんと私達しかいないんだもの。
「まさか、詩織さんも真琴さんと同じように……? やっぱりここの屋敷って、神隠しがあるんでしょうか……」
「大旦那様から、私も伺ったことはございますが……まさか、お二人とも……」
使用人さんと最悪の事態を想定して、顔を青ざめさせた。確証はないけど、実際にお爺さんの記憶が正しければ、此処で女の子が消えているんだ。
久しぶりに人が立ち入ったと思えば、昨日、今日と連続で消えている。このままいったら、明日も……?
「いや、それはないと僕は思うよ」
私と使用人さんの考えに一石投じたのは雅紀さんだった。その後ろから、何処かに行っていた捺も戻ってきて言った。
「俺もその考えには同感だ。詩織さんの部屋にスマホや財布といった、最低限の物はなくなっていた。急ぎで必要な物だけ持って出て行ったって感じだった」
捺は平然と言ってのけたけど、つまりそれは人の部屋を普通に漁ったと言う事よね? 凄いね、貴方。
捺の言葉を聞いて、雅紀さんもやっぱりと言った様子で言う。
「やはり彼女は、何かあってここを立ち去らなければならなかったんだと思う。表の車が一台減ってるから。確か昨日は五台あったけど、窓から見たら今朝は四台になってたから」
「あぁ……言われてみれば確かに、一台少なくなっております」
使用人さんは今気が付いた様子で言った。ていうか昨日五台あったっけ? そんなとこまで見てないしなぁ。
「それに……使用人さんたちは皆黒いパンプスで統一されているから分かりやすかったのだけど、この靴箱に残っている他の靴は四つしかない。内二つは男物で、もう一つは燈ちゃんのだ。そうすると残りは一足。使用人さんの靴の数は昨日から変わって無くて、所有者不明の靴の一つが消えていた、そして車が一台無くなってた。だから詩織さんは、自分で運転して帰ったか、あるいは第三者の運転に乗って行ったって事になると思う」
「確かに! 凄いですね、よくそんな所まで見てますね」
雅紀さんもやっぱり頭良いんだな、そうだよね研究者だもの。ぱちぱちと拍手をしていると、隣から捺がつまらなそうな声をあげた。
「……とにかく、詩織さんには連絡が取れるはずです。連絡はしたんですか?」
「いえ……真琴様の時のように、電話は置いていったと思っていましたので……すぐに連絡いたします」
使用人さんは急いでエプロンのポケットから自身のスマホを取り出して電話をかけ始めた。この家に固定の電話はない、家を出るときに電話線も外してしまったらしい。だから連絡は、各々のスマホで行っていたようだ。
「……あっ、お嬢様! ご無事ですか?」
彼女が心配そうにスマホを耳に当ててると、直に電話口の人物に問いかけた。どうやら彼女は、一先ず連絡が取れる状況にはあったらしい。彼女もほっと一息ついた。
その後いくらか会話を交わして、使用人さんが捺にスマホを差し出す。
「お嬢様が、柴田様にお話ししたい事があるそうです。どうぞ」
捺は無言でそれを受け取って、彼女と少し話してから耳から外した。それから電話をスピーカーモードにして、私達の声も聞こえるようにして話を続けた。
「詩織さん、大丈夫ですか?」
『えぇ……ごめんなさい、急に居無くなってしまって……』
彼女はとても疲れた声で答えた。姿は見えなくても、精神的に参ってる感じは分かる。
「何があったんですか?」
捺の言葉に、彼女はぽつりぽつりと語り始めた。
『……声が聞こえたの。寝ていたら夜中に突然、助けてって。気のせいだと思って寝ようとしたわ、だけどそれが段々と真琴お姉さまの声に聞こえてきて』
「真琴さんの声で?」
意外だった。詩織さんはそう言った事はあり得ないって言ってる人だったし。でも、そう思ってる人が声を聞いたとなると、妙に信憑性があるんだけど。
『お姉さまだったら勿論急いで助けに行かなくちゃって思ったのだけど、よく聞くとそれは隣の部屋から聞こえて来たの。私の部屋の隣は使っていないお風呂があるから、その中からだったの。……でも、見に行ったけど誰もいなくて……。それで部屋に戻って布団に入っていたら、今度は部屋の中を誰かが歩くような音が聞こえてきて、部屋の中を見たら……壁に顔のような物が見えて……それで怖くなって、パニックになったまま誰にも言わず逃げてしまったの』
そうだったんだ……。だけど、霊なんか信じない詩織さんがそういう体験をしたって事は、やっぱりここには何かいるんだろうか? 聞き慣れた真琴さんの声を間違えるとも思えないし、昨晩は無風だったから風音が声に聞こえたってわけでもないと思う。
『ごめんなさい……結局真琴お姉さまを置いて逃げ出して、私も由香お姉さまと同じようなものよね……』
