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18 旅立ち

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 その頃、冒険者ギルドでは……。


「ギルマス、少しよろしいでしょうか。ルリちゃんの事なのですが」

 ダーニャがギルドマスターに話しかけていた。

「ルリちゃんの王都出発が近づいてきたのですが、さすがに一人で行かせるのは危険です。
 乗合馬車でもいいですが、商隊の護衛とかさせてはいかがでしょうか。
 護衛なら他の冒険者も一緒にいますし、ルリちゃんの経験にもなると思うのです」


 王都までの距離は、馬車で約1週間。
 途中数か所の宿場町に立ち寄りながらの旅になる。

 途中に魔物や盗賊が潜んでいることもあり、1人で行くには危険がある。

 乗合馬車ならば専属の護衛が居るため危険度が少ないが、若い少女が1人で乗るのは、違う意味で危険だ。


 商隊の護衛依頼とは、商人が遠くの街へ馬車で移動する際に、魔物や盗賊から商人と荷馬車を守るという任務となる。

 リンドスの街から複数の冒険者を派遣することが可能で、ルリの安全を確保することも可能と、ダーニャは考えたのだった。


「商隊と言えばよぅ、今リンドスに着ている王都の商隊が2週間後に発つはずじゃが」

「分かりました、商隊の護衛依頼を受けられないか聞いてみますね」
 ダーニャはそれとなくルリが護衛依頼を受けられるように、暗躍するのであった。




 同じ頃、Cランク冒険者パーティ双肩の絆、ケルビンとアリシャ夫婦の自宅では……。

「そろそろルリちゃんの王都行きの時期よね。寂しくなるわ」

「そうだな、俺たちも世話になったし、何かしてあげたいよな」

「王都まで一緒に行ってあげるとか、どうかしら。1人じゃ心配だわ」

「いいな、そうしよう。もし護衛依頼とかあれば、一緒にうけるのも有りだな」

 ここにも、ルリの王都行きを心配し、手助けしようとする人がいた。




 翌日、冒険者ギルドでは、受付嬢のダーニャとアリシャが向かい合っていた。

「「あの……」」

「あ、先どうぞ」

「いえ、先どうぞ」

「「……」」

「「王都行きの護衛依頼……」」

「「えっ!?」」


「あはは、考える事は一緒だったようね。
 Cランクパーティ『双肩の絆』に指名依頼です。王都への商隊の護衛依頼、
 Dランク冒険者ルリさんと一緒に受けていただけますでしょうか」

「こちらこそお願いします!」

 ルリの知らない所で、ルリの予定が決定した。




 一方ルリは、裏で護衛の話が進んでいるなどつゆ知らず、1週間の旅行程度にしか考えていなかった。

(お肉はいっぱい収納してあるから、野菜と調味料、仕入れとかなきゃね。
 お鍋や包丁の予備も買って、あとは毛布にタオル、着替えもたっぷり準備してと……)
 お気楽なものであるが……。


 ルリがギルドに着くと、見知った3人の姿が見える。

「ダーニャさん、ケルビンさん、アリシャさん、おはようございます」

「ルリちゃん、良い所に来たわ」

 ダーニャに呼ばれて近くに寄る。


「ルリちゃんに指名依頼よ。商隊の護衛として、双肩の絆と一緒に王都へ行ってもらうわ」

「えっ?」



 突然の話に驚くが、王都行きは決まっていた事である。
 3人が気を使って依頼を作ってくれたのであろう事はすぐに理解できた。

「ありがとうございます!
 ケルビンさんとアリシャさんも一緒に行ってくれるってことですね!」

「そうだけど、ルリちゃん。
 一緒に旅行に行くわけじゃないんだからね。護衛任務は大変な依頼よ」

「ああ、遊びじゃないからな。護衛の何たるかをしっかり教えてやるよ!」

「はい! 頑張ります!」


 護衛の出発は2週間後。
 王都の中堅商人の商隊で、荷馬車は3台の予定となっている。

 『双肩の絆』とルリの他にも、5名ほどの冒険者が一緒に護衛に着く予定だ。
 報酬は、7日間で1人当たり金貨21枚。




 商隊は商隊で、護衛にルリが加わることに歓喜していた。
 ルリが収納魔法の使い手であるという情報は伝わっている。

 通常時の何倍もの仕入れができる事になり、商品の仕入れに走り回っていた。

 と言うのも、初の護衛任務、しかもギルドの積極的な斡旋という事で、商隊の責任者、ギルド、ルリの間で事前の顔合わせが行われていたからである。


 商隊が荷馬車で運ぶ物資は商品だけではない。
 商人、御者、護衛、そして馬たちに必要な食料や水も積まなければならない。

 特に水は重要だ。7日分となると、馬車1台はそういった生活用品で埋め尽くされると言っても過言ではない。途中の宿場町で補給できると言ってもだ。
 その為、商隊の食事は質素かつ必要最小限なものになる事になる。


 ルリとの打ち合わせによって、その常識が覆った。

「そしたら、お水や食事は私が運びますよ!
 馬車の旅と言っても、折角なら快適に過ごしたいじゃないですか。
 他にも、馬車1台分くらいなら持ってきますので、良かったら言ってください!」

 ルリの収納が馬車2~3台分ある事は、既にバレていた。ルリも特に、便利なこの魔法を隠すつもりはない。
 商隊にとっては喉から手が出るほど有能な、便利人のルリがいた。


