転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり

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「みなさん、起きてください!
 今日は入学式ですよ。しっかり準備してください!」

 セイラの声で起こされる面々。
 日の出間際のようで、外はまだ薄暗い。

「「「んん~???」」」
 もぞもぞと起き上がる3人。ミリアーヌ、ルリ、メアリーだ。


 顔を洗い、制服に着替える。

「ミリアは目立つのですから、しっかり準備しませんと。
 ルリもそうですよ。
 昨日で顔が知られてるんです。自覚してくださいな!」
 セイラが身支度をけしかけている。


 そう、昨日と違う点は、名前の呼び方。
 試合が終わって和気あいあいとしていた4人。
 結局、全員敬称無しで呼び合う事に決まったのだ。
 敬語も禁止だ。

 共に戦闘をする時など、敬称は邪魔になる。
 普段から慣れようというミリアの意見に、押し切られた。



 そうこうしていると、集合の時間が近づく。
 寮から飛び出し、講堂へと向かった。


 門の前に、大量の馬車が止まっているのが見える。
 貴族の父兄が押し掛けたからだ。

 本来であれば跡継ぎにはならない息子のために、貴族がわざわざ入学式に来ることはない。
 しかし、今年の第2学園は、例年とは異なっていた。
 王族やら公爵家、子爵家の跡取りが新入生に居るのだ。

 しかも国王自らが入学式に出席するとなっては、他の貴族の父兄が参加しない訳にいかない。
 また商人たちも、数少ない、貴族と近づくチャンスと、こぞって集まっていた。



 入りきらないほどの大人たちに囲まれ、入学式が始まった。

 ……とにかく、長かった……。
 学園長の挨拶が終わり、保護者の代表としてレドワルド国王の挨拶。
 それから、公爵様、侯爵様、伯爵様と、祝いの挨拶が続く……。

 ルリ達が解放されたのは、予定を大幅に押して、午後になってからだった……。



 いったんの休憩後、生徒だけ講堂に戻って、学園生活のオリエンテーションを受けた。
 第2学園のカリキュラムは、日本の大学に近い。

 固定されたクラスで授業を受けるのではなく、自分の目指す方向に合わせた授業を選択する、単位制だ。

 1年時に必須の基礎科目は全員が受けるが、専門科目は選べる。

 例えば学術は経営学、歴史学、言語学など。
 武術なら剣技、槍、格闘技などなど多岐にわたる。
 また、魔法も攻撃系や支援系などに分類されている。


 基礎科目の授業は明日から開始されるが、専門科目は1か月後に開始されることから、それまでにどの専門科目を履修するのか決める必要があった。

「ルリ姉さまは何受けるんですか?」
 ミリアーヌの問い掛けだ。

「呼び方はルリ、ですからね。ミリア。
 私は戦いたい訳ではないですけど、冒険者でもあるので武術と魔法が中心になるかなぁ。
 いずれにしても、一通り基礎科目で受けてから決める予定だわ」

 政治や会社の経営に関わるつもりは無い。
 そう思っていたルリではあるが、アメイズ領の嫡女でもある事から、まったくの無関係とも言えず、決めかねていた。




 翌日。
 授業が始まる。
 最初は座学が多く、ルリ達は同じ教室で一緒になる事が多い。


 政治や経済の授業は、ルリにとっても、役立ち面白い内容だった。
 人心の掌握、処世術などは日本での生活にも通じるものがある。

 『おもてなし』の精神で生きてきたルリには少し残酷な側面もあるが、文化が違うのである。納得できる事柄も多くあった。


 メアリーが興味を持ったのは、商家の娘らしく経営と算術。
 計算の学問だ。

 ルリの知識で言えば、数学……いや算数。
 小学校低学年程度の内容で、あまりにもレベルが低かったのだが……。

(方程式とか出てこないのは助かるけどね……。
 もう少しレベル高くないと、商人とかやっていけないんじゃないかしら……)


 夜、商人の娘、メアリーに聞いてみた。
「ねぇ、掛け算とか割り算って、いつから習うの?
 みんなほとんど出来てないみたいだけど……」

「ん? 本格的に覚えるのは学園に入ってからじゃない?
 少しは知ってたけど、覚えきれてないわ。
 算術は難しいのよ。あれを理解しないと商人の道は厳しいのよね。
 がんばらなきゃ……」

(う~ん……。計算方法は日本と一緒なのよねぇ……。
 魔法とかの不可思議な力じゃないし、私でも教えられるかなぁ……)


 その日から、ルリによる算数の講習会が始まった。
 生徒はメアリーだけのはずだったが、ミリアとセイラも参加することになる。

「「「……にさんがろく……」」」
「「「……にしがはち……」」」
「「「……にごじゅう……」」」
 寮の部屋では、九九の音が響くようになった。

 日本式の算数の覚え方は、非常に分かりやすいのだ。
 3人の計算力が、みるみる上達した事は言うまでも無い。




 数々の授業の中で、セイラが最も興味を持ったのは医学だった。
 医学と言っても、日本の現代医学のようなものではない。

 回復魔法やポーションでどの程度の怪我が治るのかとか、ポーションがどんな薬草から作られるかなどの勉強だ。
 上級になると、魔法の効果を高める為の研究も行うらしい。


 セイラは、ミリアの護衛メイドとして、いざという時の為に医学を学ぼうと考えていた。

「ルリ? 医学って不思議だと思いませんか?
 私、奇跡を起こす学問だと思うのです……」

 確かに、魔法で怪我が治る様子は、奇跡にしか思えない光景である。

「それでセイラは、どんなことを学びたいのですか?」

「はい。回復魔法やポーションで傷を治す事は出来ますよね。
 それでも、後遺症が残る事があります……。
 それに、病気や毒は治りません。
 どんな時でも対応できるように、しっかりと学んでおきたいのです」