「そんな事ありません、落ち着いてください。一先ず真琴さんの捜索は続けますが、詩織さんは一旦ご自宅に戻って休まれた方が良いでしょう。声や顔と言った物を調べたいので、部屋を調べる許可が欲しいのですが」
『はい、大丈夫です……お願いいたします……』
詩織さんは弱々しい声で言った。てか、今更許可とったって、さっき散々部屋見て来たんでしょ捺ってば。
その後使用人さんにスマホを返して、再び少し話してから電話を切った。どうやら今後の指示を仰いだらしい。詩織さんは、真琴さんの捜索をしつつ私達に協力するようにと言ってくれたらしく、このまま此処に居てくれるそうだ。
「一先ず詩織様のご無事が分かり、私どもも安心いたしました。……しかし、真琴様は一体どこに行かれてしまったのでしょうか……」
使用人さんは再び不安な表情を浮かべて言った。
「恐らく靴はあるので、外には出ていないと思いますよ。誰かが運び出して無ければですが。室内で他に探していない所とかはありませんか?」
「知っている範囲では、全て探したのですが……」
「私達も、全部の部屋を回ったよ」
一時間かけて、約十人が総出で探したんだ。かくれんぼなら確実に見つかっている。
「一先ず、詩織さんの部屋に行こう。真琴さんの声というのも関係があるかもしれない」
「うん、そうだね」
使用人さんは詩織さんが見つかった事を他の人に伝えにいき、私達は詩織さんの部屋へと向かった。詩織さんの部屋は真琴さんの部屋の角を曲がった、更に奥にあった。すぐ隣にも扉がある、此処が使ってないというお風呂だろう。
部屋の中は他とは全く雰囲気の異なる部屋だった。カントリー調で統一されていて、壁も天井も敢て木の板が見えるようになっている。壁紙とかは無い。ベッドも天蓋がない普通の物だし、ソファもテーブルも一般家庭にもありそうなもの。明らかに私達の部屋の方が良さそうなのに……意外にも詩織さん、素朴な方が好みなのかな。
ベッド脇にはスーツケースが半分開いたまま放置されていて、パソコンや化粧道具も置きっぱなし。布団もベッド下に落下したままだった。
「ねぇ、捺がこの部屋に一人で来た時は、何か感じなかったの?」
「生憎、俺は霊感とやらは持ち合せていない」
「そうじゃなくって。声とか顔とか、音とか……」
「声は何とも言えないが、足音というのはただの家鳴りだろうな。恐らく最初に起こった真琴さんの声で神経が過敏になり、いつもは気にならない音が気になったってとこだろう」
捺の言葉に、なるほどと雅紀さんも続いた。
「そうなると、顔も勘違いである可能性が高いね。しかも此処の壁は木目が見える、プレグナンツの法則が成り立ちやすい環境だ」
プレグナンツの法則……確か前に捺がした心霊写真の説明の時に聞いた。点や線が不規則に並んでいると、無意識にそこから集合体を導き出そうとして、それが顔に見えるってやつだ。天井のシミをずっと見ていたら顔に見えてくる現象がそうだと言ってた。って事は、まさしく詩織さんはプレグナンツの法則で顔に見えていたって事だ。
「……その通りです」
捺が渋々と言った感じで、雅紀さんの推理を認めた。ていうか素直になりなさいよ! 雅紀さんだって協力してくれてるんだからさ。
「だけど、そうすると一番最初の声って言うのは説明がつかなくない? だってその法則で言ったら、声は本物だって事になるでしょ?」
「うん、そうなるね。そこが大きな問題だ……」
詩織さんはお風呂の方から聞こえて来たって言っていた。だけど使われていない所で、真琴さんはいなかった。となると、お風呂よりも奥からって事だろうか。
「何にしても、隣は見ておいた方が良いだろうね」
雅紀さんの言葉に私も捺も頷き、一旦部屋を出て隣の浴室に入る。ドアを開けた所から覗くと、脱衣所の奥の浴室へ繋がる扉は開きっぱなしになっている。浴槽がかなり大きくて、洗い場も三つもついてる。ちょっとした銭湯のレベルだ。
ただ使ってないと言うだけあって、埃や蜘蛛の巣が此処も好き放題に張り巡らされていた。でも掃除さえすれば、タイルは割れたりしてないし十分気持ちよく使えそう。
「かなり汚いけど……でも、隠れる場所とかは無さそうですね」
「あぁ……それに、暫く人が立ち入った形跡もない。埃が積もったまま、足跡もないからな。廊下から見るだけで十分見渡せるから、詳しくは見なかったんだろう」
そう言って捺は、蜘蛛の巣を掻き分けながらズカズカと入って行く。えっ入るの? 躊躇していた私の隣を通り、平然と雅紀さんも入って行く。うぐ……服汚れたり、髪が汚れるの嫌だけど……えぇい、仕方ない! 仕事だ!
