転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり

文字の大きさ
25 / 190

25 アルバイト

しおりを挟む
 宿に戻ると、ルリは困っていた。

(魔物は居そうだけど、狩場が遠すぎるわ。
 毎日行くのは面倒すぎる。
 泊まり込みで行ってもいいけど、数日籠ったら殲滅出来ちゃいそう。
 それに、毎日大量に納品したら目立っちゃうし、一度の納品量も少ない方がいいわね)

 リンドスでは多くの冒険者が日々狩りをして活動していたため目立たなかったが、王都では毎日狩りをする冒険者は居ない。

 そもそも魔物の絶対数が少なそうなので、入学までとは言え毎日狩ったらいなくなる可能性もあった。

(魔物とは言え、生態系を崩すのは良くないわよね。
 狩りは週に1日か2日程度にしとくべきね。そうなると、暇ねぇ……)


 試験対策として勉強すればいいのではあるが、試験の内容がルリには簡単すぎる。

 実技はまず問題ない、筆記対策が重要となるのではあるが、ルリには高校受験を突破している知識がある。
 計算などの問題は間違えようがなく、しかも、異世界言語翻訳により、文章の読解や書き取りも心配ない。
 地理や歴史を覚える必要はあるのだが、試験で出る程度の理解をすることは難しくなかった。



(何か、バイトでもしようかなぁ。本当だったら今頃どこかでバイトしてるはずだしなぁ)

 翌朝も、ルリは暇つぶしに付いて悩んでいた。

(バイトって言ってもどこに行ければいいのかなぁ。面接とかしてくれるのかしら。
 ってか、普通の人って普段はどこで何してるのかしら……)

 テレビやスマホなど無い世界である。ルリには他に時間を潰す方法が思い付かなかった。



 街とふらふらと求人が無いか探しながら歩いてみる。

(お店はあるのだから、店員の募集とか、絶対してるはずよねぇ……)


 当てもなくさ迷っていると、見覚えのある建物の前を通っていた。

(メルヴィン商会さんなら、知ってるから雇ってくれるかも!)

 お店に入ると、大きなスーパーの様な店舗だ。
 食料品を中心に雑貨などが並んでいる。

「こんにちは。商会長のメルヴィンさんはいらっしゃいますか?」

 近くの店員に声を掛けてみる。

「はい、えっとお約束でしょうか? 商会長は店舗ではなく事務所になりますので、そちらを訪ねてください」

 事務所の場所を教えてもらえたのはラッキーだが、約束などしていない。

(まぁダメ元で行ってみるしかないわね)

 事務所に着くと、『メルヴィン商会』の看板があった。ドアを開いてみる。

「すみません、冒険者のルリと申します。商会長のメルヴィンさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「はい、お約束でございましょうか?」

 事務所の受付らしいお姉さんが対応してくれた。

「いえ、約束はしていないのですが、もし時間があれば相談したいことがありまして……」

 何とか取り次いではくれるようだ。
 受付のお姉さんが奥に行くと、メルヴィンが出て来てくれた。

「やぁルリさん、お久しぶりだね。相談があるってことだけど?」


 会議室のような場所に連れて行かれ、話を聞いてもらった。

「なるほどね、学校が始まるまで、2ヶ月くらいかな。その間でどこかで働きたいってことなんだね」

「はい、そうなんです。ある程度は接客とかは出来ると思いますので……」

 メルヴィンは考えているようだ。

「そうだ、ルリさんは料理も得意だったよね。
 私の経営する飲食店があるんだけど、そこで働いてはくれないかい。給仕の仕事だよ。
 ただね、一つ条件を付けさせてくれ。
 ルリさんの料理の知識を料理人にも教えてくれるというのなら受け入れよう」

「つまり、普段は給仕をしながら、新メニューの開発とかをするって事ですね。全く問題ないです!」

「理解が早くて助かるよ。
 ルリちゃんの料理美味しかったからさ、ああ言うのをうちの店でも作ってほしいんだ」


 メルヴィンが店舗の説明をしてくれる。
 大衆向けの飲食店、ファミリーレストランのイメージのお店だった。

(うん、楽しそう。いいお仕事見つかったかも!)


 ルリのしたかった事、それは異世界だとしても普通の暮らしである。
 その希望に、レストランのアルバイトは最高の選択肢だった。

(冒険者も楽しいけど、接客業も捨てられないわね)


 やる気満々で店舗に案内してもらう。
 お店の名前は『メルン亭』。メルヴィンの名前からとったらしい。

 客席は50席程度で、大通りからもほど近い。
 清潔感もあり、女性客にも人気が出そうなお店だ。


 メルヴィンが店長と料理長に私を紹介してくれた。

「今日から働いてもらう、ルリさんだ。冒険者で、以前私がお世話になった人なんだよ」

「「ああ、よろしくな」」

 店長は長身の男性で、優しそうな顔をしている。
 料理長の顔つきは怖めだが、気が良さそうな印象だ。
 他にも給仕の女性が5名と、料理人として4人の男女が働いているとのことだ。