 セイラは真剣だった。ミリアーヌの為にできる事を学びたいという意志が、ひしひしと伝わってくる。


「セイラは、後遺症がなぜ起こるのかとか、知ってる?
 あとは、病気が治るときに身体の中で何が起こっているかとか……」

「ルリは何か知ってるの? 教えて欲しいわ」

 ルリに医者の様な知識は無い。
 それでも、身体の表面の傷が治っても神経に傷が残ったら後遺症になる事、内臓が弱ると病気になること、風邪にしても怪我にしても、最初に症状を診断して、適切に治療しないといけない事など、知っていることを話して聞かせた。


(この知識が魔法の効果にどういう影響を与えるのかは分からない。
 でも、魔法がイメージを形にするモノだというのなら、知識を知っているに越した事はないはずだわ……)

 日本に比べると、圧倒的に死が近くにある世界である。
 セイラは理解が早かった。
 学ぼうという強い思いがあったのも功を奏したのだろう。

「ルリ、また聞かせてもらえるかしら。
 どこか神髄に近づけた気がするの。少しずつ覚えていきたいわ」




 ミリアの興味は、もちろん魔法である。
 新しい魔法の習得に、毎日励んでいた。

 ルリは、この魔法の理屈が全く分からなかった。

(魔法の仕組みってのが、やっぱり一番、不思議よねぇ……。
 そもそも、何であんな呪文が必要なのかしら……)

 ルリの認識では、魔法はイメージ、想像力で効果が変わる。
 よくわからない文字列を唱えたところで、何も起こらないはずであった。


 ……と言う訳で、ルリは魔法の座学が嫌いだった。

「では魔法の詠唱を覚えるわよ!
 みなさん一緒に、せーのっ!!」

「「「……赤く燃え滾る想いよ力を為せ、原始の炎と成りて……」」」
「「「……天から流れる青き水よ、我が力と成りて……」」」

(何の羞恥プレイよこれ……)

 教師に合わせて呪文の詠唱を行う。
 これを復唱し覚えるのが、魔法の座学だった……。


 ある日、ルリはミリアに聞いてみる。
 あまりに基本的な事過ぎて、教師に聞くのを憚れていた内容だ。

「あの……魔法の詠唱って、どんな言葉で、どんな意味なの?」

「ルリ、そんなことも知らないの?
 詠唱文には、魔法の効果を高める暗号が込められているのよ。
 だからしっかりと唱えることで、高い威力が出せるの!」


 それがこの世界の常識だ……。
 魔法の本当の仕組みなど誰も分かっていない……。
 だから、正確に詠唱する事を魔法の正しい姿として認識しているのだ。


 ルリは考えていた。
 科学の概念がない世界で、どうやったら『火の燃焼』や、『水が氷る』原理、イメージを伝えられるのかと……。

(火が酸素で燃えるって言ってもねぇ、酸素ってどう説明するといいのかしら。
 そもそも見えないものなんて説明できないものね……)


「ミリア、ちょっとこれ触ってみて?」
 ルリは、掌の上に水球を出して、ミリアに触らせた。

「生活魔法の水球ウォーターですわね。変わったことは無いわ」

「それじゃぁこれは?」

「……熱っ!!」

 目の前の水球の温度を上げて、もう一度触らせると、ミリアが驚いた。

「何で……、詠唱していませんのに、水魔法の効果が変わりますの……?」



「次はねぇ……」

 驚くミリアを後目に、今度は温度を下げると、水球が氷になる。

「えぇぇぇぇ?」


「同じ魔法でも、使い方、というかイメージで、水がお湯になったり氷になったりするわ。
 詠唱とかしなくても、変化ができるってこと……」

「すごいわね。どうやってますの……?
 わたくしも覚えたいわ。教えてよ」

「うん、もちろん。そう思って見せたのだから……」


 酸素とか、燃焼とかを理解させる方法は、ルリには思いつかなかった。
 科学や化学の知識が全くない中で、目に見えないものを理解しようとしても、分からないだろう。

 それでも、水がお湯になったり氷になる事は、体験しやすいと思ったのだ。
 その現象を、魔力を通して伝えられれば、イメージの魔法を使えるのではないかと……。



「明日、魔法の練習、してみない?」

(炎とか雷とか、見てもらえばイメージ出来るようになるかも知れないしね……)



 この世界には存在しないはずの、科学の理論でイメージされる魔法が、今後どういった影響を与えるのか……。
 あるいは、オーバーテクノロジーとも言える知識が、どんな影響を与えるのか……。
 そんな事、ルリは考えていない。


 ……みんなにも便利に暮らして欲しいからね。

 私の知識、みんなに役立ってるね!
 その程度の認識で、知識の革命を起こしてしまっているのだった。
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