なんとか蜘蛛の巣がない所をくぐって、二人の後を追って浴室内へと入った。でも結局二つくらいの巣に引っ掛かったけど……。
「うーん……やっぱり入った形跡も無さそうだ。この小窓から声がしたのかとも考えたけど……鍵が閉まったまま蜘蛛の巣が張ってるし、やはり暫く人の手が触れていない事は確かだね」
「それに、真琴さんが何故わざわざそんな事をするのかも疑問だ。やはりどこかに閉じ込められていて、そこから助けを求めているというのが無難な考えた」
「どこかって言ったって……もう探しつくしたくらいだよ、この家の中」
「じゃあ、誰も知らない部屋とか」
雅紀さんが手を叩きながら閃いた感じに言ったけど……
「忍者屋敷じゃないんだから……壁の向こうに部屋があるとか、掛け軸の後ろに部屋がるって事ですか?」
「いやいや、忘れられた部屋もそうなるよ。だって此処に実際に住んでいた人間は、今この場には居ないんだろう? 昔はちゃんと機能していたけど、入り口が見当たらなくなったってだけでまだ探していない部屋があるかもしれない」
「その可能性はありえますね。昔、冷蔵庫が無い時代の保存は地下で行っていましたし」
捺が珍しく……いや、やっと雅紀さんの事を認めたようで、素直に話に乗った。でもそんな事ってあるのかな……ていうか、地下の入り口ってどんな所にあるんだろ?
「まぁ一般的にはキッチンとかだろうな。一回見せて貰うか……」
そう言って出て行った捺に続き、私も出て行こうとした時だ。壁に何か穴を埋めたような跡があるのを見つけた。タイル張りの壁が丸く切り取られていて、以前は何か管のような物が通っていたようだ。
なんだろう……? 触ってみるも、石膏で綺麗に固められてから暫く経っているようだった。
「え……?」
疑問に思ってそこをなぞっていたら、僅かにそこから音が聞こえたような気がした。本当に微かに。もしかしたら聞き間違いかもしれないと思ったほどだ。もしかして、詩織さんが聞いたのって……これかな。私の耳にはハッキリとは聞き取れないけど、何となく壁から声が聞こえたような気がした。
「何してる」
もうとっくに行ってしまったと思っていた捺が、廊下から早くしろと言った様子で顔を覗かせた。後ろから雅紀さんも不思議そうに私を見ている。
「捺、今声が……」
「本当か?」
「うん、ここから……」
二人とも急ぎで中に戻ってきて、壁叩いたり触ったりして調べている。
『……ぅ……』
僅かに、誰かの小さな声が聞こえた。微かに聞き取れる程度だ。やはり壁の中から聞こえる。
「真琴さん、何処に居ますか? 無事ですか?」
『……ち、か……』
「地下? 地下に居るんですか?」
『………』
「真琴さん!」
「はい、何処にもおりませんでして……。荷物は置いてあるのですが……」
今朝は更に驚く事態が起こっていた。朝食の時間になっても起きてこない詩織さんの部屋を使用人さんが訪れると、中に詩織さんの姿は無かったと言う。真琴さんの時と同じように荷物は放置されたままだった。
室内をバタバタと何人もの人が探し回っている。そりゃそうか、由香さんは帰ってしまい、真琴さんと詩織さんは行方不明になったのだから、今この屋敷には使用人さんと私達しかいないんだもの。
「まさか、詩織さんも真琴さんと同じように……? やっぱりここの屋敷って、神隠しがあるんでしょうか……」
「大旦那様から、私も伺ったことはございますが……まさか、お二人とも……」
使用人さんと最悪の事態を想定して、顔を青ざめさせた。確証はないけど、実際にお爺さんの記憶が正しければ、此処で女の子が消えているんだ。
久しぶりに人が立ち入ったと思えば、昨日、今日と連続で消えている。このままいったら、明日も……?
