転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり

文字の大きさ
20 / 190

20 盗賊ホイホイ

しおりを挟む
 翌朝。

「宿の主人に聞いたのですが、1週間ほど前にこの先で盗賊が出ているそうです。
 まだその辺に潜んでいるかもしれませんので、注意しながら進みましょう」

 メルヴィンの注意を受けつつ、商隊は出発した。


 ルリは念のため確認してみる。

「メルヴィンさん、盗賊って何人くらいなんですか?」

「人数は分かっていないが、やられたのは3人の護衛を連れた行商だそうだよ」



 何台もの馬車を率いて移動できるのは、それなりの規模の商人だけだ。
 商人の大半は、1台の馬車にわずかな護衛で移動を行っている。
 むしろ、護衛なしで移動している行商人も多い。


 盗賊も、出会った人間すべてを皆殺しにするわけではない。
 人を殺せば、治安維持のため討伐隊が組まれる。王都からも遠くはないこの街道では、討伐の兵士が出陣することも、そう難しくはなかった。

 そういう状況から、この辺りの盗賊は、護衛の少ないカモを探し、人は殺さずに荷物だけを奪って逃走することがほとんどだ。

 女性や子供がいれば当然のように攫われる事になるのだが、最低限の護衛を付けていない、自業自得とみられることが多かった。



 昼の休憩をとっていると、メルヴィンと護衛リーダーのゲルトが話し込んでいた。

「念のため護衛の体制を変更する。
 もし今日盗賊が襲ってくるとすればこの後だろう。
 そこでだ、俺とタイタスが徒歩で先行して馬車を先導。
 ルターは1台目、ケルビンさんは3台目の御者台で御者さんと一緒に座ってくれ。
 女性陣は馬車の中に待機、幌の隙間から周辺を警戒してくれ」

 これは、大勢の冒険者が馬車を護衛していると見せかけるための布陣だ。

 見えているだけで5名の男が護衛についており、馬車の中には更にいるかもしれないと思わせる。
 女性の姿が見えなければ舐められる事も無い。


 ルリは言われたとおりに3台目の馬車に隠れ、隙間から後方を窺っていた。
 危機感知を走らせているので正直に見続ける必要もないのであるが、護衛任務っぽくなり張りきっていた。




 次の護衛地まで2時間程度と迫った時だった。
 ルリの危機感知に反応がある。

「ケルビンさん、前方100メートル、たぶん人影7~8人です!」

 ケルビンが先頭に走り、ゲルトに伝える。

「なぜ分かる? まぁいいか。
 全員、警戒態勢! 敵を確認しろ!!」


 ゲルトの指示で槍使いのルターが先行し前方へと走る。
 しばらく走ると、ルターは停止して、ゲルトに合図した。


 ゲルトから事前に決めていたサインがあり、それぞれ荷台から飛び出した。

 ゲルト、タイタスがルターの元まで走る。
 エステルとシーラも、追いかけて走り出した。


 ルリは、馬車から出ると『星空の翼』の後方、1台目の馬車の前方にて待機だ。
 商隊の後方と側面はケルビンとアリシャが警戒する。

 ルリが前方に着いたときには、8人の盗賊と『星空の翼』が対峙していた。


「ここは行き止まりだぁ! 武器を捨てておとなしくしろぉ!」

「こらぁ、観念しやがれぇ!」

「荷馬車を置いて消えてくれぇ!!」
 盗賊が口々に脅してくる。

(おう、盗賊っぽい啖呵聞けましたよぉ……
 でも何か良心的ですね。襲ってこないし、荷馬車置いていけば攫ったりしないんだ)

 以前の教会で出会った盗賊は、殺す気満々、否、攫う気で襲い掛かってきた。
 それに比べると、この盗賊はあまり迫力がない。

(と言うか「消えてくれぇ」とか自信ないの…?
 むしろ……どう見ても、農民……?)