 リンドスの街に、これと言った特産品がある訳ではない。
 それでも、王都に比べれば周囲に魔物が多く、魔物の素材は街の利益をもたらす商品となっている。最近は、ルリが乱獲していたので、素材が豊富にあった。

 そして、リンドスでは小麦の栽培が盛んであった。

 リンドスは王都直轄領の中では北の端にある。
 街の北側には大きな山脈があり、他の三方向には深い森がある。
 そして、街の北東に川があり、周辺の平地が穀倉地帯となっていた。

 小麦は値段の割には重い。高い値が付く魔物の素材と比べ利益率が悪いが、収納魔法使いが運ぶとなれば話は別である。

 商人は小麦粉の買い付けに走った。
 それから数日、リンドスの街ではかつてない好景気に、活気づくのであった。




 商隊出発までの数日、ルリはお世話になった人々の元へと尋ね歩いていた。
 教会のミシリー、子供たち。そして西門のジャック隊長、衛兵の皆さん。

 教会の子供たちには手元の素材を利用して、毛布や衣服をプレゼントした。
 ルリは少しであれば裁縫もできるのである。

 衛兵には炊き出しを行った。
 食材店や料理店に新しい料理、正確には地球の料理を教えたり、衣料店や雑貨店に新商品、正確には地球のデザインやアイテムの知識を伝えたりしていた。




 ---異世界の知識を得た料理人や職人たちが研鑽を深め、独自の文化を育んだ町としてリンドスの街が発展していくのは、数年後の話。
 そして、街の発展の礎となった一人の少女、『白銀の女神』の話が、後世まで語り継がれることになる事に、ルリは気づいてもいなかった。




 王都出発の当日。
 2ヶ月滞在した宿を感謝と共に引き払い、ルリは冒険者ギルドに来ていた。

 迎えてくれたギルドマスターとダーニャさん。

「おはようございます、今日、王都に発ちます!
 今までありがとうございました!」

「あぁ、気を付けて行ってこぃ。王都のギルドに着いたらこれを渡してくれ。
 儂からの紹介状じゃぁ」

「ルリちゃん、学校がんばってね。辛くなったらいつでも戻ってくるんだよ」

 一通の手紙を受け取るルリ。ダーニャさんは母親の様な目になっている。

「はい、行ってきます!
 ギルマス、ダーニャさん、本当にありがとうございました!」



 ケルビン、アリシャと合流し、商隊の出発地点である街の正門に移動する。
 今回ルリは、『双肩の絆』の一員として参加する予定となっている。
 冒険者は他に1パーティが参加する予定だ。


 正門に着くと、商隊の馬車が準備していた。

 馬車は3台編成。以前顔合わせをしている、メルヴィン商会の店主メルヴィンとジェノフ、そして御者が3人、馬車の横で待機していた。

「おはようございます。本日はよろしくお願いします!」

「『双肩の絆』の皆さん、道中よろしくお願いします」


 そうしていると、五人組の冒険者がやってくる。

 大きな盾を持った恰幅のいい男性、槍を持った男性と弓を持った男性。
 女性は1人が剣士らしく、もう1人はローブ姿なので魔術師だろう。

「冒険者パーティ『星空の翼』Cランクです。
 本日はよろしくお願いします!」

 全員が集合したところで、まずは自己紹介。

「俺は大盾使いのゲルト、パーティのリーダーだ。
 こっちが槍士のルターで、弓を持っているのがタイタス。
 そして、剣士のエステルと魔術師のシーラだ」

 ルリたちも同様に、自己紹介を進める。
 同じCランクのパーティではあるが、人数の多い『星空の翼』が全体の護衛指揮を執ることになった。

「あなたがルリちゃんね。はじめまして。
 噂は聞いていたけど、本当に可愛らしいわね。
 お姉さんが守ってあげるからね!」

「ケルビンさん、アリシャさん、お久しぶりです!」

 『星空の翼』は全員が20代前半程度に見える。
 同じCランクで年上でもある双肩の絆の2人とは面識があるようだ。


 商隊の準備が整うまでは、冒険者同士で作戦会議だ。

 ルリ以外は知っている顔でもある事から実力もお互いに知っているようで、1番目の馬車にはゲルト、ルター、タイタスが乗車。2番目の馬車にエステルとシーラが乗る。
 最後方になる3番目の馬車に、ルリたち『双肩の絆』が乗車することになった。

 前方、後方を警戒しつつも、中央に剣士と魔術師を配置することでバランスを取った布陣だ。



 王都は、リンドスの街の南東に位置する。

 リンドスの東と南の森の間を縫う街道、そう、泉に降り立ち、森を抜け、ルリが最初に到着した街道をリンドスとは逆方向にするのが王都の方向だ。


 リンドス周辺の森は深いため魔物の遭遇率が高いが、王都に近づくにつれて魔物は少なくなる。最初の数日が護衛の山場との事だった。
 勿論、盗賊に至っては王都直前でも現れる可能性がゼロでは無いので、警戒を怠ることは出来ない。

「「「ルリちゃん、気を付けて行ってくるんだよ~」」」

「「「女神様、おたっしゃで~」」」

「みなさん、ありがとうございましたぁ! 行ってきま~す!!」

 街の人たち、門番さん達が暖かく見送ってくれる。
 ルリたちは馬車に乗り込み、リンドスの街を出発した。
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