「いや、それはないと僕は思うよ」
私と使用人さんの考えに一石投じたのは雅紀さんだった。その後ろから、何処かに行っていた捺も戻ってきて言った。
「俺もその考えには同感だ。詩織さんの部屋にスマホや財布といった、最低限の物はなくなっていた。急ぎで必要な物だけ持って出て行ったって感じだった」
捺は平然と言ってのけたけど、つまりそれは人の部屋を普通に漁ったと言う事よね? 凄いね、貴方。
捺の言葉を聞いて、雅紀さんもやっぱりと言った様子で言う。
「やはり彼女は、何かあってここを立ち去らなければならなかったんだと思う。表の車が一台減ってるから。確か昨日は五台あったけど、窓から見たら今朝は四台になってたから」
「あぁ……言われてみれば確かに、一台少なくなっております」
使用人さんは今気が付いた様子で言った。ていうか昨日五台あったっけ? そんなとこまで見てないしなぁ。
「それに……使用人さんたちは皆黒いパンプスで統一されているから分かりやすかったのだけど、この靴箱に残っている他の靴は四つしかない。内二つは男物で、もう一つは燈ちゃんのだ。そうすると残りは一足。使用人さんの靴の数は昨日から変わって無くて、所有者不明の靴の一つが消えていた、そして車が一台無くなってた。だから詩織さんは、自分で運転して帰ったか、あるいは第三者の運転に乗って行ったって事になると思う」
「確かに! 凄いですね、よくそんな所まで見てますね」
雅紀さんもやっぱり頭良いんだな、そうだよね研究者だもの。ぱちぱちと拍手をしていると、隣から捺がつまらなそうな声をあげた。
「……とにかく、詩織さんには連絡が取れるはずです。連絡はしたんですか?」
「いえ……真琴様の時のように、電話は置いていったと思っていましたので……すぐに連絡いたします」
使用人さんは急いでエプロンのポケットから自身のスマホを取り出して電話をかけ始めた。この家に固定の電話はない、家を出るときに電話線も外してしまったらしい。だから連絡は、各々のスマホで行っていたようだ。
「……あっ、お嬢様! ご無事ですか?」
彼女が心配そうにスマホを耳に当ててると、直に電話口の人物に問いかけた。どうやら彼女は、一先ず連絡が取れる状況にはあったらしい。彼女もほっと一息ついた。
その後いくらか会話を交わして、使用人さんが捺にスマホを差し出す。
「お嬢様が、柴田様にお話ししたい事があるそうです。どうぞ」
捺は無言でそれを受け取って、彼女と少し話してから耳から外した。それから電話をスピーカーモードにして、私達の声も聞こえるようにして話を続けた。
「詩織さん、大丈夫ですか?」
『えぇ……ごめんなさい、急に居無くなってしまって……』
彼女はとても疲れた声で答えた。姿は見えなくても、精神的に参ってる感じは分かる。
「何があったんですか?」
捺の言葉に、彼女はぽつりぽつりと語り始めた。
『……声が聞こえたの。寝ていたら夜中に突然、助けてって。気のせいだと思って寝ようとしたわ、だけどそれが段々と真琴お姉さまの声に聞こえてきて』
「真琴さんの声で?」
意外だった。詩織さんはそう言った事はあり得ないって言ってる人だったし。でも、そう思ってる人が声を聞いたとなると、妙に信憑性があるんだけど。
『お姉さまだったら勿論急いで助けに行かなくちゃって思ったのだけど、よく聞くとそれは隣の部屋から聞こえて来たの。私の部屋の隣は使っていないお風呂があるから、その中からだったの。……でも、見に行ったけど誰もいなくて……。それで部屋に戻って布団に入っていたら、今度は部屋の中を誰かが歩くような音が聞こえてきて、部屋の中を見たら……壁に顔のような物が見えて……それで怖くなって、パニックになったまま誰にも言わず逃げてしまったの』