 剣や槍ではなく鍬や鉈を持ち、簡単な防具は付けている様だが、モンペに長靴と言った方が理解しやすい服装だ。

「かかって来るなら相手になるが……。
 あくまで盗賊と言うなら容赦しないぞ」

 ゲルトも様子見をすることにしたようだ。


「黙れ、俺たちゃ盗賊だ、荷物を渡せぇぇぇ!!」

 ゲルトがタイタスとシーラに目配せした。
 シュッ
 ドン

「「「「「「「「ひぃぃぃぃ」」」」」」」」

 タイタスの弓矢が、そしてシーラの魔法が盗賊たちの横をかすめて飛んだ。


「おいおい、盗賊してくれってんなら、もう少しだなぁ……」

 ゲルトが同情したような表情で、盗賊、改め農民たちに告げた。


「悪いがお前らを拘束する。事情はあるんだろうが盗賊は盗賊だ。観念しろ」

「「「「「「「「ひぃぃぃぃ、頼む、見逃して……」」」」」」」」

 懇願されたところで、ゲルトに見逃す気はない。
 エステルが剣を構えて一瞬で農民たちに近づくと、剣を寸止めして威圧した。


 怖気着いた農民たちに逆らう術はない。
 武器を落とし、『星空の翼』によってあっさりと拘束された。


「メルヴィンさん、これどうします?」

「困りましたね、次の宿場町までは1日以上あります。
 連れて行くのは面倒ですね……」

「あぁ護衛に支障が出るのは避けたい。
 この場で殺していくかい? 盗賊なら殺しても問題はない」

「「「「「「「「ひぃぃぃぃ」」」」」」」」


 8人もの盗賊を連行していくというのは、商隊にとっては邪魔でしかない。
 だからと言って、開放することもできない。

 偶々護衛が揃っていたから被害なく取り押さえられただけで、開放した後に他の行商人などを襲う可能性があるのだ。
 本人が盗賊と名乗っている以上、この場で殺して盗賊討伐の証拠だけ持ち帰ればいいのだ。

「すまなんだぁ命だけはお助けをぉ……。
 今年は不作で妻や子供に食わせることが出来ねぇだぁ。
 ちょっと魔が差しただけだからよぅ……」

 懇願する農民たちの声に、エステルが割って入る。

「勘違いしないでよ。不作だからって私達には関係ない事だわ。
 家族を大切にするなら何で人の物を取ろうとなんてしたわけ?
 せめて物乞いなら印象も違ってたでしょうに……」

 確かに、物乞いとして道端で土下座でもされようなものなら、少なくともルリは食事くらい恵んだかもしれない。

 農民たちを冷たい目で見ながら、エステルは言葉を続けた。

「今さら無駄よ。しかもねぇあんたたちは重大な罪を犯したの。わかる?
『白銀の女神様』の歩みを止めたのよ! もう死刑確定ね!!」

「はぁ? そこぉぉぉ???」

 してやったり、と胸を張るエステルを、真っ赤な顔で睨むルリであった。



「まぁまぁ、本人たちがおとなしく一緒に来るというならば、この場で命は取らずに宿場町まで連れて行ってはいかがでしょうか」

 メルヴィンも無用な殺戮は望んでいない。
 無抵抗となった今、殺すのも忍びないと判断したのである。

 後ろ手で手首を縛り、腕と胴もぐるぐる巻きにする。

 輸送は、通常馬車に結び付けて連行するのだが、1台の積み荷をルリが収納することで、農民たちを馬車に詰め込むことができた。

 荷物のなくなった3台目の馬車には農民が詰め込まれ、『双肩の絆』が見張ることになった。




 無事野営地に着き、いつも通りに食事と入浴の準備をする。
 もちろん、農民に食事を与えるほど優しくはない。
 1日くらい食べなくても死なないだろうと、水だけ与えて放置した。




 深夜、事件が起こる。
 見張りの当番は『双肩の絆』、ケルビン、アリシャ、ルリの3人だ。

 ルリの危機感知に3つの反応があった。
 農民たちが逃げた様子はない。

「ケルビンさん、何か来ます。たぶん3人です」
 ケルビンに小声で危険を知らせる。

 月明かりに紛れるように、馬車に近づく3つの人影が見える。
「ルリちゃん、静かにしててね。アリシャ、行くよ」

 足音無く人影に近づくと、アリシャが小さく声を発した。

「誰だ!」

「……女か、どけ、殺すぞ……」

 盗賊らしき人影がアリシャに向き直った時だった。

 ドゴ、ドス、ゴス
 背後から近づいていたケルビンが手刀で3人の盗賊を気絶させた。


 そのまま縄で縛り、猿ぐつわを噛ませて地面に放置。

「ケルビンさん、今のは?」

「ああ、ルリちゃん。ただのコソ泥だね。後は朝でいいだろう」




 翌朝、目を覚ました『星空の翼』の面々が声を揃える。

「「「「「またかよ、盗賊ホイホイ」」」」」

 新たに加わった3人のコソ泥を馬車に突っ込み、商隊は今日も正常運転で出発する。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...