「ルリさん、メニューの開発で、もし必要な食材や調味料があったら、料理長に気軽に言ってくれ。私が集めてくるよ」

 商会の直営店という事で、食材の調達では抜きんでている。
 この利点を生かし、繁盛店を目指したいらしい。



 初日は、メニューや席番号などを覚える為に見学で終わった。
『オーク肉のステーキ/煮込み 銀貨2枚』
『岩トカゲのステーキ/煮込み 銀貨1枚』
『ゴード鳥と野菜のスープ 銅貨8枚』
『本日の日替わり 銀貨1枚』

 メニューは主に、煮るか焼くか炒めるかで、殆どのメニューにはパンがついている。

 デザートもあるが、フルーツの盛り合わせであったり、パンに蜜をかけたものだったり。
 凝ったデザートはまだまだ少なかった。


(教会の時もそうだったけど、「練る」って習慣が無いのかしらねぇ。
 素材の味を生かした料理も美味しいけど、一工夫できそうね)

 リンドスの街では、とにかく食材と調味料が少なかった。
 調理の方法を伝えはしたが、地球の料理を再現できた例は少ない。

 しかしここは王都。可能性は広がる。
 営業後、現在ある調味料を見せてもらった。


 まず和食の基本調味料。いわゆる「さしすせそ」。
 砂糖はあるが高価で使いにくいが、蜂蜜があるので代用可能。

 塩はある。酢と醤油、味噌は見当たらない。
 胡椒や唐辛子などの香辛料は高価だが使用できる範囲で存在した。

 生姜やニンニクについては、調味料として認識されてはいないがそれらしき植物が薬草として売られている。磨り潰して飲む形になる為、料理に使われていないだけだった。



 実は、思っている以上に調味料は存在していた。
 食べられると認識されていないだけで、その辺に生えていたりして、ルリはちょこちょこと採集しており、アイテムボックスにため込んでいた。

 食材の棚を見せてもらうと、牛乳や卵もある。
 牛という生き物の乳ではないと思うが、それっぽいのがあった。
 日持ちがしない事からあまり使われていないらしいが、王都であれば手に入った。

「料理長、ありがとうございます。
 いくつかメニュー考えてみますので、よろしくお願いします」

 時間も遅いため店を後にし、宿へ戻る。

(コロッケにハンバーグ、シチューも作れそうね。
 カレーライスは、ご飯の仕入しだい。オムライスもそうね、卵も高価だし。
 主食がパンしかないのはだめよね。せめてパスタは流行らせたいわね)



 アルバイトも3日目。
 給仕になれてきたルリには、大きな試練が訪れていた。
 閉店後に行われる試食会だ。

 今回のメニューは、ポテトコロッケ、ハンバーグ、そしてミートソースパスタ。
 調味料が全て揃っているわけではないが、材料がほぼ一緒であり、手に入る食材だけでもそれなりに作れる。

 下拵えは、玉ねぎのみじん切りとひき肉。
 ひき肉は牛っぽい肉がどれだか不明なため、オーク肉を叩いて作った。

 また、出回っているパンを砕いてパン粉を作る。
 さらに揚げ油の代用品として、オークの脂身を熱し、油だけ濾して溜めておいた。


 まずコロッケ。
 茹でた芋っぽいもの、玉ねぎ、ひき肉を炒めて固める。解いた卵とパン粉を付けて油で揚げた。

 次にハンバーグ。
 卵、パン粉、牛乳を繋ぎにオークのひき肉と玉ねぎのみじん切りを混ぜて捏ねる。軽く油をひいて両面を焼き上げた。

 ミートソースは簡単だ。
 ひき肉と玉ねぎを炒めてトマトっぽい野菜を加えて炒めるだけ。ニンニクでアクセントを入れておく。

 パスタの麺づくりは、料理長が最も熱心に見てくれた。
 小麦粉と卵を丁寧に捏ねて固まらせていく。しばらく寝かせた後に、平らに伸ばし、細長く切りそろえる。最後に茹でれば完成だ。


 コロッケとハンバーグのソースは昨日から作っておいた。
 トマトとニンニク、生姜を細かく切って煮込む。塩や香辛料を入れてさらに煮込む。
 一晩寝かしておいたものを濾して、煮詰めれば完成。



 手際よくお皿に盛り付けて披露した。
 今日は全従業員とメルヴィンが試食会に参加している。

「「「「「「「美味しい」」」」」」」

 試食の結果は当然のセリフだった。

「コロッケ? 表面サクサクで中はトロッとしてるね」
「普通にステーキにするよりもハンバーグの方がうま味があるよ!」
「この細長い食べ物いいなぁ、他の味でもたべられそうだ!」
 食文化の進んだ日本での人気料理。異世界の胃袋を掴むのは間違いない。


「よし、新メニュー決定だ! 全員で作り方覚えるぞ。
 これは人気になる! 材料の仕入増やすぞ!」

『ポテトコロッケ 銅貨8枚』
『オーク肉のハンバーグ 銀貨2枚』
『本日のパスタ 銀貨1枚』
 数日後、メニューに日本の料理が並び始める。


「私、パスタね」

「「「私も!」」」

「俺はハンバーグ」

「「「俺も!」」」

 行列の人気店になるのに、時間はかからなかった。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...