そうだったんだ……。だけど、霊なんか信じない詩織さんがそういう体験をしたって事は、やっぱりここには何かいるんだろうか? 聞き慣れた真琴さんの声を間違えるとも思えないし、昨晩は無風だったから風音が声に聞こえたってわけでもないと思う。
『ごめんなさい……結局真琴お姉さまを置いて逃げ出して、私も由香お姉さまと同じようなものよね……』
「そんな事ありません、落ち着いてください。一先ず真琴さんの捜索は続けますが、詩織さんは一旦ご自宅に戻って休まれた方が良いでしょう。声や顔と言った物を調べたいので、部屋を調べる許可が欲しいのですが」
『はい、大丈夫です……お願いいたします……』
詩織さんは弱々しい声で言った。てか、今更許可とったって、さっき散々部屋見て来たんでしょ捺ってば。
その後使用人さんにスマホを返して、再び少し話してから電話を切った。どうやら今後の指示を仰いだらしい。詩織さんは、真琴さんの捜索をしつつ私達に協力するようにと言ってくれたらしく、このまま此処に居てくれるそうだ。
「一先ず詩織様のご無事が分かり、私どもも安心いたしました。……しかし、真琴様は一体どこに行かれてしまったのでしょうか……」
使用人さんは再び不安な表情を浮かべて言った。
「恐らく靴はあるので、外には出ていないと思いますよ。誰かが運び出して無ければですが。室内で他に探していない所とかはありませんか?」
「知っている範囲では、全て探したのですが……」
「私達も、全部の部屋を回ったよ」
一時間かけて、約十人が総出で探したんだ。かくれんぼなら確実に見つかっている。
「一先ず、詩織さんの部屋に行こう。真琴さんの声というのも関係があるかもしれない」
「うん、そうだね」
使用人さんは詩織さんが見つかった事を他の人に伝えにいき、私達は詩織さんの部屋へと向かった。詩織さんの部屋は真琴さんの部屋の角を曲がった、更に奥にあった。すぐ隣にも扉がある、此処が使ってないというお風呂だろう。
部屋の中は他とは全く雰囲気の異なる部屋だった。カントリー調で統一されていて、壁も天井も敢て木の板が見えるようになっている。壁紙とかは無い。ベッドも天蓋がない普通の物だし、ソファもテーブルも一般家庭にもありそうなもの。明らかに私達の部屋の方が良さそうなのに……意外にも詩織さん、素朴な方が好みなのかな。
ベッド脇にはスーツケースが半分開いたまま放置されていて、パソコンや化粧道具も置きっぱなし。布団もベッド下に落下したままだった。
「ねぇ、捺がこの部屋に一人で来た時は、何か感じなかったの?」
「生憎、俺は霊感とやらは持ち合せていない」
「そうじゃなくって。声とか顔とか、音とか……」
「声は何とも言えないが、足音というのはただの家鳴りだろうな。恐らく最初に起こった真琴さんの声で神経が過敏になり、いつもは気にならない音が気になったってとこだろう」
捺の言葉に、なるほどと雅紀さんも続いた。
「そうなると、顔も勘違いである可能性が高いね。しかも此処の壁は木目が見える、プレグナンツの法則が成り立ちやすい環境だ」
プレグナンツの法則……確か前に捺がした心霊写真の説明の時に聞いた。点や線が不規則に並んでいると、無意識にそこから集合体を導き出そうとして、それが顔に見えるってやつだ。天井のシミをずっと見ていたら顔に見えてくる現象がそうだと言ってた。って事は、まさしく詩織さんはプレグナンツの法則で顔に見えていたって事だ。
「……その通りです」
捺が渋々と言った感じで、雅紀さんの推理を認めた。ていうか素直になりなさいよ! 雅紀さんだって協力してくれてるんだからさ。
「だけど、そうすると一番最初の声って言うのは説明がつかなくない? だってその法則で言ったら、声は本物だって事になるでしょ?」
「うん、そうなるね。そこが大きな問題だ……」
詩織さんはお風呂の方から聞こえて来たって言っていた。だけど使われていない所で、真琴さんはいなかった。となると、お風呂よりも奥からって事だろうか。
「何にしても、隣は見ておいた方が良いだろうね」
雅紀さんの言葉に私も捺も頷き、一旦部屋を出て隣の浴室に入る。ドアを開けた所から覗くと、脱衣所の奥の浴室へ繋がる扉は開きっぱなしになっている。浴槽がかなり大きくて、洗い場も三つもついてる。ちょっとした銭湯のレベルだ。
ただ使ってないと言うだけあって、埃や蜘蛛の巣が此処も好き放題に張り巡らされていた。でも掃除さえすれば、タイルは割れたりしてないし十分気持ちよく使えそう。
「かなり汚いけど……でも、隠れる場所とかは無さそうですね」
「あぁ……それに、暫く人が立ち入った形跡もない。埃が積もったまま、足跡もないからな。廊下から見るだけで十分見渡せるから、詳しくは見なかったんだろう」
そう言って捺は、蜘蛛の巣を掻き分けながらズカズカと入って行く。えっ入るの? 躊躇していた私の隣を通り、平然と雅紀さんも入って行く。うぐ……服汚れたり、髪が汚れるの嫌だけど……えぇい、仕方ない! 仕事だ!
なんとか蜘蛛の巣がない所をくぐって、二人の後を追って浴室内へと入った。でも結局二つくらいの巣に引っ掛かったけど……。
「うーん……やっぱり入った形跡も無さそうだ。この小窓から声がしたのかとも考えたけど……鍵が閉まったまま蜘蛛の巣が張ってるし、やはり暫く人の手が触れていない事は確かだね」
「それに、真琴さんが何故わざわざそんな事をするのかも疑問だ。やはりどこかに閉じ込められていて、そこから助けを求めているというのが無難な考えた」
「どこかって言ったって……もう探しつくしたくらいだよ、この家の中」
「じゃあ、誰も知らない部屋とか」
雅紀さんが手を叩きながら閃いた感じに言ったけど……
「忍者屋敷じゃないんだから……壁の向こうに部屋があるとか、掛け軸の後ろに部屋がるって事ですか?」
「いやいや、忘れられた部屋もそうなるよ。だって此処に実際に住んでいた人間は、今この場には居ないんだろう? 昔はちゃんと機能していたけど、入り口が見当たらなくなったってだけでまだ探していない部屋があるかもしれない」
「その可能性はありえますね。昔、冷蔵庫が無い時代の保存は地下で行っていましたし」
捺が珍しく……いや、やっと雅紀さんの事を認めたようで、素直に話に乗った。でもそんな事ってあるのかな……ていうか、地下の入り口ってどんな所にあるんだろ?
「まぁ一般的にはキッチンとかだろうな。一回見せて貰うか……」
そう言って出て行った捺に続き、私も出て行こうとした時だ。壁に何か穴を埋めたような跡があるのを見つけた。タイル張りの壁が丸く切り取られていて、以前は何か管のような物が通っていたようだ。
なんだろう……? 触ってみるも、石膏で綺麗に固められてから暫く経っているようだった。
「え……?」
疑問に思ってそこをなぞっていたら、僅かにそこから音が聞こえたような気がした。本当に微かに。もしかしたら聞き間違いかもしれないと思ったほどだ。もしかして、詩織さんが聞いたのって……これかな。私の耳にはハッキリとは聞き取れないけど、何となく壁から声が聞こえたような気がした。
「何してる」
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「捺、今声が……」
「本当か?」
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二人とも急ぎで中に戻ってきて、壁叩いたり触ったりして調べている。
『……ぅ……』
僅かに、誰かの小さな声が聞こえた。微かに聞き取れる程度だ。やはり壁の中から聞こえる。
「真琴さん、何処に居ますか? 無事ですか?」
『……ち、か……』
「地下? 地下に居るんですか?」
『………』
「真琴さん!」
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